新しい価値観の日本酒「MIZUBASHO Artist Series 〜水芭蕉アーティストシリーズ〜」誕生秘話と、尾瀬の環境問題、女性のエンパワーメントへの想い
昨年9月に発表、発売した「MIZUBASHO Artist Series〜水芭蕉アーティストシリーズ〜」は、今までにない新しい価値観の日本酒を目指して誕生しました。「気軽に、お洒落に、楽しむ日本酒」というコンセプトを通じて、女性のエンパワーメントや環境保護活動、世界的なファッションブランド「ユミカツラ」とのコラボレーションなど、日本酒という商品の枠に収まらず大きな活動へと発展し始めています。
単なる日本酒の発売に留まらずに、どのようにしてこれらの活動へと広がったのか、そしてその想いの先に何を見据えているのか、永井酒造株式会社 取締役であり、プロジェクト・ディレクターの永井松美が語ります。
▲永井酒造株式会社 取締役 永井松美
初めて日本酒業界に携わり感じたことからの始まり
全く新しい日本酒の誕生は、蔵元との何気ない会話から始まります。
アメリカのナパでカルトワイナリーのコーディネイターに約15年従事してきた私が日本酒業界に関わることになった当時、デザイン的に女性が欲しいと思えるボトルが少ないと感じました。そこで、女性受けしそうな花のエッチングを施したボトルや華やかなデザインのラベルを提案しますが、その時はあっさりと流されてしまったことを覚えています。
その後、今度は別の視点で気付いたことを問題提起することにしました。
ナパで働いていた頃は、どこのワイナリーでもごく普通に保護活動に参加しているのを見てきました。しかし帰国して感じたのは、日本酒はワインと同じく、美味しいお酒を造るためには酒蔵周辺の自然環境や水源が大切であるにも関わらず、そのことを意識し環境保護活動をしている酒蔵が少ないということでした。
これを一つの課題として提案したところ、蔵元から聞かされたのは、数年前、尾瀬国立公園を訪れた際、ニホンジカの食害や地球温暖化の影響で水芭蕉の数が激減しており、夜も眠れなくなるほどショックを受けたという話でした。
永井酒造の醸造する日本酒「水芭蕉」は、まさに尾瀬国立公園に咲く水芭蕉の名前を付けており、そのような状況にある水芭蕉に対して、何かしらの形で貢献したいという蔵元の想いと一致しました。
「尾瀬の水芭蕉再生プロジェクト」の創設と、アーティストとコラボレーションをしたラベルへの想い
どうにかして水芭蕉を守りたい、と行動し始めると、周囲の人たちに話が伝え広まり、様々な繋がりが生まれました。日本有数の環境問題に取り組む自然環境科を有する群馬県立尾瀬高等学校や尾瀬国立公園を管理している東京パワーテクノロジー、そして古くから尾瀬の水芭蕉を撮影し、美しい水芭蕉の写真素材を保有している三条印刷株式会社など、環境保護活動をしていく上で同じ志を持った企業や人々が集まり、恵まれた環境が整いました。
次に、この想いをより多くの方に届けなくてはいけませんでした。そこでアーティストの方に尾瀬の「水芭蕉」を新商品のラベルへ描いていただき、アートで日本酒の付加価値を高めることを目指しました。
第一弾のコラボレーションには、群馬に自身の美術館があるなどゆかりが深く、蔵元とも10年以上の付き合いがある、片岡鶴太郎氏の名前が上がりました。二つ返事で今回のプロジェクトへの参加を快諾いただき、草津へお越しになられた初日に今回のラベルの絵を描いていただきました。
▲ (左)永井酒造株式会社代表取締役社長 永井則吉 (右)俳優 片岡鶴太郎様
こうして完成した「MIZUBASHO Artist Series」の発売に併せ、尾瀬の環境問題に取り組むための「尾瀬の水芭蕉再生プロジェクト~心に花を咲かせましょう~」を創設。地域と日本酒の未来のための第一歩を踏み出しました。このプロジェクトでは、「MIZUBASHO Artist Series」の売り上げ5%をプロジェクト資金として寄付しています。
女性を意識した味のこだわりと培った技術の応用
当時、永井酒造では欧米で日本酒を広めるための試飲会を実施していましたが、その際、女性たちがおしゃれなレストランにて日本酒をワイングラスで嗜んでいるのが印象的でした。
一方、日本で同様の試飲会を行うとその多くが50歳以上の男性で、女性は1割から多くても2割ほどで、ほとんどが常連の方ばかりでした。この現状を目の当たりにした時、今後もっと多くの女性にも飲んでもらわなければ日本酒の消費が先細りすると危機感を抱きました。
日本酒は1973年が消費のピークで、そこを山に消費は減り続け、今は当時の30%程度の消費しかありません。数年後、日本においては後発のワイン需要が日本酒を抜くとも言われています。
こうした背景から、既に日本酒が好きな人たちに向けたプロモーションではなく外に目を向け、特に女性をターゲットとした新しい日本酒を開発することにしました。
従来、女性の日本酒へのイメージは、私も含めて安価な醸造アルコールを添加した質の悪いものを想起し、二日酔いをしてしまうなどの悪い印象が強かったように思います。このようにして日本酒に対して心の壁を作ってしまう女性が多いと予想される中、その壁をどのように下げるのかがひとつの課題だと考えました。
そして、「気軽に、お洒落に、楽しむ日本酒」と3つの柱をコンセプトに掲げ、気軽に手に入る価格設定、しかもお洒落な感覚で、楽しく飲める日本酒を目指しました。
女性を意識した味わいを形にするのは、困難な取り組みでした。今まで味の設計については蔵元と製造責任者たちにお任せしていて、一切踏み込まない領域でしたが、今回は新たなプロジェクトで女性の観点も重要ということで、設計の段階から参画しました。アルコール0.1%の違いから全てをテイスティングするなど徹底的にこだわり、杜氏、副杜氏、蔵元と何度も協議を重ねて、味わいへの落とし込みを進めました。
食事に合わせて日本酒を楽しむことを酒蔵としても元々意識しており、過去にはシチュエーションに合わせた「NAGAI STYLE」というペアリング概念を持つ商品構成を提案しています。今回はさらに女性へ向けた商品ということもあり、特にこの部分が重要と考え、食前酒(スパークリング)、食中酒(スティル)、食後酒(デザート)、という3種のラインナップへと至りました。
価格帯にもこだわりました。今回の商品を日本酒の良さを知ってもらうためのエントリーラインに位置付ける場合、価格のハードルを下げなければいけません。しかしクラフト酒にこだわる永井酒造が作っている酒質から考えると、今の原材料と製法でこの価格帯はありえないという意見が強く、蔵元をはじめとした関係者一同から簡単に承諾はもらえませんでした。
高いレベルを維持しながら、手ごろな価格帯に落とし込むバランスは難しく、幾度となく関係者を巻き込んだ調整が続き、1年の開発期間を経て、ようやく商品が完成しました。
▲(前2列)MIZUBASHO 公認ミューズ (後列左から)永井酒造株式会社 取締役 永井松美、俳優 片岡鶴太郎様、永井酒造株式会社 代表取締役社長 永井則吉
「MIZUBASHO Artist Series」の誕生
各分野で活躍する女性たちを公認ミューズ、公認インフルエンサーに起用したプロモーション
こうして、課題をひとつずつクリアにして生まれた商品が「MIZUBASHO Artist Series」です。
2020年9月に発表するにあたり、様々な分野の第一線で活躍する女性たちを公認ミューズとして立てました。料理家やパーティープロデューサー、アロマ調香デザイナー、華道家など、あえて日本酒業界に携わる方ではなく、多方面から活躍する女性を選んでいます。
彼女たちの起用を決めたのは、憧れるけど少し身近な存在でカッコいい女性であったこと。欧米同様に知識と経験を積み重ねた知的でエレガントな女性を尊重するような価値観を広め、次世代の女性たちが素敵に歳を重ね目指す女性像となって欲しいという気持ちの表れでもありました。
このプロモーションは、業界内ではかなりのインパクトがあり、発表後すぐに多くの反響をいただきました。環境保護への取り組みからスタートし、味の開発からデザインや価格帯、そして女性マーケティング戦略など、全てにおいて今までにない提案で、結果的に関係者も含めて多くの方を驚かせてしまうこととなりましたが、これも狙いあってのこと。このインパクトが新風を起こし、新たな層を日本酒好きとして取り込むために必要と考えての行動でした。
▲MIZUBASHO Artist Seriesの国際女性デー・プロジェクトに参画して下さった世界各国の女性たち
海外へも広がりはじめた活動の輪
今年の3月には、世界中の女性たちへも日本酒の魅力を発信すべく、「MIZUBASHO Artist Series」のホームページと公式Facebookの英語版ページを公開しました。
日本の女性の輝きを海外へ発信していきたい、という想いで、「MIZUBASHO Artist Series」を通して女性をミューズに起用した活動をしていく中で、今海外にも輪が広がり始めています。
現在、世界40の国と地域へ輸出している永井酒造ですが、その中でもシンガポールと台湾では、同じくMIZUBASHO Artist Seriesの女性マーケティング活動がスタートしています。今年はタイでもスタート予定です。
また今回、水芭蕉の環境保護活動や女性エンパワーメントへの取り組みに賛同していただき、ファッションデザイナー桂由美さんが手掛ける世界的なファッションブランド「ユミカツラ」とのコラボレーションがスタートしました。今後、「伝統と革新」を共通テーマとして日本の文化や技術などに触れる機会を増やし、日本酒×ファッションで新たな挑戦にとりかかることに胸を躍らせております。今後はさらに発展させ、世界各国の関係者と連携してこの活動を進めていく予定です。
©Yumi Katsura(株式会社ユミカツラインターナショナル)
現在、周りにいるたくさんの女性たちが私の原動力となり、宝物のような存在となっています。この「MIZUBASHO Artist Series」の活動を通じて、環境問題に取り組み、社会貢献という形で共感してくださった皆様と一緒に”地球に恩返し”をしていきたいと思っています。また、創業135年の老舗酒蔵「永井酒造」の先人たち、そして日々最高のクラフト酒を醸すことに専念している蔵人たちの想いを継ぎ、日本酒の素晴らしさ、楽しさなどを国内外に広く伝えていく役割を全うしていきたいと思います。
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