《5話》最愛の母を亡くすまでの最期の時間 〜1歳児の子育てをしながらがんセンターに通った日々〜
思い返してみたら、母と最後に2人並んで歩いたのは無菌室病棟で「少しでも運動しなくちゃね。」と点滴を引っ張りながら2人並んで洗濯機まで往復したそれだった。
転倒して少しでも打撲などすれば、内出血がひどくなり命も危ないことが分かるからしっかり母を支えて。
それを悲しい時間と捉えることもできるけど、
本当に楽しくて温かくて幸せな時間だった。
動けなくなってからは食べ物もずっとろくに食べられないまま、
最後に食べたのは苺一粒。
たった一粒食べるのにどれだけ時間がかかるのか…
その一粒にみんなで喜んだ。
きっと父が母のために少しでも食べて欲しいと買ってきた苺だから母もがんばって食べたのだと思う。
亡くなる2日前にはオレンジを絞ってあげたジュースを一口飲んで「おいしー!」ってすごい笑っていて。
その母があまりに可愛くておちゃめで、そこに居合わせることが出来たことが心から嬉しかった。
その次の日から母は目を閉じ、ただ呼吸をしているだけだった。
呼びかけても反応がなく、眠りについて長い夢を見ているそんな表情をしていた。
近くにある
「当たり前のようで当たり前じゃないこと」に感謝ばかりが溢れてくる。
朝気持ちよく目覚められること
好きな人が近くにいてくれること
会いたいときに会えること
お腹が空くこと
食べ物の味が分かって美味しいねと分かち合えること
健康にトイレに行きたくなること
行きたい場所にいつでも行けること
学べること
私や私の家族を心配したり想ったりしてくれる人がいること
沢山動いてほどよく疲れること
休める場所があること
いつでも連絡がとれること
温かい布団に眠りにつけること
娘の成長を見て行けること
大切な人の寝顔や笑顔が見れること
あげたらキリがない。
これも1つ1つ全部が奇跡であり、
有り難いことなんだと分かっていたのに。。
どうして意識してはまた忘れてしまうんだろうと...
母の姿にまた改めて気付かされる。。
そんな自分に虚しくなった。
母旅立ちの日へ、つづく。
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