ワンコインランチに思う。

今ではすっかり定着したワンコインランチ。

これを考えた人はすごい。学生やサラリーマンのお財布の救世主である。


何年か前のことになるが、ママたちのランチの幹事になったことがあった。

ちよっと改まった昼食会という趣旨のランチだったので、ゆっくり落ち着けて美味しいお店がいいかなと色々考えた。

そして7名分の座席を確保するべく、馴染みのお店に連絡したのである。


「uniさん、1000円の予算ならステーキに刺身に小鉢に茶碗蒸しなんかもつけて出せるよ〜。」


お店の大将がそういうのならと、
「じゃ、1000円のでお願い!」
そう言って予約したのだった。


たまたまその電話のやり取りを横で聞いていた母が言った。


「ねぇ、uniちゃん。ママさんたちのランチに1000円って大丈夫?」


「えっ?1000円でステーキに刺身に茶碗蒸しやら付くのに。安くない?」


「いや、悪いこと言わへんわ。1人800円にしときなさい。」


800円のランチなら文句は出ないが、1000円超えるランチになるとしんどい人もいると母は言ったのだった。


ここで、「たかが200円」と思うか、「200円も高い」と思うか。


この感覚は人それぞれなわけである。


家計が厳しい中でも、お付き合いのランチをたまにはしておこうと考えている人もいるかもしれない。

それをちゃんと頭に置いておくのは大切なことだよと母は私に言ったのだった。


今は退職したが、私は長年フルタイムで仕事をしていて、娘2人を保育所に預けながらの育児だった。

ちょうどワーキングマザーという言葉が雑誌やネットに登場しだした頃である。

よって、家で懸命にやりくりしたり、思い通りにならない一番手がかかる時期の子どものお世話に一日中追われる子育ても経験していなかった。子育ての半分は保育園の先生方が助けてくださった。


皆が自分と同じ感覚だと思うことは大変な驕りであり、失礼なことだという、そんな当たり前のことさえ当時はわかっていなかったのである。


「えー。もう1000円ランチ予約してもたし。じゃ800円ずつ集金して端数のお金は私が支払うようにするわ。」


そんなこんなで当日を迎えたのである。


「わぁ~!すごい豪華‼︎嬉しい‼︎」

みんながそう言ってくれたので、ホッとした。美味しくいただき楽しい時間を過ごした。


会計するときになって「じゃ、1人800円ね。」と言うと、私以外の5人のママが1000円札を一枚出した。

たぶんそうなると思っていたので、お釣りの100円玉をたくさん用意していたのだった。

ところが1人のママが100円玉を一枚ずつ出して8枚の100円玉を私に渡しながら言ったのだ。


「あぁよかった…。足りてよかった!」


この時本当に私は自分の配慮の無さを恥じた。

母の言ったことは間違いではなかったと思った。

さらに言えば当日までに電話かメールで「明日のランチは1人800円です。」とひと言連絡しておけば、当日「足らないかもしれない。」と不安になる人は出なかったはずである。


働き、自分の収入がある母親は経済的に自由であり、おしゃれもできるし、息抜きの一杯をすることもオシャレなお店で2000円払って食べるランチも特に痛い出費ではない。


勤務時間が長く子どもに接する時間が短いと、子どものことをより可愛く感じるし「別にあそこまで怒ることもないのになぁ。」などと、よそのお母さんが小さな子どもを叱ったりイライラしたりする姿を見て無責任に言ったりもしてしまう。私がそうだった。

しかし、皆がそうではない。
経済的に困窮し、生活するのが精一杯という環境の中で、手のかかる子どもと四六時中部屋に閉じ込められているように感じている人もいるかもしれないし、800円のランチは高いと感じる人だっているかもしれない。

そういうことを気にもとめず、悪気なしに放つ自分の言葉や態度が人を不快にしたり傷つけることだってある。

仕事ができる人が良い母親だとは限らないし、仕事はできないが良い母親だというわけでもない。

良い母親は有職、無職に限らず、どちらの立場であろうと存在するが、子育てだけでなく、生活にも疲れ切ってしまい、良い母親ではいられなくなる人がいるのも現実である。

母親に経済力があることは素晴らしいことだし、幸せなことだと思う。
しかし、様々な立場の人がいることを忘れてはいけないということである。


「たかが200円」と思うなかれ。


この出来事はその後の私の金銭感覚を正常に戻すきっかけになった。

それから数年後、1000円ランチを食べたそのお店は、500円ランチの看板を上げた。

ワンコインで安心して美味しく楽しい時間を提供して貰えること。

ワンコインランチは頑張るすべての人の胃袋を平等に満たしてくれる、心の栄養価も高い最高の「おもてなしメシ」である。

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