クラスの平和を守っていた話
そしてわたしは、いよいよ先生から厚い信頼を得ました。
A子はわたしのことが大好きでした。
その後もわたしは、小学校、中学校と同じように、バランスを取り続けました。
オタクもギャルもみんな仲のいい、良いクラスだったと思います。A子も、いじめられることはありませんでした。わたしのおかげなんだよ、と馬鹿だから一人で思っていました。
事件は卒業式の前の学校集会で起きました。
各クラスで一名ずつ、大儀をなしたものを表彰する、ということがありました。
大会で良い成績をおさめたもの、クラスの委員長として、とりまとめていたもの、いろんなひとが名前を呼ばれ、表彰されました。
うちのクラスは、あろうことか、わたしでした。
理由は、クラスの平和を守っていたからでした。
一応先生から、表彰するから、という話は聞いていましたが、内容は知りませんでした。
なぜ表彰されたのか、理解して、泣きました。
うれしかったからではありません。
申し訳なかったからです。
なんてことをしていたんだろうと思いました。
わたしは、今まで、クラスで孤立する子たちの孤独を道具に、自分の地位を、評価を、ただあげ、そしてその結果が、表彰です。
それまでの人生の記憶が急に徒党を組んで、あれもこれもとわたしを責めだしました。
誰かに本当の意味で寄り添うことはせず、ただ嫌われたくないという恐怖のためにバランスを取っていた毎日。「あなただけが友達だよ。」という手紙、「あなたがいるから学校に来れる」という言葉、わたしのことが大好きなA子。その重みを受け止めることもせず、痛みを知ることもせず、表面でだけ取り繕って、いろんな人からお礼を言われ、それで今、なんだこの紙は、と。
初めて自覚した瞬間でした。
涙が止まりませんでした。
待ち望んでいたはずの褒美に、強烈なアッパーを食らったのです。
高校を卒業して、バランスを取るのはここぞというときだけにしました。
うそをついて人と付き合いたくないと思ったからです。
ちなみに先生は、泣いている私は、感激しているんだと思ったようでした。
クラスでもう一度、読み上げてくれました。本当に、生徒思いの良い先生なんです。わたしのピエロが上手すぎたんですね。
私の話は以上です。
案外、なんの変哲もないエピソードだったかもしれません。
おそらく、理由はそれぞれ、世の中にはたくさんのバランサーがいると思います。
世の中のバランサーのみなさん、本当にお疲れ様です。
バランサーは、バランスをとっていることをばれてはいけないので、きっとその観点で普段褒められることはないと思います。だからわたしが褒めます。よく頑張っていますね。
バランスをとっていることがばれると、気の強く優しい誰かが、なんとかしようとしてくれちゃうんですよね。誰かに物を申したりとかね。それが嫌なのでバランスとっているんですけどね。わたしも、どうするのが正解なのかはわかりません。
バランスをとれるくらいだから多分タフなのかなと思います。たまには息抜きしてくださいね。
あと、わたしと同じような理由でバランスを取っている人は、今すぐやめたほうが身のためです。やめましょう。案外嫌われないと思います。嘘です、責任はとれません。
そして最後に、バランサーの存在を暴露してしまい、大変申し訳ございませんでした。
各々なんとかしてください。
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