突然の母の死

ー母が亡くなって15年が経つ。

あの日、僕は小学校の校庭で漠然とした『違和感』を感じ取った。

『嫌な予感がする…』

体育の授業中にバレーボールのコートで、クラスメイトとボールを追いかけているときだった。突然、その瞬間は訪れた。

校庭の片隅で僕たちを見守るくすのきの表情は、いつもと違う気がした。吹く風は重たく、冷たかった。この不思議な感覚は、あとに何も起こらなければ二度と思い出すこともなかったはずだった。

放課後、友達と「また明日!」と別れ、僕は普段と変わらない通学路を歩いて帰っていた。幼馴染たっくんの家の前を通り過ぎ、次の角を曲がれば家に着く。あの『違和感』は、なくなっていた。

生まれ育った家庭は、典型的なサラリーマン家庭だった。父は仕事に忙しく、早朝に家を出て夜遅く僕が寝る頃に帰ってくる。母は専業主婦。2つ上の姉と5つ下の弟がいて、姉は中学2年になり、弟はこの春に小学校へ入学した。

夏休みには家族でキャンプにも出かけた。キャンプ場まで車で移動する道のりは、兄弟でレンタルしたアニメを観る。キャンプ場に着くと、みんなでテントを張り、海で泳ぎ、カレーをつくって食べて、テントでぎゅうぎゅうになって眠る。ランタンの明かりの温もりは、安心した眠りを誘う。

たまには外食もした。誕生日には近所のファミレスに行き、使い慣れないナイフで厚めのステーキを切って頬張り、濃厚なコーンスープを飲む。他愛ない話が繰り広げられるなか、つまらなくなって僕は静かになっていく。すると、母は「せっかく外に食べに来てるのに!」と叱ってくる。

ごくごく変哲もない家庭で、周りと何も変わらない日常が繰り返されていた。

「まぁくん!今は家に入ったらアカン!」

呼び止めたのは、家の向かいで車の修理工場を営む、幼馴染のお母さん『タケのおばちゃん』だった。

『え?何かあったん?』

そう思っていると、おばちゃんは僕の肩に手を置いて泣きそうな顔をしていた。

「お母さんが、大変なことに…。」

気さくなタケのおばちゃんは、口数が少なく、無言で僕を修理工場の事務所へ連れて行った。

『また、おかん、何かやらかしたんかな』

そのくらいのことしか、僕は考えていなかった。でも、二階の事務所まで階段を登るに連れて、あの『違和感』が再びやってきた。

そこには、弟がいた。小学1年の春を迎えたが、早生まれで身体もまだ小さかった。

弟は、無表情だった。僕は、弟に聞いた。

「おかん、どないしたん?」

弟は表情を変えなかったが、出てきた言葉は、小さな身体で受け止めきれていない重さがあった。

「…死んでた。」

一言だけだった。

僕と弟はしばらくした後に家に入ることができたが、それまで何をしていたのか、何を考えていたのか、全く覚えていない。あの『違和感』が想像を絶する形で現実として目の前にあらわれ、頭の中は『真っ白』、心の中は『真っ黒』になっていた。

僕の母は、自宅で死んでいた。

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