最愛なる吉野先生へ 初めまして編

「先生。」
吉野先生の事を初めてこう呼んだのは今から約18年前の事。吉野先生は学校や保育園の先生ではなく、児童養護施設の職員として初めて会った。
私の「担当」と名乗る児童相談所の職員と吉野先生との間に挟まり、僅か7歳という年齢でこの世の全てを拒否し、怯えた目で大人を見ている。
緑のつなぎのおじさんがお話してる。私静かにしてた方がいいのかな。
「男の人は嫌いだ…。なんで緑のつなぎをきたおじさんがいるのかな?というかここどこ?今日からここで過ごすんだよね?
"みくちゃん、いちねんたったらおむかえいくからね"
お母さんは学童保育のお泊まりバージョンの所って言ってたけど…。1年経ったら迎え来るよって。それまでお母さんと離れて暮らす。寂しい。でも、頑張るしかない。」
「みくちゃん、ではおじさんここでさよならね。おじさん、またここに遊び来るね。これからはおじさんの事安倍さんって呼んでくれたら嬉しいな。」
「あべさん、さようなら。」
「みくちゃん、初めまして。」
「はじめまして…。」
柔和な笑顔で、穏やかに女性の職員が私に話しかける。
「吉野です。今日からここで他のお友達と一緒に暮らすよ。今から行く所は"あすなろ"っていうグループなんだけど…みくちゃん、お友達と仲良く出来る?」
「できる!!」
「そっか。ここでは女性の職員を"お姉さん"って呼ぶから、吉野お姉さんって呼んでくれるかな?」
「わかった。男の人はなんて呼ぶの…?私、男の人は嫌いだよ?お父さん、すぐお母さんの事いつも殴ったり怒鳴ったりしてお母さんいじめるんだもん…。」
「お兄さんって呼んでね。学校の先生とこの施設の先生の事どっちも"先生"って呼んだら混乱するから。」
「うん。」
「お腹空いた?」
「うん!!」
「じゃあ夕飯の時間だから、ご飯食べよう。その前に、こっちおいで。」
手を握って引き連れられた場所は、中高生や小学生の子供たちが20人位テーブルにきちんと座って食事を待ってる。
「まるで学校の給食の時間だな…。」
「はい、みんなこっちみてー!!」
吉野お姉さんの部屋の隅々まで通る明るい一声でその場に居たあすなろのメンバーの視線が一気に集まる。
「今日からここで一緒に暮らす事になりました。高橋未来ちゃんです。ほら、未来、挨拶。」
「たかはしみくです。よろしくお願いしますっ」
挨拶をしても返事は来ない。ああ、新人がきた。いつものことか…。と静まり返っているのを星の彼方へ流し込むように
「仲良くしてあげてね。さ、未来ここに座って、ご飯食べよう。」と吉野お姉さんが畳み掛ける。
目の前には栄養が考えられた美味しそうな食事が並ぶ。
「みんな手を合わせて」
「いただきます。」
「いただきます。」
この掛け声を皮切りにみんなが出された食事を口に運ぶ。食器を使う音だけが響く。しかし、団欒して食べるというかは静かに食べるという雰囲気。
「あんた、みくって言うんだ。」
静寂を破るように、ぶっきらぼうに話しかけてきた一人の大きなお姉さんがいた。。
「未来。珍しい名前だね。」
「うん!!」
「ここでは年上には"はい"なんだよ!!!小学生だろうがかんけーねーんだよ!!あたしは高校生なの!!
敬語!!年上に話しかける時は全部け・い・ご!!!すぐに見につけろや!!!馬鹿なの?」
「はい…。」
花ものすごい剣幕でまくし立てる花奈と名乗る女子高生。
「ケチャップだれ使ってる?」
「はい!!ここにあります!!」
「京子。貸して。」
「投げていいから。ケチャップ。」
「はい!!」
宙にまうケチャップ。着地した場所は他のメンバーの味噌汁の中に無残にも入り汁が飛ぶ。
「お前、味噌汁飛んだじゃねーーーか!!服汚れたし!!てめぇ、何してくれるんだよ」
「すみませんでした!!」
ここで暮らすのには年上には絶対敬語。
京子って呼ばれている6年生くらいの少し大きなお姉さん。
ひたすら謝っている。
ここは児童養護施設「遠州寮」
各それぞれ家庭に複雑な事情を抱えた子供たちが過ごす場所。元々は戦争の孤児院の人達が暮らしてた場所。
あすなろで暮らすのは、とても厳しい。

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