時を超えるラブレター②
父はどうやら自分の命が絶たれる寸前まで、
僕がプレゼントした財布を大事に大事に使ってくれていたようだ。
中に見慣れないカードのようなものが入っていることに僕と母は気づく。
真っ白な2つ折りの、ちいさなカード。
何だろう?
僕も母も不思議に思って開いてみる。
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紀美弘さん
いつまでも初めて出逢った時の心を忘れないで、
私を愛してください!
鳳子より
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母は、わっと驚き、
そして涙を流した。
何とそれは、今から30年近く前のバレンタインの日に、
母が父に贈ったラブレターだったのです。
母は言う。
「あの人こんなものまだ取ってたん、もう。」
言葉ではそうは言ってたけど、
母はとてもうれしそうにその手紙を握りしめていた。
きっと、父にとって大事な宝物だったんだ。
30年の月日が流れた今でも、その手紙は傷ひとつなく、きれいなままだった。
そしてまた、この瞬間に、
なぜ母がこの広い世界でたったひとり父という人を選び、生涯を共にしてきたのかが、
すこしだけわかったような気がした。
それから僕はまた東京に戻った。
実家に母ひとりを置いてきてしまったため、
心配でしょうがなかったし、実家に戻ろうかとも考えた。
そんなある日、母と電話で話しているとき、母はこんなことを言った。
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あたしね、もうさびしくないよ。
毎日何をしてても、あの人を感じる。
朝起きてでかけるとき、あの人が明るく送り出してくれる。
疲れて帰ってきたとき、あたたかく迎えてくれる。
だから最近おうちに帰るのがすごく楽しみ。
あったかくて、とってもやさしい時間が流れる。
あたしは大丈夫。
何かあればきっとあの人が助けてくれるから!
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何故だかこのとき僕もすごく安心したのを覚えている。
東京でもうすこしだけ、がんばろう。
素直にそう思えました。
30年前のラブレターが、時を超えて今僕らを包みこんでくれた。
時間も、距離も、ましてや生死という概念さえも、
どうやらこの2人の邪魔はできないようだ。
互いを想う2人を見て、
僕はここに生まれてきたことを心から感謝した。
そして、感じた。
結婚っていいものなのかもしれないな、と。
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