放送部のマドンナと、放課後の屋上
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>人を騙し、
あざ笑う行為が、
心底嫌いになった日のことは、
昨日のことのように鮮明に覚えている。
小学校五年生のときに、
惚れ込んだ女の子がいた。
彼女は放送部のマドンナで、
昼休みに入ると、
彼女の声が校内に響き渡る。
「みなさん!お昼休憩となりました!」
彼女の声が聞こえてくると、
僕の心臓は暴れはじめる。
平常心を保つことができない。
トイレに駆け込んだ。
放送が終わると、
教室に戻り、
フゥ〜と一息ついて、
何事もなかったような顔をしてみるものの、
まわりのみんなは、
ニヤニヤヒソヒソしていた。
そんなある日のこと、
彼女に声をかけられた。
正しく言えば、
彼女とその友人たちに、
声をかけられた。
「放課後、屋上にきて」
彼女の友人のひとりが、
僕に向かってそう言った。
彼女は笑みを浮かべていた。
僕は期待した。
ものすんごーーーーーく期待した。
それからの授業は、
三倍速で過ぎていった。
あっという間に放課後になり、
僕は期待に胸を膨らませて、
屋上までの階段を、
一段一段、
浮つく心をどうにか押さえつけながら上がった。
屋上の扉の前で、
深呼吸をした。
これから何が起こるのか、
全く想像がつかない。
ほころぶ顔を引き締め、
扉を開けると、
彼女とその友人たちがいた。
屋上に足を踏み入れる。
ふと人の気配に気づくと、
そこには男子が数人いた。
なぜだろうと不思議に思いながらも、
手招きする彼女たちの方へと足を進めた。
一歩一歩、
彼女に近づいていくにつれて、
胸の鼓動が早くなる。
そしていよいよ、
手を伸ばせば届く距離に、
大好きな放送部のマドンナがいる。
僕の心臓は、
極限まで弾けた。
踊り狂っていた。
声が裏返らないように、
著者のみよし けんたろうさんに人生相談を申込む
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