あなたの話を演じます~人生は大きな物語~
皆さんは,プレイバックシアターという言葉を知っていますか。
たぶん,ほとんどの人は知らない言葉だと思います。
私は,今はやっていませんが,去年までプレイバックシアターをしている劇団に所属していました。
皆さんにある日,プレイバックシアターと書かれたチラシが届いたとします。
誰でもご参加ください,と書いたチラシ。
どうも芝居のようなものらしいので,皆さんは試しにちょっとのぞいてみようと思います。
会場に来てみると,芝居でよくあるような舞台はなくて,普通の会議室みたいなところです。
観客席が横に並べられており,会場にはたくさんの楽器がおいてあり、側にはカラフルな布が何枚もかけられています。
席に座って待っていると,どうも始まったらしく奥の方から人が出てきました。
部屋が暗くもならないし,音もしません。
「皆さん,こんにちは。プレイバックシアターへようこそ。
これは,皆さんから始まる即興劇です。私はコンダクターをつとめます。皆さんのお話を演じるのは,ここに並んでいるアクターとミュージシャンたちです。それでは,始めましょう。
どなたか,お話のある方はいらっしゃいますか。」
そう言って,観客席の方に目を向けます。
(え,お話?何か話をするの?)
そう皆さんが思っている間に,観客席のどこかから手が上がります。
コンダクターと名乗っていた人が,手を挙げた人を促します。
「えーと,先週の話なんですが,実は娘の誕生日だったんです。仕事を急いで終わらせて,プレゼントを提げて帰宅したときの娘の顔がとても嬉しそうで,本当に良かったなあと思いました。そんな話を見てみたいです」
「そうですか。娘さんの嬉しそうな顔を,それでは見てみましょう」
コンダクターがそういうと,アクターと呼ばれた人たちがいつの間にか立っていて,音楽が鳴り始めて,アクターの一人が動き出して・・・・・。
そんな風にプレイバックシアターは続いていきます。
どうですか。何か不思議ですかね。
プレイバックシアターは,台本のない即興劇です。台本の代わりに観客からその場でお話をいただきます。
演技者たちはその場でそのお話を演じます。つまりプレイバックする(演じ返す)のです。話によっては布のような小道具も使います。
なぜプレイバックシアターをするのでしょう。お芝居になるような面白いお話をするのならともかく,自分の話なんてしてもらって何がいいのでしょうか,そんな風に皆さんは思われるかもしれません。
私はこう思っています。
皆さんの人生は,それぞれひとつの大きな物語です。
その中にまた、たくさんの物語があります。すぐに忘れられるような物語もあれば,一生かけて何度も思い出すような物語もあります。
そして,その全てがとても貴重です。
皆さんにも大切な物語がそれぞれあるでしょう。その物語を言葉にすること,プレイバックすることで,その物語は輝きを取り戻したり,それまでと違う輝きを放ったりします。
私はプレイバックシアターの中でたくさん見てきました。
自分の思い出ともう一度出会ったり,決別したりする中で,笑顔になったり,涙を流したりする人たち。そんな人たちは,プレイバックシアターが終わるとき,印象がちょっと変わって見えます。
それは,自分の物語の中に,はっきりと自分がそこにいる,ということを実感したから,と私は思っています。過去の自分を感じ,他者とのつながりを感じ,今の自分がいることを感じる。
プレイバックシアター自体が,何か人に与えるような知識を持っているわけではありません。価値はそこに集まった人たちの,人生の物語にあります。大切な物語をそれぞれで分かち合います。
どうして即興で演じられるのか。
プレイバックシアターの話をすると,時々聴かれます。
私がうまく演じられているかどうかは,よくわかりません。ただ一点だけいつも思うのは,無心でやること,それだけです。たくさんの物語を,演じることで自分も体感できることは,とても嬉しいことです。
昔のあの人に出会いたい,今の自分がはっきりわからない,思い出をもう一度味わいたい。。
そんな人たちは,是非プレイバックシアターに参加してみてください。もちろん,単なる冷やかしでも大歓迎です。
皆さんが必ず話す必要はありません。でも,ちょっと話してみたら,本当に意外な体感ができるかもしれません。
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