ライブハウスは、みんなの毎日を彩る場所。音楽ライブ配信プラットフォーム「Qumomee(クモミー)」を開発。TOOSがオンライン活用やDXで目指す、ライブハウスがもっと愛される社会
2020年、多くの企業が変化を求められました。なかでもライブハウスは、大きな正念場に立つこととなった業種の1つです。
東京都内で7店舗のライブハウスとクラブを運営するTOOS CORPORATION(以下、TOOS)もまた、創業から25年、最大の危機を迎えることとなりました。
TOOS統括マネージャー星野秀彰(以下、星野)は言います。
星野「僕たちの仕事は、密をつくること。それがゼロになるというのは、売上がゼロになることです。店の営業を止めてしまえば食べていくことができません。
でも、他業種の多くが自粛されているなか、自分たちは感染拡大を防ぐために何もできていない。それどころか、悪影響を及ぼしてしまう可能性さえある。そんな葛藤が、ずっとありました」
新型コロナウイルス感染症が日本で蔓延し始めた、2020年3月。客足が遠退くなかで営業を続けつつも「休業しなければならない」という気持ちは募りました。
そして、4月・5月の休業を決定。その間にTOOSでは、ライブをオンライン配信するためのウェブプラットフォームを開発することになります。
Qumomee(クモミー)と名付けた配信プラットフォームは、2020年6月のスタートから現在まで、1500組以上が利用。高画質映像、臨場感あるカメラワーク、ライブハウスならではのきめ細やかな音響・照明・演出による配信で、高い支持をいただいています。
しかし、決して、開発するための潤沢な資金があったわけでも、知識や技術が豊富だったわけでも、ありません。
そんなQumomeeの開発秘話から、ライブハウスの存在意義や“もっと多くの人にライブハウスを身近に感じてもらいたい”というTOOSの想いをお伝えします。
■たとえ困難でも、楽しみを届け続けたい。音楽ライブ配信プラットフォーム開発経緯
今年、ライブハウスやクラブはニュースでも度々取り上げられ、一気に注目と批判を浴びることとなりました。TOOSの店舗も休業を決定。しかし、社員にもアルバイトスタッフにも、存続を諦める人はいませんでした。
星野「店舗運営の代わりに何で稼ぐか?を、ずっと考えていたんです。まずは、ドリンクチケットの前売りやグッズ販売サイト制作を始めました。その流れから、配信プラットフォームQumomeeを開発・運営するに至りました」
配信プラットフォームの開発は、容易なものではありません。少なくともTOOSには、ウェブ制作経験者やエンジニアが在籍しているわけではありません。
未経験ながらグッズ販売サイトを立ち上げたメンバーが、配信プラットフォーム開発にも志願しました。
TOOSのライブハウス 調布「Cross」店長 高木敬介(以下、高木)・下北沢「HALF」店長 中村公亮(以下、中村)・下北沢「BASEMENTBAR」「THREE」副店長 服部健司(以下、服部)の3名です。
高木「系列店のなかでもCrossは、他社プラットフォームを借りて早めに配信を始めていました。そのとき、配信に詳しい友人にいろいろ教えてもらったり、アプリ開発をしている人たちに相談するなかで、きっと自社プラットフォームをつくれると感じたんです。
普段からPC を使って音楽をつくっていることも大きかったですね。
でも、明確な根拠はありませんでした。だけど、できないと言ってしまえばできない。なんでもやってみようっていうのは、TOOSの良い社風なんです」
服部「僕は、まずグッズ販売サイトを自社でつくったからこそ、Qumomeeができたと思っています。そもそもは、ゆくゆく配信プラットフォームをつくろうだなんて考えていなかったのですが、ECサイト制作を通して開発・操作方法を学んでいたんです」
コロナ禍、グッズ販売をする際にはクラウドファンディングを実施する企業が急増しました。しかし、TOOSでは自社でECサイトをつくることに。
中村「クラウドファンディングは素晴らしい仕組みです。でも“助けてもらう”という印象が強いですよね。僕たちはエンターテイメントを届けて、お客さんに楽しみを提供するのが仕事です。助けてほしい状況ではあるけれど、やっぱり“楽しんでもらえる”方法を見つけたかったんです」
“楽しんでもらえる”方法としてたどり着いたのが、配信プラットフォームの開発でした。1つずつ、こだわりを持って展開してきたことが、Qumomeeの誕生につながったのです。
■自主性を持って楽しむ。TOOSスタッフの強みが発揮できたQumomee開発〜運営
Qumomeeの開発が始まってから、7店舗に所属する各々のスタッフは、自主的に役割を見つけ、運営に向けてスキルを磨きました。
星野「たとえプラットフォームを開発できても、現場のスキルが追いつかなければ配信はうまくいきません。開発に手をあげた高木・中村・服部以外のスタッフも、それぞれ技術向上に打ち込んだからこそ、スムーズにスタートできました。
音響スタッフは、配信向けの音響を。撮影スタッフは、よりかっこいい配信映像の撮り方を。と、各自が自然と同じようなスピード感でスキルアップしていきました。こうしたスタッフの自発性はTOOSの強みです」
星野は現場をスタッフに任せ、国や自治体の補助金確保に動きました。
高木は、開発のベースとなるプラグインやアプリの研究やQumomeeの開発全般を。中村は、全体のディレクション・品質管理・ロゴ制作を。服部は、サイトマップや利用規約の準備を。それぞれに責任を持ち、協力し合いながら制作に励みました。
高木「プラグインやアプリの数は何万個もあります。しかも機能説明が英語なんですよ。翻訳しながらQumomeeに活用できそうなものを選ぶのは、ものすごい時間がかかりました。
でも、クオリティに妥協する選択肢はなかったので、寝る時間を削ってでも研究していましたね」
中村「実質2週間ほどしか開発期間がなかったんです。体力的にはきつかったけれど、楽しかったですね。『できちゃうんだ!』っていう感覚とか、サイトマップを壁に貼りながらミーティングを重ねて『ITベンチャー企業みたい!』って言いながら進めたりして」
服部「休業中、出勤義務はなかったのですが、みんな毎日、店に集まっていました。各自スキルアップに取り組んだり、店内でサッカーしながら会議をしたり(笑)研究しつつ、遊びつつ。悲観的になることなく楽しみながら過ごしていました。そんな毎日の落とし所をQumomee開発に集約できた気がしています」
■店舗でも、オンラインでも、オープンで温かいTOOSの社風を大切にしたい
休業中でも、自然とスタッフが店に集まるTOOS。
どんな局面でも楽しみながらチャンレジする、前向きさ。上下関係や役割にとらわれすぎず、それぞれの得意を尊重し合う、フラットさ。そんな風土がTOOSには、あります。
星野「今は各店舗の統括マネージャーを担っていますが、僕が店長時代にはこの役職はなかったんです。いわゆる中間管理職ですよね。現場と経営のバランスをいかにとるかを追求しています。
自分が現場にいたときも、“こういうことができたらいいな”“これを社長に認めてもらえたらいいな”という希望がたくさんあったんです。だから、店長やスタッフの気持ちがよくわかるんですよね。頭ごなしにイエス・ノーを言うのではなく、彼らの意見をしっかり聞くよう心がけています」
創業当初から風通しの良さを特長としてきたTOOSですが、そこに星野のマネジメントが相まって、いっそうオープンな環境が整っています。
星野「TOOSは勤続年数が長いスタッフが多いんです。これまで、ぶつかったことも何度もありますが、だからこそいざというとき、はっきり意見を言い合いやすい環境ができあがっていました。
長年培ったチームワークがあるからこそ、今回のQumomee開発・運営において、一致団結して取り組むことができたんだと思います」
出演者やお客さまからもホスピタリティを褒めていただくことが多く、その“TOOSらしさ”を、Qumomeeの日々の運営においても表現したいと考えています。
中村「配信クオリティって、バンドへの愛情が出るんです。『このバンドの、この曲の、ここがいいよな〜』とか、『あいつの表情、ここでカッコよくなるんだよな〜』とか、わかっているからカメラでより良く映せるんですよね。
初出演のバンドだとしても音資料をもらうなど、研究するようにしています。そうすることで音響も照明もカッコよくできますから」
Qumomeeの運営メンバーは、問い合わせ対応1つとっても機械的なやりとりにならないよう、文章に気遣いを添えるなど工夫しています。
中村「こちらが人として思いやりを持って接すると、相手からも『大変だと思いますけど応援しています』みたいな返事が返ってきたりして。そしたら、“会いたいな〜”ってなるじゃないですか。いざ店舗に来てくれるときにご挨拶できるのを、楽しみに過ごしています」
■デジタル活用やDXで、音楽を愛する人や地域の人たちを、もっと豊かに
Qumomeeを通して実現したいのは、ただ生き残ることでも、音楽業界のIT・デジタル化を推進することでも、ありません。
TOOSは、オンライン活用によって日本におけるライブハウスの価値をさらに高めることを目指しています。また、それによって音楽業界・音楽を愛する人びと・地域の人びとの毎日を、より豊かにすることを志しています。
星野「世の中からライブハウスをなくしちゃいけない。それは、音楽業界においてバンドが売れるための登竜門だからという理由だけではありません。
それ以上に、とくにTOOSのライブハウスは、どんな人にとっても日常で味わえない体験を届ける役割として大事な場所だと思っています」
中村「やっぱり生でライブを見る代わりにはならないんです、配信って。音を、耳じゃなくて体で感じる体験は、ライブハウスじゃないとできない。
それに、そこでしか会えない人たちがいるんですよね。ライブハウスって“人に会いにいく”という性質も強い場所なんです」
高木「人によって行きつけの居酒屋やカフェがあるように、ライブハウスとして、そういう存在でありたいと思っています。
だからこそ、デジタルにおいてもTOOSの良さをきちんと伝えたいですね。
Qumomeeを運営してみて感じるのは、生でも配信でも、プロとしての姿勢や技術にこだわってきたからこそ、TOOSがあるということです。
僕たちは、演者を“もっとよく見せよう”と、常に努力してきました。スキルが高い音響や照明スタッフがすでにいて、それを映像としてハイクオリティで届けるにはどうしよう?という追求を、Qumomeeでしているんです」
(photographer:小野 由希子)
Qumomeeのようなライブ配信をはじめ、近年、音楽業界においてDX(デジタルトランスフォーメーション ※1)について考える機会が増えています。TOOSでは、DXを“デジタルを活用して革新的な取り組みをすること”だと捉えているわけではありません。
高木「Qumomeeは、まったく新しい挑戦というわけじゃなく、これまでの僕たちの技術や育んできたものを70%生かしつつ、30%の未知の領域を取り入れたサービスと言えます。
“もっとよく見せよう”という根源は変わっていない。見せ方を変えていっただけなんですよね。こういったことが、いわゆるDXではないでしょうか」
服部「今、ライブハウスにとって大変なときではあります。でも、ライブハウスのあり方やDXについて考えさせられる事態が起こったことは、不幸中の幸いかもしれません」
長く音楽業界にいる人たちにはアナログを支持する層が多く、デジタルや新しい挑戦には否定的な人も、まだまだ少なくありません。アナログかデジタルかに偏るのではなく、融合することがいかに大切かを伝えていきたいと、TOOSは考えています。
服部「実は、若い子たちにもアナログに興味を持っている子って多いんですよ。彼らは、基本的にはダウンロードやサブスクリプションで音楽を聴きます。でも、それをきっかけにアナログに辿りついて、取り入れていくんですよね。
今の時代、アナログ・デジタルと分けるのはもう無粋かもしれません。レコードだけでは産業にならないように、ライブハウスもそれだけじゃ産業にならなくなってきています。僕たちも、まだ未開拓であるデジタルを取り入れていかないと。
間口が広がることで、『お前、生ライブ見にいってるの?かっけー!』みたいな人が増えていくといいなと思っています」
■ライブハウスのイメージをよくして、身近に感じてもらうことが未来を切り拓く
これらの取り組みを通して、世の中の大多数の人が描く「ライブハウスのイメージ」を垣間見る機会も増えました。
“ライブハウスは、クローズドで近寄りがたい”という印象を持つ人たちがたくさんいることを、改めて感じています。
中村「実際、ライブハウスには閉鎖的な部分があります。限られた人が遊びにいく場所、怖い、関係者の愛想が悪い、というイメージを持つ人は多いです。
コロナ禍、僕らは大変な想いをしてきましたが、手を差し伸べづらい状況や批判されるような文化をつくってきたのは、自分たちの責任だと思うんです。だから、今こそ、自分たちがそれを払拭していかなければいけません」
星野「コロナが落ち着いたらライブハウスに行ってみたいと考えている人たちが、配信を通してせっかく増えているのだから、実際に足を運びやすくなるようイメージを変えていきたいですね」
TOOSでは、これからもDXを意識しながら、オンラインとオフラインを融合させてライブハウスを運営していきます。
星野「配信に踏み切れない、あるいは、配信はしない、というライブハウスやクラブは、まだまだあります。ライブハウスってアパレルブランドと同じように、それぞれの特徴や信念を持って営業しているんです。だから、考え方が違うのは悪いことじゃありません。同じやり方じゃなくても、発展していく方法はありますから。
でも、僕たちは、助け合うことを前提にして、配信やDXに関して旗を振って進んでいくのが大事だなと思っています。僕たちを見て、違う手法だとしても何かやろうという刺激になれば、相乗効果を生みますから」
服部「コロナが収束しても配信ニーズは残ると確信しています。グッズやライブ映像などのコンテンツをオンラインで販売することは、今を凌ぐためだけじゃなく、長い目でみていいことです。それを、多くのライブハウスに伝えていきたいですね」
このような同業種への想いからQumomeeは、2020年10月より、プラットフォームシステム自体の販売をスタートしました。各ライブハウスやクラブが配信サイトを有することができ、それによって、配信手数料の軽減・アーカイブの資産化・グッズ販売などのEC機能活用・マーケティングデータ取得などを可能にしています。
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音楽ライブ配信手数料、ずっと無料。音楽業界を支える配信プラットフォームを開発。渋谷や下北沢で複数ライブハウスを展開するTOOS CORP. −チケット販売・動画視聴ほか機能充実の「Qumomee」 −
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000067245.html
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これからのQumomeeは、ライブハウスに通うことに近い体験を、お客さまに提供できるようアップデートする予定です。
星野「ライブハウスって、同じバンドが好きな人たちが数十人ずつのコミュニティをつくっているという性質を持っています。視聴者同士が現場と同じくらいの規模で交流できる仕組みがあれば、もっと楽しんでもらえるはずです。
それから『TOOSのライブハウスに行ってみたい』と思ってもらえるように、僕たちがどんな人で、どんなことを考えているのかを、Qumomeeのコンテンツとして動画で発信する準備も進めています」
TOOSの持つスキルや社風を活かしてできあがった、Qumomee。
これからも、オンライン・オフライン両軸からライブハウスの価値を伝え、より多くの人びとの毎日を彩る空間としてライブハウスが世の中から愛される場所であり続けられるよう、尽力していきます。
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●注記
※1)DX(デジタルトランスフォーメーション)
ITツールやシステムを取り入れるだけでなく、ITを活用してビジネスモデルや組織を変革すること。
さらに、IT活用を手段として、よりよいビジネス提供や組織づくりを推進し、デジタル技術を使いこなす企業が増えることによって、業界の発展やよりよい社会を目指すことまでをいう。
●プロフィール
・星野秀彰(ほしのひであき)
TOOS CORPORATION 統括マネージャー。19歳で渋谷のクラブにてアルバイトを始めて以後、約20年、音楽業界に身をおく。下北沢BASEMENTBAR・下北沢THREEで出演バンドの制作・ブッキング担当や店長を経て、2015年、都内7店舗を運営するTOOS CORPORATION統括マネージャーに就任。下北沢や渋谷をベースに活動するバンド事情に精通。2020年6月ローンチの音楽配信プラットフォーム「Qumomee」の開発・システム提供・運営においても、責任者を務める。
・髙木敬介(たかぎけいすけ)
00年代初頭より、4ピースオルタナティブロックバンドSUNNとして活動。BASEMENTBAR入社後、THREE / BASEMENTBARの副店長として勤め、数々のイヴェントに携わる。2019年より、自身の出身地である調布に”LIVE&CLUB”CrossをTOOS系列店舗として開店、店長として就任。2020年、動画プラットフォームQumomeeのシステムエンジニアとして携わる。
・中村公亮(なかむらこうすけ)
学生時代に自身がギターボーカルを担当するバンド活動をしていた流れで2011年に下北沢BASEMENTBARにホールスタッフとして入社。そのまま企画制作に携わるようになり2016年に同店の副店長に就任。その後2019年7月に系列の新店舗であるアコースティック/DJを中心としたイベントを開催する下北沢HALFの店長に就任。現在は並行して古巣であるBASEMENTBAR/THREEの配信ライブのサポートや制作をしながらQumomeeの開発・運営・営業などを担当している。
・服部健司(はっとりけんじ)
学生時代よりバンド活動をしながらライブハウス下北沢BASEMENTBARにアルバイトとして入社し、ドラマーとして全国でライブ活動をしながらライブハウスの制作に携わる。2017年から同社系列ライブハウス渋谷LUSH副店長を務める。2020年2月に下北沢BASEMENTBARに戻り、Qumomeeの開発と運営も担当している。
●ウェブサイト
TOOS CORPORATION https://toos.co.jp/
Qumomee https://qumomee.toos.co.jp/
●記事に関するお問い合わせ
担当者:星野 秀彰
電話番号:03-5432-9108 (16時〜23時)
メールアドレス:qumomee@toos.co.jp
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