フジコは血統書なきゴールデンレトリバー

愛犬フジコは血統書なきゴールデンレトリバー。コネを頼って地元のブリーダーから松阪牛一キロと引き換えに貰い受けた。僕に似て怠惰な性格であり、決して忠誠心があるとも思えなかったが、愛嬌だけは抜群だった。

フジコはボール遊びが好きだった。空き地でリードから解放し、ボールを投げかけると喜んで走っていった。幼犬時代には、喜びすぎて走り出した途端に足をくじき、大急ぎで獣医に運び込んだこともあった。

水泳も好きだった。川辺から疾走して見境なく飛び込む。ある春先、フジコがあわててブルブルと震えながら岸に上がってきたことがあった。想像以上に水が冷たかったらしい。それからは飛び込む前に、まず前足の先を少しだけ入れ水温を計った。

フジコはよく笑った。時々、僕とふざけているとフジコの歯が手にあたることがあった。

「痛っ」

僕が思わず手を挙げると、フジコはしまったというように神妙な顔をする。手を降ろすと、ほっとしたようににこりと笑う。

成犬になってからは、慢性的に血行が悪かったのか、電気ストーブのすぐ前に丸くなり、燃えそうに熱くなってじっと暖をとった。

フジコが危うい状態に陥ったとき、いつも救急処置に快く応じてくれた獣医は休診だった。ほかの獣医を探したがとても混み合っていた。不運が重なった。肌寒い軒下に立ったまま、フジコと僕は診察をしてもらえるときを待った。

初冬の夕映えが赤く鮮烈だった。急激に冷え込んだ。

フジコが僕を見上げて、いつもより小さくにこりと笑ったように見えた。そして、静かにその場にうずくまった。

八年間、一緒に暮らした。

「フジコには癒されたなあ。フジコがおらんかったら夫婦喧嘩ばっかりしとったかもしれんし、子供もできんかったかもしれん」

妻が待望の第一子を抱いて言う。

フジコの最後の笑顔は、僕に家族を意識させるとても大きなメッセージとなっている。

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