初めて「自営業です」と名乗った日

私はフリーライターなので、事業を始めるにあたっての初期投資は、ほとんど要らなかった。だから、税務署に開業届と青色申告の届出を郵送で行ったのみで自営業生活をスタートした。

あまり流行に左右されない服を好み、のんびりとした性格で、実家の祖母とともに長い時間を過ごしていた私は、改めて「フリーライターです」と名乗るのが気恥ずかしく、なんとなく誰にも言わずにいた。

こんな私が、初めて自営業を名乗ることになったのは、信用金庫のキャッシュカードにロックがかかってしまったこと(暗証番号入力を3度続けてミスしたため)がきっかけ。渉外の方が、我が家の積立金の集金に来てくださった際、キャッシュカードの再発行をお願いしたのだ。

再発行の依頼書の職業欄に「自営」と書いたら、担当者さんは大変驚いた。

「え、自営? あ、自営?」
「はい」
「え? どこで何を営業されているんですか?」
「あの、フリーライターでして、ここ(実家)が事務所なんです」
「あ! おばあちゃんのお世話をするために、家にいてはるんじゃ?」
「それも、あるんですけど。。。」
「知ってたら、色々、ご案内できたのに」
「ご、ご案内!?」

「いや、でも、僕、文章を書いて仕事をされている人って、初めて会いましたよ」
「そんな、か、かなり、恥ずかしいんですが(笑)」

キャッシュカードは滞りなく再発行された。
そして担当者さんは、色々な情報を持ってきて下さるようになった。

国民年金基金、自営業者が加入できる共済、投資信託に関するセミナー開催……

担当者さんは、ご商売でそういった情報を持ってきてくれるのは、十分分かっている。でも、私が名乗らなければ、担当者さんは情報を持ってきてくれない。

実際、担当者さんにいただいた情報を、自身の仕事に役立てることができた場面も多々ある。

恥ずかしくても「名乗る」のも仕事のうちだと、実感させられた出来事だった。

著者の河野 陽炎さんに人生相談を申込む

著者の河野 陽炎さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。