一輪車の少年

著者: 竹崎 泰永
朝、太陽の匂いがまだ新しく、小鳥のさえずりなんかも聞こえてくる。



農家だった家庭は僕よりも早く1日が始まっていた。
キッチンから包丁の音が聞こえている。

僕が食卓に就く頃には食事が並んでいて、
それをそそくさと口に運ぶ。
お決まりの挨拶「行ってきます」と同時に僕の足は一歩を踏み出していた。
黒く少し年期の入ってきたランドセルは
今日1日の物語りが詰め込まれて、走って体が揺れる度にカタカタ音をたてている。

家から学校までは約1キロ。小学4年生の体には少し長く感じていたのだが、
道の先に目的があると、その距離は半分以下に思えてくるから不思議だ。
使い古された学校への道は太陽の光に包まれて
まるで僕を導いてくれるかのような感覚が僕を襲った。
まだ誰もいない学校というのを経験した事があるだろうか?
朝もやが立ち込めていて校庭は神秘的な輝きを放っていた。
これが僕の世界だ!なんて小学校4年生なりに素晴らしい勘違いをしながら
さっそくお目当ての場所へと足を運んだ。

渡り廊下には10台程の一輪車が並んでいる。

その中でも満足な空気圧の一輪車を選んで校庭へと急いだ。
いつしか立ち乗りも出来るようになった自分の中での優越感と共に、僕の世界を走り出した。
誰にも邪魔される事もなく、まるで踊るように夢中で一輪車をこいだ。
跳んだり跳ねたり 曲がったり真っすぐだったり
まるでサーカスのショーでもやっているかのような気分だった。
こんなにも世界は輝いていて
こんなにも世界は楽しいんだと体全部で感じていた。
心全部で感じていた。










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