廃PETを原料に、アスファルト舗装の耐久性を5倍にする ~花王のケミカル事業が挑戦した研究開発ストーリー~
花王といえば、ハンドソープやシャンプーのイメージが強いと思うが、その売り上げの約20%はBtoB向けの化学製品を扱うケミカル事業であることをご存じだろうか。
そのケミカル事業部門から2020年12月にアスファルト改質剤『ニュートラック 5000』が発売となった。舗装に対してわずか1%配合するだけで、舗装の耐久性を約5倍向上させる。さらに、配合により強度が増すことで、舗装からの粉塵の発生を約80%抑える可能性も見出している。
原料は廃PET。
これまでにも廃PETの処理を目的として、アスファルト舗装内に廃PETをそのまま砕いて混ぜ込む事例はあったが、それでは廃PETの活用にはなるものの、舗装の耐久性向上にはつながらない。『ニュートラック 5000』は廃PETを有効活用しながら、舗装の耐久性を向上させるという2つのことを両立させており、花王の独自性が光る製品である。
すでに、ウエルシア薬局株式会社のウエルシア薬局藤沢用田店の駐車場、静岡県磐田市の市道などに採用されている。そして今回、株式会社薬王堂の一関山目店の駐車場にも採用されることが決まり、着々とその輪が広がっている。
今回は開発までのストーリーについて、研究チームの一人・秋野の声も交えて紹介する。
なぜ花王がアスファルト改質剤の研究をはじめたのか?
研究がスタートしたのは、2014年。「アスファルトにコンクリート並みの強度を持たせてほしい」という、道路施工会社からのリクエストがきっかけであった。
コンクリートは耐久性が高いが、固まるまでに1週間かかる。一方アスファルトは1日で固まるが、耐久性が低い。両者、一長一短があったからだ。
そもそも、なぜ花王が道路施工会社と?と思うかもしれないが、花王は石鹸や油脂研究で得た界面科学技術を活かし、コンクリートの流動性を向上させ、扱いやすくする製品を開発している。そのため、道路施工会社とはお付き合いがあるのだ。
しかし、開発は簡単にはいかなかった。「アスファルト舗装の材料同士の親和性を高めれば良い」というアイデアはあったが、気温差や風雨といった厳しい外部環境にさらされるアスファルト舗装に対して、どんな素材の改質剤が適切なのか、答えがなかなか見つからなかったのだ。
打開策のアイデアは花王スペインの研究者から
そんな中、きっかけを作ったのは、花王グループのスペインの研究者だった。
花王スペインは、プリンターなどに使用するトナーの研究を行っている。廃棄されるトナーの活用方法を検討している中で、たまたまトナーの原料である特定のポリエステルが舗装の耐久性を向上させる可能性があることを見出したのだ。
この情報を基に、日本で改質剤の最適な分子量設計・ポリマー骨格設計といった研究開発が行われた。そして、『ニュートラック 5000』の前身となるアスファルト改質剤が完成したのだった。
廃PETを利用した『ニュートラック 5000』の誕生
2019年に花王が環境や社会により配慮した「ESG視点でのよきモノづくり」を一層強化したESG経営へと大きく舵をきったことによって、“アスファルト改質剤も、より環境に貢献できる製品にできないか”という議論が始まった。
この時期、メンバーに加わったのが秋野である。
営業部隊も交えて話し合いが重ねられた結果、アスファルト改質剤の原料と構造が似ており、社会課題となっていた、産業廃棄物となったPET(ポリエチレンテレフタレート素材、以下「廃PET」)に注目が集まった。
そして、 “廃PETを原料とするアスファルト改質剤『ニュートラック 5000』を開発せよ” というミッションが秋野に課せられた。
●秋野
テクノケミカル研究所 研究員。
幼少期から機械などに興味があり、工学研究科を卒業後に入社。
タイでの駐在を経て、現在のアスファルト関連の研究開発に従事。
「原料を廃PETに置き換える」
一見簡単そうに見えるが、課題は多かった。
同じプラスチックといえど、種類が違えば骨格も構造も、性質も違うのだ。
まず、廃PETを単純に置き換えるだけだと高耐久性は実現できない。また、廃PETにはPET以外の不純物が含まれるが、どのレベルまでなら混入を許容できるのかも調査する必要があった。
秋野たちは、改めて基礎的なところから廃PETについて研究を行った。さらに、根気強く、何度も繰返しの性能評価を行うことで、1つ1つ課題解決を図っていった。
この過程で、パートナーとして支えてくださった道路施工会社の存在も大きかった。
通常、実証実験への協力を取りつけても一度失敗すると、その後の協力を得られないことが多い。しかし、本件は道路施行会社に度重なる実証実験に協力いただけたのだ。
『彼らがいたから、成功した。』と秋野は語るが、秋野を含む研究員の熱意が道路施工会社を動かしたとも思われる。
機能性を多く兼ね備えた、『ニュートラック 5000』
アスファルト舗装は、親油性のアスファルトと親水性の骨材(石・砂)を混ぜ合わせたものだが、両者の親和性が低いことが耐久性低下の原因だった。
『ニュートラック 5000』はアスファルトと骨材の親和性を高める働きを持つため、アスファルト舗装に混ぜ込むと、耐久性が通常より約5倍向上する。
夏場の炎天下の環境を想定した60℃の水中で、30tトラック相当の荷重をかけた車輪を30分間走行させる試験では、舗装からの粉塵の発生が約80%抑制され、アスファルト舗装の強度が増すことで、粉塵発生を低減できる可能性も見出された。
さらに、『ニュートラック 5000』を添加したアスファルト舗装は従来と比較して、黒さがより持続するのも特徴だ。ドライバーから白線が確認しやすくなるので、安全走行へ大きく寄与すると考えられる。また、美観を引き立て、かつ、いつまでも新しい印象を与えることが可能だ。
『ニュートラック 5000』配合による視認性の向上
今後について
近い将来予測されている全自動運転時代では車輪が道路の同じところを通るため、アスファルト舗装の劣化速度が早まると考えられている。ついては、今以上に道路の高耐久性が必要になるとともに、白線の視認性も重要になる。
秋野は、まさに来るべき全自動運転時代に必要とされる技術であるところに、やりがいを感じているという。
関連情報
・『ニュートラック 5000』の紹介動画
・ニュースリリース
花王が開発した廃PETを原料にリサイクルした高耐久アスファルト改質剤をウエルシアが新店舗駐車場舗装に初採用
https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2021/20210121-002/
花王の開発した廃PETを用いた高耐久アスファルト改質剤が
自治体として初めて静岡県磐田市に採用
https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2021/20210322-001/
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