フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第30話

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前話: フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第29話

上等な酒をジャンジャン飲み、酔って騒いだ。


私の横には、シンヤというホストが座っていた。

私より1つ年上の23歳、当時まだ入店して間もなかった。

最初こそ指名していなかったが

店のナンバーワンホストに、指名してよと

うるさくせがまれるのが面倒くさいので

あえて他のホストを指名した。それが彼だ。

ナンバーワンの男は売れっ子ならではの

鼻に付く態度が好きになれなかった。


シンヤは今の店の前でもホストをしていたらしいが

ホストには珍しい硬派なところがあった。

見た目は典型的なチャラくてナルシストっぽいホストだが

結構、正義ぶったことを熱く語ったりする。

ホストとしては珍しいタイプだった。

ナナたちの指名している

イケメンだが頭の中が空っぽのホスト達と馬鹿騒ぎするのを

眺めているのも面白いが

ホストのくせに純粋ぶったことを言うシンヤも

ある意味面白いと思った。


もともと私はホストなど露にも特別な感情など

抱いたことなどなかった。

ただの退屈しのぎ以外何もない。

または、男達を酔わせて楽しませた後で

逆に同じ性である男性に接客される側に回るのは

気持ちの良いことではある

ただ、それだけのことだった。


彼らが女を金ヅルとしか見ていないことは

ホステスの自分にはあまりにも見え透いていたからだ。


シンヤは時々、私に向かってシリアスな顔で

俺、本当はホストなんかやめたかったとか

ホストらしくないことを言った。

そうなんだ、あなたって確かに他のホストと違うかも

と、ホステスっぽい口調で返してあげた。



シンヤは、さらにこんなことを言った。

オレ、君と出会って、心入れ替えようと思えたんだ…


ま〜た始まったと私は心の中半分ウンザリ呟く。

そういう新手の売り込みなのか

そういうキャラなのか


いずれにしても、私と同じ

所詮はホストに身を落としたんじゃない

潔く認めればいいのに




そういう時、ナナは深読みもせずシンヤは杏ちゃんにゾッコン

などとからかって笑ったが、ナナの隣に座るホストが

時々忌々しそうにシンヤをチラチラ見ているのに

私はちゃんと気づいていた。



聞けば私に指名されたことで新人のくせに

生意気な奴と目をつけられているそうだった。


ホストにもホストの苦労があるんだろう。



誰かが誰かを騙し

お金が行き交う


どこまでが本当でどこまでが嘘なのか


境界線のない世界



それが私たちの住む世界だ。





シンヤがちょっと改まったような声で言った。



「ねえ、杏ちゃん。来週店休みだからご飯でも行かない?

  杏ちゃんが店跳ねたらさ。すっごく美味い店あるんだ。

  いつものお礼に ご馳走させてよ」


どうせホストに行くなら

外でシンヤと遊ぶのも悪くないと思った。



「いいよ。そのかわり絶対美味しいとこね!」


「マジ!?やった!!」



本当に嬉しそうにガッツポーズを取るシンヤ。

実はこの人ヤリ手かも、意外と…

私は、そう思いながらその姿を見つめていた。



この時はまだ、この後

シンヤとの間に起こる出来事を

予想だにもしなかった。


人生は一寸先に何が待っているか分からない。

喜びも悲しみも

直面した時

または通過してから


全て思い知ることなのだ。




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