世の中の癌と呼ばれて 第2回

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でも、そのときは手を出されなかった。

その代わり、

母親
生きてたの。死ねばよかったのに、いつまで迷惑かけるの?

その一言だった。

結局、自分の居場所はどこにもない。

きっと自分が家出をしても、死んでも、この人たちは自分のことはどうでもいいと思っているのだと、はっきりと分かった。


だから、僕はその日から、家に帰らない日々が始まった。


そして、ある人とであった。


地元では少し有名な、いわゆる不良


夜中歩いているところ、話しかけられ、


不良
そっか。お前も俺と同じだな。

その日、その不良の家に寝泊りする事になった。

いわゆる恐喝とか、かつあげとか、そんな事はしない不良だった。

する事といえば、ただバイクで走って、喧嘩して、タバコを吸って、お酒を飲んで、眠くなったときに寝る。

自堕落な生活だった。


でも、面白かった。

その不良といると、守ってくれた。

友達に紹介してくれた。


その友達がまた面白かった。

誰も僕に手を出す人はいなかった。


僕が家で暴力を受けている事、自分は周りのいじめてくるやつとは違うと思った事、真剣に話を聞いてくれた。

もし今度またお前に手を出してきたときは、俺が守ってやる

初めて自分を守ってくれる人とであった。


それが嬉しくて、僕は久しぶりに人前で笑う事ができた。

というより、日本に来てはじめて笑ったときかもしれない。


直に気持ちを出せる人がいることを知っただけでも、自分が幸せなんだと感じる事ができた。



それも長くは続かなかった。


その不良は、暴走行為と無免許運転で捕まって、鑑別所に行ってしまった。


少年院に行ったことも後から聞いた。


その不良の仲間という事で、警察に連れてかれ、親に知らされ、家に連れてかれた。


そして、前にもまして、暴力は強くなっていった。


包丁を突きつけられ、

母親
殺すよ

そう脅されるようにもなった。


僕が夜中寝ていると、仕事のストレスと客からの愚痴とでいらだつ父親は、寝ている僕を起こし、殴った。

お酒が入ると、それはもっとひどくなった。


僕は学校に行かなくなり、日がな一日家に閉じ込められた。


母親は食事も作ってくれず、外食や宅配ファストフードを頼み、僕にはくれなかった。


そのときの僕の食事といったら、コーヒーに入れる粉末のミルク

シュガーポットの中の砂糖をなめたり、水道水しかなかった。


父親が休みの日には、パチンコ屋に連れて行かれることばかりだった。


朝早くに出て、閉店までいた。


ご飯もなく、喉も渇き、それを伝えに言っても、何も買ってもらえなかった。


勝つと機嫌が良かった。


その日だけは暴力はなかった。


でも負けると、僕のせいにされた。


母親
あんたがいるから勝てない。あんたは疫病神だ


そんな八つ当たりで、日に日に僕は身体もぼろぼろになっていった。

鉄パイプで殴られるようになり、食事なんか忘れてしまうほど出される事もなくなり、空腹と、体中の痛みとで意識もなくなりかけていた。



その年の冬


空腹と寒さで、僕は限界を迎えていた。


部屋のふすまは閉められ、親はストーブで温まり、僕は凍える部屋で一人震える事しかできなかった。


服もろくに買ってもらえなかった。


家が貧乏というわけではなかった。裕福でもなかったけど、普通の生活は遅れる家庭だった。


ただ、暴力があっただけ。


今振り返ると、そう思う。


そんな冬のある日、僕はふすまを開け、

お母さん、お腹すいた。寒い

そう言うと、父親にふすまを閉められた。

そのとき指が挟まり、怪我をして、血が出た。

ティッシュがなかったから、その場にあったタオルで指を拭いた。


しばらくして母親が来て、

何でそんなことしてるの

怒鳴られた。


父親が来て

何でいつもお母さんにそうやって迷惑ばっかりかけるんだ

父親にも殴られ、そして反省をしろとのことで、寒い雪の積もる外に出された。




僕が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

腕には点滴の針が刺さり、お医者さんがいた。


その隣には親がいた。


医者が

こんな事二度としないで下さい

という言葉に、泣いていた母親がいた。


その後知ったところによると、僕は雪の中倒れて高熱を出していたところを、近所の方が救急車を呼び、病院まで運んでくれた事。

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