渋谷のホームレスの人たちと、まちをつなぐ小さな図書館をつくった話 第二話

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宮下公園のすぐ近くのその場所を仕切っているリーダーはケンさんと呼ばれている。年は30半ばくらいだろうか?ケンさんはお洒落だ。スーツと帽子を合わせて胸にはブローチがついている。とてもホームレスには見えない。かつてケンさんは宮大工をしていたそうだ。



そんなケンさんが「本棚をつくりたい」というので私は近くの東急ハンズで材料を買いに行った。何種類もの板があったが、その中でも安くて「ストリート」のイメージにあった木目の荒々しい針葉樹合板を購入し、その板を店員の人に切ってもらった。ケンさんは足が悪いのでその身体に負担をかけたくないし、機械で切るほうが早いうえに安い。材料費は全部で6000円かからなかった。



私は丁寧に梱包された材料を両手に持ち、その場所へ向かった。「重っ・・・」さすがに畳一枚ほどの大きさの板を一枚づつ両手に持つのはこたえる。それでも何度か休みながらも運ぶしかなかった。タクシーを使えば楽だったが使う気がしなかった。タワーレコードの前を通ると大きなスクリーンに有名なミュージシャンが映りそこには人だかりが出来ていた。そこを通り抜けるのには苦労した。まるで大きな荷物を持っている自分が悪いかのような目がいくつも向けられた。



「お待たせ!遅くなってごめん!」私は両手の荷物の重さなど何でもないというような素振りでリーダーのケンさんにあいさつをした。ケンさんはまつ毛の長いそのやさしい瞳を丸くして「おお!」と嬉しさと驚きを混ぜ合わせた声で迎えてくれた。「重かったやろ?」とケンさんが言うものの私は「いやいや全然大丈夫!」と強がりを言った。切った材料をどこに使うのかについての説明をするために図面を持っていたが、その手が震えていたのはケンさんにはバレていただろう。でもケンさんはそれについて冷やかすこともなく、真剣な顔つきで私の説明を聞いていた。



「今つくっちゃおう」ケンさんはそう言った。私としても、早く本棚を実現させてみたいという気持ちが冷めぬうちに作業にとりかかりたかった。「流れを逃さない」というのはとても重要であることを私は知っていた。この勢いにのって手を動かせばぜったいに良い物ができる。私はそう直感した。だから即答で「やろう!」と言った。



さすが元職人だけあって、手早く板を組み立てていく。ケンさんは考えない。身体が過去の記憶をたよりに動いているようだった。私もできるだけケンさんの手助けをした。常にケンさんが次に何をするかを読み、例えば金づちが必要になる前にケンさんの手の届くところに金づちを置いておくようにした。「トン、トン、トン・・」釘を打つ音が渋谷の夜の街に響いていた。



その釘を打つ音が「パチパチパチ」と歓声と拍手に変わった。「やったなあ」「お疲れ!」「これは目立つね」と周りにいた仲間たちがねぎらった。「いいのができたな」途中から様子を見に来ていたホームレスのおじいちゃんがそう言った。自分で作ってもいないのにも関わらず、おじいちゃんの顔がめっちゃ嬉しそうだった。私はそのおじいちゃんの嬉しそうな顔が見たときに全ての疲れが吹き飛んだ。



こうして渋谷のこのへんぴな場所に一つの小さな本棚が立ち上がった。まちをつなぐ小さな図書館が少しづつ出来ていく。







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