車いすテニスを追いかけ続けていたら、お正月からテレビに出ることになってしまった話

なにかの冗談かと思った

もしかしたら、ご覧になって気付いた方もいらっしゃるかもしれない。「これって『車いすテニスに出会って感激して、このスポーツを報道したいと思っていたら念願が叶って、気付けば世間に追い抜かれてた話』書いた人?」と思った人もいるかもしれない。……いや、いないか。

年末の足音も聞こえようかというころに、テレビ局から電話がかかってきた。「車いすテニスのK選手について、スタジオで話してもらいたいのですが、スケジュールは空いてますか?」と。冗談かと思った。

前年の春にも、有識者として名前を出されたことのある番組だったけれど、今度は名前だけでなくスタジオ収録に参加してもらいたいと言う。その日のスケジュールは空いていたのでOKしたけれど、その電話があった後、うんともすんとも言ってこない。中止になったのかな? やっぱり呼ばれないのかな? と疑い始めてしまった。本当に行かなくてはいけないのなら、私が留守の間の子守りのことも考えなくてはならないので、こちらから電話してみるとやはり収録に呼ばれるのは本決まりのようだった。

当日、VTRを流すので、それを見たうえでコメントがほしいと言われたのに、そのVTRが出来上がってこない。結局、収録本番で初めてVTRを見せられて、コメントをしなくてはならない事態になった。タレントさんたちからは、何を質問されるかも分からない、全てぶっつけ本番で、素人に何が言えるっていうんだよ!

ずっと悪い冗談のようにしか思えなくて、当日テレビ局の前まで行っても、「本当に収録するのかな?」と思っていた。受付に行って名前を伝えると、ちゃんと入館証のようなものが用意されていた。

指定された階に行くと、「出演者用ロビー」みたいなものがあって、掲示板に何か張り出されていて、よく見ると楽屋の見取り図のようだった。私の名前もあった。キョロキョロしていると、男性に声を掛けられて楽屋に案内された。私の名前が楽屋の入口横に張り出してある。テレビで見たことある、アレに私の名前が書いてあった。ニヤニヤと、笑いが止まらない。


私、なんでこんなところにいるんだろう??

楽屋に閉じ込められて、閉じ込めてるわけではないと思うけれど、楽屋の外に出てもすることもないので、ひとりでポツンと座っているしかなかった。ディレクターと打ち合わせがあるからと、収録開始の1時間半前に楽屋入りしたのに、ディレクターが打ち合わせに現れたのは本番30分前だった。結局、VTRも見せてもらえなかった。

「もうすぐ本番だから、スタジオへ」と案内されて、いきなりセットのいすに座らされて、隣の人と話をしていいのかどうかも分からず。しばらくして、タレントさんたちが入ってきた。ああー、見たことあるーという印象しかなかった。

本番が始まって、ただただずっと座っていろんなVTRを見ているだけだった。車いすテニスのVTRが流れて、その後に話を振られることになっていた。タレントさんたちが私のほうを見て質問してくる。2時間近く黙って座っていて、最大瞬間風速的に一気に話をするという感じだった。瞬間的に全精力を使い果たして、クタクタだった。それからまた黙って座って、残りの時間を過ごした。その場にいるはずなんだけれど、本当のことと思えなかった。周りの現実離れしたセットのせいかもしれないけれど。結局最初から最後まで、「私、なんでこんなところにいるんだろう??」と思っていた。

収録を終えた後、一年分の疲れが出たくらいにヘトヘトに疲れた。ああ言えばよかった、こう言えばよかったと、後悔ばかりだった。話したいことに十分の一も話せなかった。家に帰って寝床に入っても、何度も何度も自分の言ったことを思い返してしまって、眠れなかった。


出演時間は数秒

昨夜、その放送があった。

自分の姿なんて見たくなかったけど、見てみた。すっごいたくさん話して、でも話そうと思ったのに話せないこともあって、後悔したりしていたのに、そういうもの全部カットされていた。笑った。ほんの数秒しか話してなかった。当日見たVTRも、随分短く編集されてしまっていた。ああ、そんなものなんだな、と思った。時間に限りもあるものね。

それにしても、私のコメントは必要あったのか? と、ついつい思ってしまう。タレントさんたちも、いっぱいしゃべっていたのに、全部カットされていたし、もしかしたら別の日に改めて放映するのかな? と思ってしまうくらいだった。

車いすテニスとK選手が注目されるなら、なんでもします! という感じなので、私の出番なんて数秒でも何でもいいのだけれど、でもせっかく取り上げてくれるなら、もう少し掘り下げてもらいたいなあ。

それにしても、本当に貴重な経験ができたので、当分の間はネタになるから、まあいいか。

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