ホームレスと交際0日婚をした私がやっと見つけた幸せの形 ③私が結婚を決断するまで

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私は、たまのぶの何事も包み隠さず(素人童貞である事すらも)話す姿勢が好きになっていた。もう少し正確にいうなら、「彼」のその姿勢が私には少しまぶしかった。彼は私には持っていないものを持ち、明らかに自分の人生を楽しくしていた。

私と彼はお互いに地元で行き詰まり、東京に出て来て出会ったのだが、生きる姿勢はだいぶ違っていた。

出会って5日後、私たちは初めて電話をした。かけたのは私の方からだった。私はお互いの距離を縮めようと思ったのだ。そこで、こんな感じの話をした。

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私は名古屋の外れの団地で生まれ、真面目な中学時代を過ごした。ちゃんとした恋をしたのは、ようやく高校になってからだった。

ユキくん。

夜なのに地元の友達と公園に行き、ピクニックごっこをした時にたまたま出会った彼は、隣の高校に通う、少し出っ歯で身長170cmの同学年の男の子だった。

ユキくんとの一番の思い出は、どうしても指輪をあげたい、ユキくんが言ってきた事だ。

私は指輪をしないから指輪じゃなくていいよ、といったのだけど、ユキくんはどうしてもあげたいといって、シルバーの指輪をはめてくれた。

ユキくんはきっと、私がユキくんのものであるという印が欲しくて指輪をくれたのだと思うけど、それから私は左手の薬指に指輪をするようになった。その指輪は今でも実家のどこかにしまってある。

あと覚えているのは、私の下手くそな手作りケーキを一生懸命最後まで食べてくれた事。

ユキくんの事は好きだったけど、私が病気になり、しばらく会えなくなった事がキッカケで、私の方から別れを切り出してしまった。

その後、病気も良くなりファッションの専門学校を卒業し、私は服飾デザイナーとして働いた。仕事は服のデザイン画を描き、パタンナーと呼ばれる服の設計図を描く人に指示をし、工場で実際に服が作れるよう監修する事だった。

肩書はとても格好いいし、実際、私は懸命に働いた。けど、マンツーマンの徒弟制度の中で、先輩の少し度を越した「指導」に私はついけいけず、やることなす事けなされ、何をやっても怖くなり、声が出なくなった。

人事が気を遣ってくれて、部署を変わった。でも私は次第に会社を休むようになった。

私は精神を病んでいた。

ついに会社に行けなくなり、アパートに引篭るようになった。部屋の中で独りでリンゴをかじって、当時つきあっていた医大生の卵の彼氏には、心配させないように、会社にいってるフリをしてメッセージを送っていた。

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今、通話記録を見返すと33分12秒も話をしていた事になっている。たまのぶは、よくこんな話につきあってくれたなぁ。こんな話をされている時、彼はどんな気持ちだったのだろうか。

あと、この時に話したのは、2人でチームを組もうという事だった。

元々は、私があまりちゃんと働けないので、誰かに養われたいから結婚したい、という話をしたのだった。正確に言えば、生活が苦しいし、悩んでいるし、病気もあるし、困ってるから結婚したいんだという話をした。

実はこの少し前、同じような話を別の年下の男の子にして、見事に振られていたのだけど、たまのぶの返答は少し違った。

「オレは養う事はできないけど、一緒に頑張る事はできるよ」

私はその言葉を聞いて、少し考えが変わった。たまのぶの言葉を聞いて、私は少し前向きになれたのだ。

「一緒に頑張るっていいな」

私の中で、そんな小さな感情が芽生えて、それから私たちは2人でチームを組んで一緒に小商いをして、1年ぐらいかけて2人で月に20万円ぐらい稼げるようになったらいいな、と話が盛り上がって、

「じゃあ、それだけ稼げるようになったら、結婚しようか」

と私が提案したら、

「いいねぇ」

という感じで話が決まった。チームを組む話がいつの間にか結婚をする話になっていた。たまのぶの方も人生の中で一度は結婚をしてみたかったかららしい。

「じゃあ、どうせ結婚するなら今してもいいんじゃない?」

「いいねぇ」

という具合に、まったく軽いノリで私たちはすぐに結婚する事になった。

深く考えてはいなかったが、いい加減なのではない。軽いノリで行動できる相手に出会えたという事が、私にとっても彼にとっても得難い奇跡だったのだ。

弱小の2人が、マイナスばかり持っていると思っていた2人が、出会ってまだ5日しか経っていなくて1度もデートした事のない2人が、世界にたった1組しかない最高のチームを作ってお互いにプラスを与え合う、それが私たちの結婚だと思った。

電話を切ったあとよく分からない高揚感だけがずっと残っていた。よく分からないけど、よく分からない幸せがどこからやってくるのだと思っていた。

そしてこの1ヵ月後、私たちは本当に交際ゼロ日婚をするのである。

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