ファイナンス入門 (26) IPOならずICOとは

企業が成長していって資金需要を満たすために行われるのが株式公開、英語ではInitial Public Offeringという。株式を市場に上場して資金調達をする。これに対して昨今ICOと呼ばれる資金調達方法が盛んになって来ており、わが国ではベンチャーキャピタルからの資金調達金額を超えたとも聞く。

ICOとはInitial Coin Offeringの略。

IPOが株による資金調達であるのに対して、ICOは企業が独自の仮想通貨を発行して資金調達をする。

株式の新規公開の場合、投資家を保護するために厳しい規制がある。

引受証券会社や上場する市場による審査の他に投資家宛の情報開示が求められる、その為に大変な時間とコストがかかる。

一方で仮想通貨は通貨の様に国や中央銀行が発行してその価値を保証するものではない。

ビットコインを始めとする仮想通貨の広まりに対応する為にわが国では資金決済法を改正して、仮想コインの取引業者を登録制として規制を掛けることとしたが、そこでは仮想通貨を「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」又は「不特定の者を相手方として相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」と定義している。

ここに仮想通貨の機能として謳われているのは、物品の購入手段としての仮想通貨とそれ自体を売買の対象とする仮想通貨。

前者はクラウドファンディングの際に出資金で、その後に開発される製品を購入できる点で共通点がある。

後者は仮想通貨自身が売買の対象となるのであるが、その価値の裏付けは何になるのであろうか。

株式の場合、収益に応じて配当金が貰えたり、会社が解散した場合に残った財産を配分される権利や、株式総会に参加したり、株主代表訴訟の様に一定の会社の運営に関与することができる。

会社の収益が上がったり、有望な新製品の開発に成功すれば株価は上がっていく。

ところが仮想通貨にはこの様な株主としての権利が無く、その観点での価値の計算は不可能。

そうなると中世のヨーロッパで起こったチューリップの球根バブルと一緒。

みんなが価格が上がると思えば価格が上がるが、ある日突然その熱気が冷めると、なんでこんな球根一個に家一軒もの金を払っているんだと、一気に価値がなくなる。

かつて株価を市場における美人投票だと断じていた経済学者がいたが正にそれと同じ。

そしてその熱気の元になっているのが、いい加減な事業計画だったり、夢の様な新製品の開発であれば下げ幅も速度も速くなる。

規制は市場の活力を削ぐとの意見もあるが、せめて資金調達の目的である資金使途の正確さ、資金調達者の存続の継続性を担保する背策を講じないことには、悪意のある資金調達者による市場そのものへの信頼を失う様な事態に早晩なろう。



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