やくざを泣かせた5歳の息子の話


こころ を すまして みてごらん

はな は はな として うつくしく

あなた は あなた として うつくしい

ただ それだけのこと が いとおしい


あれは暑い夏の日のお昼過ぎ・・・

いつものように、2歳の娘を連れて息子の幼稚園へお迎えに行った帰り道。


「アイスクリーム、食べようか?」


暑かったので、三人で駅前のベンチに腰掛けて、アイスクリームを食べることにした。

そんな日常の一場面。

もし、あのやくざが駅の階段を降りて来なければ、ただの忘れ去られた日になっただろう。


その男は、顔に大きな刀傷があり、みるからにやくざだとわかるチンピラ風。

昼間から酒の臭いをプンプンさせていた。

ぐでんぐでんに酔っぱらっていたその男は、私の息子のすぐ横に座った。


男はふっと顔をあげると、座った目で私の息子をじーっと見つめた。


私はドキドキしてきた。


まさかこんな幼い子どもには手を出したりはしないだろうけど、

でも、こんな泥酔状態じゃ、普通の精神状態じゃないだろうし。


どうしよう!


私は心の中でつぶやいた。


なにもなかったように、アイスクリームを食べ続けてはいたが

もう味などわからなかった。


男は5歳の息子の肩に手を置いた。


やばい・・・

どうしよう・・・


へたに席をたったら、何をするかわからないし。


しかし・・・男は凶暴ではなさそうだ。

5歳の息子を相手にくだを巻き始めた。


やくざ
おめえはいいよなあ、まだ子どもだからよ。

わかんねえだろうけどよ。

おれの女がいなくなっちまってよお。


そうりゃあ、わからないにきまってる!

そんなことで子どもをうらやましがるな!


と突っ込みたかったが・・・

どうも男は女にふられたらしかった。


よっぽど惚れていたのだろうか。

それからも、ぐちぐちと女のことを話し続けた。


息子は何を言われているのか、チンプンカンプン。

ただ黙って横でアイスクリームを食べ続けている。


すると、何を想ったのか、やおら男は懐から財布を取り出して千円札を出した。


やくざ
「おめえは、いい子だなあ。
 
 ほれ、小遣いやるよ」


そういうと、男は息子に千円札を息子に渡したのだ。


話を聴いてくれたカウンセリング料とでもいうのか??

まあ、酔っぱらっている勢いだろうけど・・・


私はヒヤヒヤだった。


息子に返すように言おうか、迷った。

私が、結構です、などと言ったら逆上するかもしれない。


ぴったりつくように、男は息子の横に座っている。


へたなことは言えない。

どうしよう・・・


そう想った時だった。


息子はそのお金を男から受け取ると、そのベンチのすぐ後ろにあった花屋へ走っていった。

至近距離であったし、男は大声で話していたから、

当然、花屋の店員も様子を伺っていたのだろう。


息子
お花ください

息子がそういって千円を出すと、花屋の店員は、さっと無言で明るい黄色の花束を渡した。

その花束を受け取ると、息子はまた走って男のところへ行った。


息子
はい。おじちゃん、お花。


その男は一瞬、びっくりしたように息子を見つめた。

なにが起きたのか、分からない様子だった。


男は、しばらく呆然と差し出された花束を見つめていたが、

無言でその花束を受け取ると、コンクリートの地面に崩れ落ちて泣き出した。


男は花束を抱いたまま、号泣していた。


そこで私は子どもたち二人をかかえるようにして、そっとそこから去った。


その男の泣き声を背中で聴きながら・・・。


その時、私は思った。


大人の私は、その男を酔っ払いのやくざとしか見ていなかった。

でも、幼い子供の目には、その男は、ただの心を痛めている可哀想な人として映っていただけ。


心をすませ

心の目で世界を観ると

表面にある怖れを超え

その奥にある本質がみえてくる。


5歳の子供に教えてもらったことでした。


三つ子の魂百まで・・・


息子は今でも、困っている人がいると、手を差し伸べる人間に育ちました。

それは、私の育て方ではなくて、きっと授かりものなのでしょう。


こころをすます

素晴らしい教えを、ありがとう♡


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