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群馬に根差す老舗酒蔵がフランス・ブルゴーニュ地方のワインに倣い取り組む、新しい地域ブランディングとしての「GI利根沼田」

著者: 永井酒造株式会社

2021年1月、群馬県利根沼田地区の日本酒が、地域の風土と結びついた特産品を保護する地理的表示(GI)に指定されました。今回指定された「GI利根沼田」は、永井酒造を含む4つの蔵から構成され、関東では初、日本酒においては全国で6例目となります。GI取得への決意や認定酒の特長について、永井酒造株式会社の代表取締役社長で6代目当主の永井則吉が語ります。



フランス滞在でGI指定を目指す覚悟を決める


約3年前、フランスのブルゴーニュ地方を中心に北のディジョンからリヨンまで旅をしたことがあります。このエリアは、フランスを代表するワイン産地のひとつであり、独自性が高く、厳しい生産基準を持っている地域です。


そこでの滞在は散歩をしたり、マラソンをしたり、時には自転車に乗ったりと、まるでそこに暮らしているかのように過ごしました。一日中、その土地をくまなく見て回ることで土地の特性、日当たりなどを肌感覚で知ることができ、多くの発見があり、パワーをもらいました。


例えば、ブルゴーニュといえば世界的に有名なワイン、ロマネコンティがありますが、用いるブドウはこの地域の中でもたった2ヘクタールのみで栽培され、ここだけで勝負をかけていることに気づきます。土地、土壌ともに最適な条件を満たした畑で徹底した管理のもとで造られ、その地域ブランドをいかに大切にして育てているかを目の当たりにしたのです。


そしてこの土地の恵まれた自然環境は、利根沼田の土地にも通じるものがあり、同じように勝負ができると感じました。この時に利根沼田の日本酒でGI指定を目指そうと覚悟を決めました。




厳しい生産基準を定めた「GI利根沼田」


GIは地域の風土と結びついた特産品を保護する国の制度で、日本では2005年に初めて導入されました。地理的認証としてはフランスのAOCやイタリアのDOCと比較されますが、日本においては歴史が浅く、まだ成長過程であると感じています。


フランスで実際に目の当たりにしたブランドを大切に育てる環境を日本でも再現できないか。その想いの中で、私たちは今回GI指定を取得するにあたり、ここ利根沼田地区から生まれる日本酒はこの土地でしか造れないオリジナリティを守り、世界に通用する地域ブランドとして成長させていくため、厳しい生産基準を設けました。


従来のように地域の水や風土を生かした酒造りであることはもちろんのこと、ヨーロッパにおけるワインの厳しい基準に匹敵する、日本酒においては他に例がないほどの高い基準を設けました。



ヨーロッパのワイン基準に並ぶ「GI利根沼田」認定日本酒の特長


2021年1月に取得した「GI利根沼田」認定日本酒の生産基準は大きく4つ。

1.指定した産地で穫れたお米のみを使用

2.群馬県が指定した地元の酵母のみを使用

3.米と麴を使った伝統製法

4.ビンテージ表記


使用する酵母まで産地を指定するというのは珍しく、ビンテージ表記の規定についても日本酒のGIとしては初めてで、極めて厳しい基準となります。ビンテージ表記は年毎に一定の個性が生まれることから、その違いを楽しんでもらいたいという考えで定めました。


県単位ではなく、利根沼田という限られた地区で認証を受けていることも特徴です。取得にあたり、永井酒造を含む4つの蔵での合意形成が必要となりましたが、100年以上も前から横のつながりがあるこの土地では、技術の交換会を行っていた歴史があるので自然な流れでした。



群馬県北部に位置する利根沼田地域は約15万年前の赤城山噴火による火山灰で形成された水はけの良い土壌と、川が張り巡らされた河岸段丘という地形により、特色のある軟水が生まれ、この土地で醸造される日本酒に透明感のある味わいや色調を与えています。


欧米ではワインの銘酒が生まれるところは川が流れている、という表現がありますが、利根沼田地区にも日本を代表する利根川、片品川をはじめ多数の一級河川が流れ、日本酒造りに恵まれている土地だと言えるのではないでしょうか。


また、群馬県の中では降水量が多く、日照時間が長い地域であり、一日の中で寒暖の差が大きく、良質な米が収穫できる条件が揃っています。冬には季節風を伴ってしばしば雪や雨が降り、寒さが厳しい気候であることから、酒造りの環境にも適しています。



初の「GI利根沼田」認定酒、3種の単独販売


このような厳しい生産基準をもとに造られた4蔵の「GI利根沼田」認定日本酒は、昨年11月に初めてセットで発売されました。セット商品全7種のうち、3種は弊社の酒です。

そして今年、その3種のボトルを初めて単品で販売することとなりました。


「MIZUBASHO 雪ほたか 純米大吟醸」720ml 希望小売価格 8,000円(税別)、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵製法で造られたスパークリング酒「MIZUBASHO 雪ほたか Awa Sake」360ml 希望小売価格8,000円(税別), 720ml希望小売価格 12,000円(税別)、デザート酒「MIZUBASHO 雪ほたか Dessert Sake」500ml 希望小売価格8,000円(税別)の3種で、すべて川場村で生産されているブランド米「雪ほたか」のみを用いて造られています。



三位一体で生まれた永井酒造の認定酒


「利根沼田GI」認定における永井酒造の酒造りは、米、水、技という大きな特徴が3つあり、これらが1:1:1の割合で三位一体であることが重要と言えます。水と米はその土地で育まれたもの、そして技はずっと造り続けて伝承してきた蔵が持っているものです。


1.幻のお米「雪ほたか」の存在

特徴の一つ目の“米”、これは利根沼田地域を代表する川場村産のブランド米「雪ほたか」を用いています。米・食味分析鑑定コンクール国際大会で14回最高金賞を受賞し、生産量の少なさから一般には流通しない幻のお米とも言われている食用米です。


「雪ほたか」は一般的な酒米とうまみの表現が違うように感じます。酒米として最も使われている山田錦から出るうまみより強く、かつ複雑な味わいとミネラル感があり、バランスが取れています。後味には奥ゆかしいうまみがあり、複雑な味わいで余韻も長いです。


この特徴的なうまみを持つ「雪ほたか」が育つ川場村は、群馬県の北東部、武尊山の南麓に位置し、利根沼田地区特有の地形により運ばれてくる豊富な水により田畑が潤う恵まれた環境にあります。

通常は同じ土地で作物を作り続けると栄養が偏った地質になりますが、ミネラルを豊富に含んだ水が潤沢に運ばれてくることにより土地が劣化せず、うまみは強く、複雑な味わいのお米を作り続けることができるのです。


さらに日照時間が長く、日当たりの良い標高450~600mに広がる農地は、ブドウと同じくお米の栽培でも必要としている昼と夜の寒暖差があり、良いお米を作る条件が揃っています。



2.初代から受け継ぐ仕込み水の原水


特徴の二つ目の“水”は、永井酒造初代当主がここ川場村の水に惚れ込んで移り住み、酒造りの拠点とした時から使用している天然水の「仕込み水」です。この大切な水を確保するため、本社の裏山にある東京ドーム約10個分、50ヘクタールほどの森林を代々受け継いで保有しています。


この天然水は、武尊山からの伏流水で、豊富なミネラルが含まれています。超軟水で口当たりは柔らかく、最初に甘みと後味に少しミネラルを感じるのが特徴です。



3.伝承されてきた技と自らの研究


そして三つ目の特徴である“技”。

使用している「雪ほたか」は食用米で、酒米として使うのが難しく高い技術を要します。

これを用いるうえで、蔵で伝承してきた技、そして 25年以上も前から研究してきたビンテージの日本酒awa酒での経験が生かされています。



酒米と食用米ではお米の大きさや構造が全く異なります。酒米は酒造りの上で必要な水分が入りやすく、時間軸で一定のコントロールがしやすい一方、食用米は水分調整がしにくく、見極めが難しいという特徴があります。


この難しい「雪ほたか」であえて酒造りに取り組むのは、川場村の風土と自然をつぎ込んだお米であり、日本酒にテロワールの味わいをもたらすということと、使うことにより育てている地域に貢献したいという強い気持ちがあるからです。


このように酒造りに意欲的に取り組んだことで、国が制度をスタートさせた2005年当初は群馬の酒蔵の1つであった永井酒造には雲をつかむような話だった「GI認定」が現実のものとなりました。そして、オリジナリティを守り発信していく上で、基準を見える化していくことの重要性を感じております。今後は、GI指定を次世代に向けた地域の資産として、価値向上させていく事を考えております。利根沼田の主産業である農業と観光業を共に地域ブランドとして形成していきたいと思います。





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