新品のスポンジが泥水を吸ったらしい。―純粋だった少女が恋愛と酒とセックスで変わっていくお話3―

前話: 新品のスポンジが泥水を吸ったらしい。―純粋だった少女が恋愛と酒とセックスで変わっていくお話2―

前回の続き。婚約破棄を四回経験したときのはなし(の一回目)。


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「ひとりでバーに来る女は狙い目」という都市伝説は、おそらく本当である。

バーはもちろん、お酒を飲む場所であるが、実は酒以外に、もうひとり主役がいる。「バーテンダー」だ。

居酒屋のような機械的な接客ではなく、プロのバーテンダーの、「その客」に合った臨機応変な対応……つまり、「気遣い」や「心遣い」のある接客は、商品と言っても過言ではないだろう。

バーは美味い酒と同等に、良い意味でも悪い意味でも、接客のプロであり、客が酒以外に何を求めているかを熟知している「バーテンダーの存在」が重要なのだ。


彼女は、その「接客のプロ」にまんまと心を読まれ、蜘蛛の巣に引っかかった獲物状態となった。


「何を飲まれますか?」「若いのにここに来るなんて珍しいですね」「そんなことがあったんですか……」「初めにジントニックを頼むあなたはプロですよ。次はいかがいたしましょう?」「ウィスキーですね。うちは一品物しか置いてないのですよ。色々と飲んでみますか?タダでいいですよ。でも、今日だけね」


そのバーを一人で切り盛りしていた40代の男性バーテンダーの発した言葉の数々。

傷心中の彼女の心にグングン染み込む内容ばかりであった。

しかも、ショットグラスで味見をした後、「うん」と一人で納得し、「こちらは?」「でしたら、これはどう?」など、彼女にその都度グラスを変え、次々とウィスキーを出してくる。




これは技もとい罠なのだ。

彼女がウブであり、状況が特殊だったから成立した可能性もあるが、この技の名は「エア・間接キス」(命名、私)。

この技を使う際に重要なのは、バーテンダーの例のように、酒を口に含んだ後、「うん(美味い)」などの言葉をワザと発し、「自分はこの酒を飲んだ」と示すこと。

そして、自分が飲んだグラスとは別のグラスで相手に飲ませること。

前者で「君のための味見だよ。だから、僕と君は一つのグラスで一緒に酒を飲んでいるのと同じようなものだ」と無意識のうちに感じさせ、後者で誠実な印象を相手に与える。

男性諸君には、一度試してもらいたい。ちなみに、その後の展開が上手くいかなくても一切責任は負いません。


……つつがなく「お酒デビュー」を果たした彼女は、二週間後にまたそのバーを訪れた。

常連さんであふれかえる店内。なぜか皆、彼女のことを知っていた。


常連「マスターがね、このあいだ凄くタイプの女の子が来た、って、ずっとはしゃいでたんだよ」

マスター「ちょっとちょっと××さん、それ言うのは反則ですよ!」


お前ら打ち合わせ済みだろ、と今ならツッコミを入れている展開。


その後、店内に人が誰もいなくなったとき、「付き合おう」と、彼女は告白された。

既に蜘蛛の巣に引っかかっていた彼女は、「バーテンダーさんも私のことを好きだったなんて……!」と、歓喜のあまり涙を流し、「はい」と即答。ちなみにその直後、くしゃみをして盛大に鼻水を出したらしい。「今まで生きてきて忘れたいと思った瞬間の第十位くらいですね」と、彼女は語ってくれた。


翌日。「君が大学を卒業したら結婚しよう。指輪を買にいこう。婚約指輪だ」と、半ば強制的にバーテンダーとの婚約成立。頭の中は、「?」状態だった。だが、彼女は幸せだった。


しかし、その日の夜に、事件が起こる。


その夜はバーが休みだったため、彼女はバーテンダーの家でご飯を食べていた。

二時間ほど経った頃であろうか。

「ドンドンドン!」とドアをたたく音が、幸せの最中にいる二人の空間に響き渡り、不穏な空気をもたらした。

「ちょっと待ってて」

……そう言ってバーテンダーが玄関のドアを開けたところ、鬼の形相で仁王立ちしている女性の姿が。


「ふーん。やっぱりその子かぁ」……何となく見たことある顔だなと思っていた彼女だが、先の女性のセリフで思い出した。その女性は、「付き合おう」と告白された日、常連で溢れかえる店内にいた、バーの常連の中の一人だったのである。


「ごめん、ちょっと話があるから、トイレにいて」と、彼女をトイレまで案内するバーテンダー。

しかし、トイレの場所は、玄関から居間に通じる廊下の途中に位置していた。


勝手に上り込もうとしていた女性と、廊下で鉢合わせした彼女。相当言葉に窮していたのか、困惑の極みだったのだろう。

彼女は言った。


「こんばんは!あなたもバーテンダーさんの彼女なんですか?偶然ですね!私もです!!」


鬼の形相になる女性。

彼女にそんなつもりはなかったと思うが、バカにされたと感じるのには充分すぎるほど酷いセリフである。

掴み合いの喧嘩になる前に、彼女を強引にトイレへ押し込んだバーテンダー。


バーテンダーは、彼女を抜きにして、女性と二人だけの深刻な話をするつもりだったのだろうが、話し合いの場であるリビングはトイレと壁ひとつ挟んだだけなので、会話の内容は彼女に丸聞こえだった。

で、どうやら当時は、その女性から彼女に乗りかえるまでの「のりしろ期間」であったことが判明。


「あんたは病的な浮気性だから、こうなると思ってた。さよなら」と、ひとしきりバーテンダーに罵詈雑言をまくし立ててスッキリしたのか、女性はあっさり帰って行った。


その直後、バーテンダーは何故か彼女に「居酒屋に行こう」と提案。

思考が完全にショートしており、酒を飲みながら「なんかあの人すごかったね」とテキトーなことを言いながら料理と酒をドンドン注文する彼女を見て、バーテンダーは「何で怒らないんだ。頭おかしいんじゃないか(と、今思っている)と一言。


当時の彼女は、ただニコニコしているだけだったが、今は「一発殴っておけばよかった」と後悔しているらしい。


そんなことがあったのに、彼女はバーテンダーとの交際を続ける選択をした。

バーテンダーが初めての彼氏だった彼女は、「一度浮気した男は、何度でも浮気する」という法則を知らなかったのだ。


その結果。半年後、彼女より20歳も年上のクラブのママとバーテンダーとの浮気が発覚。

普通なら、初めに女が乗り込んできた時点で婚約破棄するべきだったのだが、半年の間に、恋愛についての色々を多少理解した彼女は、ママとの浮気が分かった時点で婚約解消を決意。


これが一度目の婚約破棄である。


「彼は一度浮気をしたけど、謝ってくれたし、きっと誠実な人」という誤解から生まれた悲劇だった。

浮気をする男が誠実なわけがない。一度でも浮気されたら、相手とは手を切ろう。


■元婚約者2.家族愛にあふれた東工大生


(続く)


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