若年性脳梗塞になってみた その4 ~ 今日の社会科見学はHCUです 〜
さて、無事に夫と実家に連絡がいってしばらくの後にHCUの看護師さんが車いすでお迎えに来てくれました。
「はーいKaoさん、これから病棟に行きますね。申し訳ないけどHCUでは一切の電化製品が使えないので今のうちに携帯とか切ってくださいね。もしよければ私が切るけど大丈夫ですか?」
「あ。大丈夫です。もう切ってあります。」
看護師さんは優しく体を気遣いながら注意事項を述べてくれました。
「ん?あれ?あれ?」
突然看護師さんはキョロキョロしだしました。
「付き添いの方、いらっしゃらないんですか?もう着替え取りにいっちゃった?」
まあ、普通はそうですよね。こんな緊急入院&HCU行の患者一人で来るとは思いませんよね・・・(苦笑)
「・・・・え~~と、一人で来ちゃったんですよ(笑)」
「え!!まあとりあえず一人なら病棟に行きましょうか・・・」
やや驚いたままの看護師さん・・・
車いすに乗り処置室の看護師さんにお礼を言ってHCUへ。
HCUに行くその間に事情説明。
「いやー、昨日の昼にめまいを起こして耳鼻科行ったら『小脳梗塞かもね』って言われて『明日病院行けば』って言われたんですよ。で、来たら脳梗塞でびっくりしました。」
「え!もうその時点で救急車呼んでくれたらよかったのにね、その先生!」
やっぱり看護師さんもびっくりな対応であったようです(笑)
「で、今日夫は出張だったし、大きな病院は時間がかかるから側でイライラされても嫌だから『仕事行け』っていって一人で来ちゃったんですよ~」
とケラケラ笑ったら、しばらく看護師さんは無言。そのあと静かだけどすごい真剣な声で・・・
「Kaoさん、こういう時は救急車や家族を頼るべきなんですよ。そのために救急車はあるんです。家族もこういう時は患者さんが気を使ってはダメです。
甘えるべきところは甘えましょうね。」
と軽くお叱りをいただきました。まあおっしゃる通りですよね・・・
特に突然死などのリスクのある患者が一人で・・・なんて危険すぎたのです。タクシーの中で死んだ可能性もあったわけですから。
看護師さんの言葉に深く反省しました。
着々とHCUが近づいてきました。ICUやHCUがある階は手術室もある特別な階。近づくにつれ何だかおかしな精神状態になってくるKao・・・
久しぶりの大病、死ぬかもしれない状況、死ななくても後遺症が残るリスク・・・そして生まれて初めてのHCU・・・・
パニックを通り越してナチュラルハイになる私(なぜ?)
『社会科見学だ~これはでっかい社会科見学なんだ~~!やったーラッキー!
色々勉強できるぞ~~~!!!』
と心の中で叫ぶ私。今なら思う。パニックはともかくナチュラルハイになるのはどうかと(笑)
まあとりあえず予想外のことが起こると人は変な精神状態になるんだということは実体験しました。でもナチュラルハイは本当にどうなんだ自分・・・・orz
とうとう病棟につきました。ICUとHCUが入っている部屋はでっかい自動扉で隔てられています。
看護師さんは私の手に消毒をしてくれ、自分も消毒をします。
そして足を入れるセンサーで扉を開け、HCUに入りました。
そこは全く違う世界でした。
入った瞬間、ベッドに寝かせられ手には24時間の酸素濃度を管理する機械、胸にも24時間管理の心電図、腕には針が刺され点滴が始まりました。
点滴の中身は一つは血の塊、血栓を溶かす薬。もう一つは脳を保護する薬。これは24時間です。
そして数時間ごとにいれる血栓の溶かす強力な薬が時々点滴の仲間入りします。
もう寝返りどころか横向きも出来ません。
否応なしにこの病気で自分が「死と近い場所にいる」ということを初めて感じた瞬間でした。(遅すぎる)
さて前回もちょっと書きましたがICUとは「集中治療室」のこと。急性期の重篤な患者さんを高度な医療ケアをするための部屋で通常の病棟とは違い、ICU専属の医師が24時間待機、看護師が通常の病棟より多い、高度な医療機械(人工呼吸器などの他に例えば小型透析機、ベッドで撮れるレントゲンなど)がある部屋になります。
HCUはハイケアユニットといってICUと一般病棟の間、という位置づけですが私の入った病院では「ICUもHCUも同じ部屋の中で微妙に分かれている」程度でした。
つまりほとんどICUと同じ緊迫感がHCUにも流れています。
唯一の違いはICUは個室、HCUが大部屋みたいなもの・・・という感じでしょうか。大部屋みたいというのは広いスペースの中にベッドが並び、その間をカーテンで仕切っているだけ!という状態です。
つまり薄いカーテン一枚で外の音は丸聞こえ。
隣の患者さんのうめく声や機械の音、病的ないびきや静かにでも早足な医療スタッフの音が聞こえるまさに命の最前線。
そんな場所に入れられた無駄に元気な私(でも死の危険度かなり高い)。
パニックは最高潮を達しもはやハイテンションも最高潮。
そうでもしないとやっていられないくらい不安に押しつぶされそうな自分がいました。
なおHCU内にはテレビもありません。気を紛らわすものは何もないのです。
眠ろうにも電気は煌々とつき、落ち着くはずもない。
看護師さんの許可を得て、持ってきたバックの中の小説を読みなんとか平静を保とうとするも保てるはずもなく・・・
『お願い!!ここからだしてくれぇぇぇ!!!』
と叫びかかったところで担当医となる先生登場。
「Kaoさんですね、こんばんは。担当となる東山(仮名)です。」
少年隊の東山さんそっくりなイケメン医師でした(笑)
「今回は大変でしたね。後で詳しく画像でも説明しますが、あなたは今、脳の左側に約5~6センチ程度の梗塞が出来ています。このせいで手足の麻痺が出たようです。
血液検査では異常は全くなく、今のところ思い当たるのはあなたが飲んでいた薬です。
しかしこの薬が原因だと足の血管の梗塞が普通なのでこの薬が本当に原因なのか、それともまだわかっていない別の病気が原因なのかが判断が付きません。
なので通常の脳梗塞ではやらない検査もやることになります。
通常、脳梗塞では入院期間が3か月程度と言われていますがもしかすると原因疾患によってはもっと伸びるかもしれません。
不安でしょうが大丈夫。自分たちスタッフが全力でKaoさんのことを支えますからね!
とりあえずまだ体の中に血栓があるかもしれませんので可能な限りベッドに横になっていてください。トイレも看護師同伴でお願いします。
食事も水も絶食です。誤って肺に入ると大変なので・・・数日のことですから頑張りましょう!」
東山先生(仮名)はホントにヒガシ君のようにさわやかで熱血ないい先生のようです。
そう言って東山先生(仮)は処置室で女医さんがやった徒手検査(手でやる検査。触られていてわかりますか~とかをやります)や会話の検査(右利きは左脳に言語中枢があるので)をもう一度やり直しさわやかに去っていきました。
さて先生が言ってた薬とは何か。
それは低用量ピルでした。
実は私には他にも持病がありました。それは以前から生理痛がひどかったので夫との結婚前にブライダルチェック代わりに行った婦人科で判明した、卵巣嚢腫(チョコレートのう腫)と子宮内膜症です。
子宮内膜症もそれなりに悪く、特に卵巣嚢腫はかなり大きかったため手術かかなり強力なホルモン療法を勧められました。
ただいきなり手術も強力なホルモン療法(体を更年期にさせるので負担が大きい)を受けるのも逡巡してしまい、とりあえず弱めのホルモン療法である低用量ピルで様子を見ることにしました。
3か月飲んで、もし変わらなければ手術かその強力なホルモン療法にする約束で。
夫にも体のことは話しました。婚約時代だったので破棄も覚悟してたのですが、彼なりに調べてくれ「子どもとかとりあえず考えないでまずは体を第一にしよう!」と前向きに答えてくれ投薬が始まりました。
運がよかったのでしょうか?
「この大きさではピルでは効かないと思うよ。」とあまりピルの選択をしたがらなかった婦人科の医師が驚くほどよく効いてくれ、内膜症も卵巣嚢腫も手術をしなくていい大きさまで小さくなってくれました。
しかし治ったわけではないのでピルはそのまま飲み続けることに。
飲んでいる間は生理痛も軽く、もう少し二人の生活をしたかったこともあったので「ピルさまさまだなぁ」なんて考えていました。
そのピルが原因??確かにピルは血栓を作りやすい傾向はあるのはしっていました。でも煙草がリスクファクターで私は煙草は吸いません。(ぜんそく持ちだから)
またピルが原因での梗塞の多くは足です。なので足のむくみや痛みにはずっと気を付けていましたし、起こるときは薬を飲んで割と短期でそういった症状が起こるらしいのです。私はもう1年以上飲んでいましたからこれもまた一般的でなかったのです。
しかも血栓が脳にいくなんて医学的にもあまり考えられないことでした。(後から聞いたところこの大学病院でも初めての例だったそうで喧々諤々の論争だったそうです・・・)
とりあえずピルの服用はやめ、脳梗塞の治療に専念することになりました。
正直、その場は愕然としましたが今焦っても仕方がないことです。
とりあえず今は落ち着いて・・・落ち着いて・・・・落ち着いて・・・・・
この場所でおちつけるかぁぁぁぁ!!!!!
ピルだろうがなんだろうが原因はいいから私を落ち着かせてくれぇぇぇ!!!
まあ正直、私の本心はそんなもんでございました(笑)
その5に続く
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