「えっ。サッカー監督辞めちゃったの?」 高校教師 → INAC神戸監督 → 海外コーチ → 浦和レッズレディース監督・・・ 四冠監督と呼ばれた石原孝尚が『今』語れるようになったこと。
2011年FIFA女子ワールドカップ日本女子代表が優勝し、なでしこジャパンが大注目された。その時の代表選手21人中、FIFA女子最優秀選手賞を受賞した澤穂希選手を筆頭に7人がINAC神戸の選手だったことを知っている人は少ないかもしれない。そのINAC神戸で、30勝2敗2分という圧倒的な結果と、カップ戦も含め史上初『四冠』を達成し、たった1年で海外へ旅立った監督を知っている人はいるだろうか・・・
あれから8年が経ち、選手層の厚さだけで勝ちきれない、良い選手を活かす監督がいてこそだった・・・そう感じる人が増えてきた。
石原孝尚(イシハラタカヨシ)監督はあの時何をしたのか、そして、今、何をしているか・・・追ってみた。
『2013年シーズン?当時は川原でグラス割ったりしてましたよ』
ーー2013年シーズン、四冠を達成できたのはどうしてですか?
僕もわかりません(笑)。INAC神戸に入ったのはあの時まだ2年目だったんですよ。1年目はコーチでした。まさか2年目で監督をすることになるなんて、自分でも思ってもみなかったので・・・。澤はバロンドールとった後だし、僕に務まるのか、っていう不安は大きくて。知り合いからそういう時はグラスを割ると良い、と教えてもらって川原でグラスを割ったりしてましたよ。でも、グラスを片付けるのが大変で、ジップロックに入れて割ったり(笑)・・・。振り返ればすごい結果だったと言われます。でも、必死でした。ただ、一つ言えるのは、四六時中、片時も休まず、主力だけでなくサブの選手のこと、コーチや、INACに関わる全ての人のことを考えていたことは確かです。練習以外のアクティビティや、選手同士が皆で気持ちを伝えあえるようにメッセージカードを書いたりもしていました。「チームビルディング」に徹底的にこだわっていましたね。
ーー優勝した後、もう一年、という話もあったと思いますが、どうして辞めたのですか?
よく聞かれます(笑)。ただ先ほども話したように、大学で男子の監督をしていたことはありましたけど、プロの監督は1年目だったんですよ。そこで高い目標を掲げてチャレンジして、達成できた。次に何をしたらいいんだろうって、わからなくなってしまったんです。ものすごく、自分は背伸びをして出した結果だったのだろうと、今振り返ると思います。アメリカからオファーを頂いて、もっと上を目指したかったのもあるのですが、等身大の自分でいたくなったというか、挑戦者として、何かを追いかけたかったんだと思います。
ーーー日本に帰ってきて、浦和レッズレディースの監督に就任するも、2013シーズンのような結果が出せなかったのは?
チームや選手、サポーターの皆さんの期待値には届かなかったということだと思います。解任された時はリーグ戦3位。カップ戦でも準優勝をしています。弱くはない。でも、優勝しなければ僕が来た意味はなかった、ということだったのだと思います。どうして勝ちきれなかったか、その理由はたくさん思い当たります。でも、一番は、僕自身が、INACでうまくいっていた自分の中に答えを探しに行っていたと思うんです。本当は、目の前にいる「レッズ」の選手、チーム、コーチから始めないといけなかった。無意識に、「あの時はこうやったらうまくいった」そんな感覚に襲われることがありました。そうしない、と意識して臨んだのですがね。そこは僕の人間的な未熟さだったと思います。
ーーーとはいえ、決して悪い結果ではないですよね。。。監督としてまだまだチャレンジできる年齢でもあるかと思います。今は一体何をされているんですか?
よく聞かれます(笑)。サッカーから、少し離れようと思いました。僕はサッカー監督になる前は高校教師だったのですが、生徒にも選手にもずっと、『結果を出すから幸せになるんじゃない。幸せになるから結果が出せるんだ!』って言ってきたんですよ。サッカーで勝つために、誰かを犠牲にしたりするのは違うと思っていて。まず、自分がそういう生き方をしようと思った。そう思った時に、サッカー以外の仲間を作ろうと思ったんですよね。色んなバックグラウンドの仲間と話したいと思い、海外に行っても継続できるようなオンラインのコミュニティを作ろうと思って2019年の秋に「HappyFirst School」というコミュニティを立ち上げました。そこは、大学生がいたり、普通の主婦の方がいたり、新卒の若い子や60歳を過ぎたおじいちゃんおばあちゃん・・・とにかく、僕の考えに共感してくれた人たちが集まって、週に一度、自分の「あり方」や「挑戦」、「気付き」を発表し合うというグループコーチングのスタイルを取り入れています。今までに70人ぐらいが参加してくれましたね。1年経ったぐらいに、ちょうど僕の誕生日だったんですけど、スクール生がサプライズで、
『Happy First Schoolでこんなに変われました!』
『自分が好きになれました!』
『新しい挑戦を始めました!』
っていうひとりひとりの動画を作ってくれて…。あ~、僕はずっとこんな仲間がほしいと思ってきたな、いつも、僕に関わる人皆が笑顔になるといいなってずっと思ってきたな、って、僕が皆に教えてもらったというか・・・。自分のことが少しわかってきたんです。それで、これまでの自分の挑戦も、経験も、キチンと言葉にして伝えてみたいと思えるようになりました。みんなのおかげです。
ーーーすごい監督!というイメージでしたが、ほんとに悩みながら進んで来られたのですね。これからのチャレンジは?
この一年で、僕自身、仲間がいたことでより深く自分に向き合うことができました。
「自分らしさ」に気付くためには、「仲間」の存在が欠かせないって思うんですよね。
でもどうしたら「本当の仲間」が作れるのかを知っている人は少ないと知りました。僕は、監督としても、今も、仲間を作ることが得意だった。そんな僕の取り組みや考えを、誰かに伝えていきたい。そう思っています。2021年7月から、「Happy First College」というリーダー向けオンラインスクールを立ち上げる予定です。今は、仲間を作れて仲間の笑顔を引き出せる指導者やリーダーにどうしたらなれるのかという事を伝えていきたいと思っています。
監督は、また、オファーをもらってサッカー監督をやりたいと思ったら、その時に考えようと思います。今は、僕の考えを知りたいと言ってくれている人たちに惜しみなく伝えられることを伝えていこうと思っています。そうすることで僕も、僕らしさに気付けてきたので!
【石原孝尚 profile】
株式会社 Brilliant Future Consulting 代表取締役
サッカーコーチ・グローバルディレクター・
自治体スポーツ振興アドバイザー・サッカー解説・企業研修講師
愛知県出身。金沢大学を卒業後、筑波大学大学院に進学。サッカーU21男子日本代表やなでしこジャパン(女子日本代表)スタッフとして活躍。
卒業後、前橋育英サッカー部コーチとして、元日本代表細貝萌や田中亜土夢らを指導。 帝京高校では専任教諭として、日ハム杉谷拳士、阪神原口文仁らも指導。サッカー部コーチとしては現在、清水エスパルスの大久保択生や名古屋グランパスエイトの稲垣祥など多くのプロ選手も育てている。新宿歌舞伎町ホストで有名なROLANDも帝京高校サッカー部の教え子。
大学教員を経てINAC神戸の監督として澤穂希や川澄奈穂美などを率い史上初の四冠にチームを導く。その後、アメリカ女子プロリーグSky Blue FCのコーチに就任。元アメリカ代表キャプテンChristie Ramponeや、2018年、2019年にアメリカ女子プロリーグで2年連続得点王となったオーストラリア代表、Sam Kerrなど、各国代表選手たちも指導。高い評価を得ていた。 アメリカから帰国後、浦和レッズレディースの監督として若きなでしこ代表たちを指導。2018年11月からはオーストラリアに渡り、女子プロリーグに所属するMelbourne City FC Ladiesのコーチとしても活躍。現在は岡山県高梁市スポーツ振興アドバイザーの他、自身の経験を生かした企業や組織に対して、講演・研修を行なっており、個人向けオンライン勉強会も開催している。
2021年より新しいHappy First Collegeというオンラインスクールを開始予定。
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