大学時代の恩師に久しぶりにあった話
東南アジア某国の初代大統領の孫娘であり、現役国会議員であるという人物が母校の大学を訪れるということになって、この方の歓迎レセプションに呼ばれたので参加した。東南アジア最大の人口を誇るこの国のカリスマ的な指導者の孫娘だけあって、スピーチセンスは抜群。この点はこの家系の遺伝子だろうか。
このレセプションに誘ってくださった恩師にも久しぶりに会う。相変わらず精力的に活動されているご様子。当時の学生20歳、恩師50歳は、40歳の中年と70歳の老人?となっていて、時間の流れに戸惑うやら辟易するやら。
恩師は相変わらず「マツイ君、カバン探してくれ」とか「ちょっと荷物見ていてくれ」だの人遣いが荒い。レセプションのお手伝いをしている現役学生20歳もあれやこれやと忙しく立ち回っている。
「何やってるんだね、早くこっちに来なさいよ!」
恩師が、昔と変わらない調子でまくし立てる。お元気だなあと思い、最近は体調を崩されているということだが、この様子では当分は大丈夫だなあと思う。
「おい、マツイ君!さっさと名刺出しなさいよ!」
恩師が手招きする。恩師に歩み寄ると、彼は現在の学長ほか大学経営陣の一人一人に、すっかり白くなった頭を丁寧に下げてこう言った。
「彼は、わが校のOBながら(僕の出身大学は有名校ではない)本当に頑張って道を切り開いています。ぜひ彼を応援してあげてください。」
本当に人遣いが荒い人だが、ああ、やっぱり恩師だなあと思った。
これまで、出身大学のこと、学歴のことで評価を受けたり、悔しい思いをしたりしたこともある。その反対にそんなことを全く気にせずに「僕」という人間を応援し、引き上げてくれた人もいる。
あんまり成功している人生とは言えないけど、今まで何とかやってこられたのは、この恩師に限らず、このように僕を応援してくれた人たちのおかげだと思う。僕を評価してくれた人たちのためにもそれに値する人間でありたい(と少なくとも今は思っている)。
この恩師とは学生時代、インドネシア津々浦々を共に旅し、いろんなことを見て、そして学んだ。皮肉たっぷりの口調で容赦ない批判を浴びせる恩師に向かって、必死に論戦を挑んだ。そして、容赦なく論破された。
こうして今、恩師はすっかり白髪となった頭を僕のために下げて回ってくれている。この試みがうまくいく可能性はものすごく低いと思うけど、もちろん恩師もそれをわかった上で、何回も何回も丁寧に頭を下げる。
本当にありがたかった。「足を向けて寝られない人」というのは、たぶんこういう人のことを言うのだと思う。
「マツイ君、駅までカバン持ってちょうだい~」
レセプション終了後、そう言って恩師はどんどん駅のほうに向かって歩いていく。僕はごろごろと恩師のキャリーバックを引っ張ってその背中を追った。
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