セブのジュリアナ
薄暗い入り口を抜けると、眩しいフロア。正面にはDJブース。腹に4つ打ちのリズムが響く。
と、思いきや響かない。低音が弱い。
店内は、ダンスフロアー正面がDJブース。隣がドリンクカウンター。フロアーの両隣には階段式のソファー席が並ぶ。スピーカーを探すと、フロアーの四つ隅にクラブにしては小さめのが、上から吊るしてある。DJブースをのぞくと、モニターをみながら選曲している。デジタルターンテーブルだ。
かかっている音楽は、聞いた事ある洋楽ヒット曲のダンスMIX。
フロアーは、金曜日のせいか混みあっている。まだ12時前なのに。客層は、20代前半の語学学校の生徒が多く、ドレスアップしたフィリピーナが目立つ。コリアン、日本人、セブ人。欧米人はほぼいない。
ひと通り、ディスコ内をチェックして、みんながたむろしているソファー席に戻る。
誰が頼んだのが分からない、茶色いウォッカをショットグラスに注ぎ一息にあおると、いっちゃんが話しかけてきた。
「トミーさん、何してたんですか?ふらふらしてたでしょ」
「いや、ちょっとチェックをね。どういう造りになってるかとか、スピーカーの位置とかね」
「何か業者みたいですよ」
え?まずはクラブやライブハウスに初めて行った時って、チェックから入らないのか?何処が音いいのか、気にならないのかな。と思いながら2杯目のウォツカに手をだす。
すると大学生のユウサク君が、フィリピーナをつれて、にやにやしながら近づいてくる。
「お。ユウサク君、フィッシング成功?」
「トミーさん見て下さいよ。フロアで踊ってたら、ニッコって笑いかけられて、笑い返したらこの感じです。セブサイコーっす」
どうみてもゲイだが、外国マジックとクラブマッジク。二つの魔法にかかっているのだろう。無理も無い。魔法が解けない事を祈りながら「いや、流石っす。楽しんでるねセブを。羨ましいよ」と見送る。
「セブ留学してました」と言う旅人はそこそこいる。
旅の前に英語の勉強、ならセブでと。セブ留学を経験した日本人男子で「セブ、サイコー」と言う奴らは、ほぼジュリアナ好きだ。というのも、日本、韓国の留学生が数多く、ジュリアナにくるのでナンパしやすく、さらにフィリピーナの中には娼婦もまざってる。プロがが無償で一夜の愛を与えてくれたり、アマチュアが有償の恋を求めたりする。恋のダンスポール。
スピーカからは江南styleが流れている。フィリピンでもSPYは大人気らしく、ステージが盛り上がりをます。だんだん疲れてきたな。好みの音じゃないと大音量は体力を奪う。俺はSPY好きじゃないなと再確認し腕時計をみると、1時を過ぎていた。門限が2時だがらそろそろ帰らないとなと思っていると、香が話しかけてきた「トミーそろそろ帰らない?」
渡りに船だ。タクシーで学校まで帰る。タクシーの助手席から後ろの香と繭さんに話かける。
「ジュリアナ凄かったね。ジュリアナって言うだけあるよね。みんな抱き合ったり、キスしたり、いちゃいちゃしてたけど、みんな初対面でナンパなのかな?」
すると香が「あたしもキスしたよ」俺「え?」繭さんが「私も」と。
「ま、マジで?え、じゃあ伝説のおもち帰りとかもあったの?」
「は?何言ってんの?別にタイミングが合ってキスしただけよ、それ以上の事なんかないわよ」と香。
「トミーは何してたの?」繭さんの声が後ろから聞こえてくる。
ど、どうしよう。フロアーで、何処が音いいか確認してた時に、フィリピーナの足踏んで、シャレならんくらい怒られて、怖くなってフロアーに入れなくなった。それで、しかたなくウォッカ飲んでたとは言いずらい。俺にも見栄がある。けど外国って性、乱れてんな。若い女の子は、みんなそんなフランクな感じでキッスとかしちゃうのか?じゃ、じゃあ俺にもチャンスがあったのか?いやないぞ、そんな雰囲気全くながれてない。てか知らない女の子に、フロアーで話しかけたり、抱きついたりなんかできない。初対面だし、相手が不快に思う確率高くないか?リスキーだよな。しかもキッスってもっと大事にしたくないか?でも、初対面のクラブでキッスって憧れるな。映画みたい。それこそ、トゥナイト2で見た、ジュリアナみたいじゃん。
でも、実際にキッスしてる奴らはいるわけで。え?みんなどうやってんのさ。みんながみんなイケメンじゃなかったし、そこは強引にいっていいのか?
強引にいけば女の子達「素敵、男らしいわ。キスくらいならいいわよ」ってなるの?うわーもっとよく観察すれば良かった。と考えを巡らしてると「ねぇトミーは何してたの?」
とっさに口をついてでてきたのは「お、音聞いてた」
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