新品のスポンジが泥水を吸ったらしい。―純粋だった少女が恋愛と酒とセックスで変わっていくお話2―

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前回の続き。

エクスタシーとは多元的なものであるが、彼女はその意味を、「セックスをして得られる快感」だと解釈し(後に誤解だと知る)、こう思った。


「そういえば私まだ処女だった。…ということは、このまま一生処女の可能性もあるよね?それって、一生芸術が分からないということ?苦労して高い学費払って美大に入ったのに意味ないよ!酷過ぎる!!そういうのは先にオープンキャンパスで宣言しとくべきなんじゃないの!?」


オープンキャンパスで、高校生相手にエクスタシーだの何だのと、常識的に考えて、言えるわけがない。だが、当時は本気でそう思っていたので、よほど混乱していたのだろう。


彼女のように、混乱した人間は、何をするか分からない。

例えば、別れ話を持ち出した際、付き合っている間は大人しかった女性が

「別れるくらいなら死んでやる!」

と刃物を手に取ったとしても、頭がおかしいわけではなく、一部のマジモンを除けば、突然の別れ話に混乱してやってしまっただけなのだ。その証拠に、彼氏と別れた半年後には、たいてい別の男に「あなたが運命の人!」的なセリフを吐いている。


「許さない…私を捨てたこと、絶対に許さない…」と思い続ける女性も、いることにはいるが、殺されるまでのあいだは放っておけばよい。

殺されてからじゃ遅い?知るか!自分の色恋沙汰の後始末くらい自分でしろ!

……と、今の彼女なら言うだろう。しかし、当時の彼女なら、「その前に、どうやったら恋人ってできるの?」と逆に質問してくるであろう。

どっちにしろ、彼女は自分のことしか考えていない。最低である。こういう人間は、自分の興味ないことについては一ミリも脳みそを働かせないが、少しでも興味を持つと四六時中そのことについてだけ考え、そのことだけのために行動する。


教授の一言を聞いた後の彼女の関心事は「己の処女喪失」ただ一点だった。混乱して何をするか分からない状態に陥っていた彼女は、高校時代から憧れていた有名な評論家とのコンタクトに成功。

自分は処女であり、教授の一言に衝撃を覚え、このままでは一生芸術が理解できないのではないかと困惑している旨を相手に伝えた。

その後、赤坂のバーに連れて行かれ色々話をして、処女を喪失。


教授の一言を聞いて自分が処女であることを自覚してから初セックスに至るまでに要した日数、わずか一日。早すぎである。


おそらく、彼女のしたたかさと男性の性的欲求が化学反応を起こした結果だろう。


「私処女なんですけど、どうすれば処女喪失できますか?」なんて聞かれたら「こいつ…誘ってやがる!」と思うのは当然だ。もっとも、当時の彼女に誘っているつもりなど全くなかった。

似たような事例で、デートしてご飯食べた後に「ごちそう様です」と言ったら「こいつ…俺に奢らせるつもりでやがる!」と誤解されて険悪なムードになって結果別れたという話もある。



とにかく、彼女の処女喪失の件で分かったことは、人生において「誤解」は(ある意味)重要だ、ということだ。エクスタシーの意味の誤解、悩みを打ち明けた相手側の誤解、相談にのってくれるだけだと思って赤坂まで行った彼女の誤解…誤解によって様々な化学反応が起き、悲劇やら喜劇やらが発生する。

そして、連鎖するかのように、また新たな悲劇や喜劇が起こり、結果的に、「私と私の人生は、なんでこうなった?」ということになるのである。


……で、重要なのは、その後「芸術が分かるようになった」のかどうかだが……正直に言おう。分からない。


■元婚約者1.浮気性バーテンダー


とりあえず処女を喪失した彼女は、「なんだかよく分かんないけど、よく分かんないままでいいか」としか思ってなかった。ただ、それは行為に対してであって、相手に対してではない。

セックスをすると情が移るという話はよく聞く。彼女も例に漏れず、そうなったようだ。

尊敬や憧れといった感情は、簡単に言ってしまえば「好き」だということ…つまり、恋をしたときに抱く感情と酷似している。

男性側の「情が移る」という感覚への言及は、ここでは置いておくとして、女性の場合、元々尊敬していた相手と一刻でも親密な関係になれたのなら、「相手が自分を許容し対等な関係になれた」と誤解する可能性は高い。

その結果、相手のことを異性として意識する。


「評論家さんのことが好きです!」


後日、彼女は、誤解の賜物かもしれないが、相手にそう伝えた。


「君はお酒も似合わないし、というよりも実際に飲まないし、大人の女性の魅力がない。付き合うことは出来ない」


これが、相手の返事だった。


今でこそTwitterなどの媒体で「私はアル中だ」と公言しているうえ、周りからも酒乱やら酒豪やらと言われている彼女だが、21歳当時は全くお酒を飲まなかったのである。理由は簡単、「太るから」。つまり、意識的に飲まなかっただけで、体質の問題ではない。


また新たに絶望した彼女は、今でこそ悪名高い「食べログ」で見つけた、居住地から近く評価の高かった、とあるバーに足を踏み入れた。


(続く)



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