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80代の著者さんもおられます。

創業124年の老舗企業が花き業界の課題に立ち向かい、コロナ禍でも離職者を半減させた裏側

著者: 第一園芸株式会社

花と緑のプロフェッショナルとして創業 124年を迎える老舗花屋「第一園芸」。その第一園芸で広報を担当する谷中より、コロナ禍で打撃を受ける花き業界で、離職者を半減させた裏側についてお伝えします。


はじめにお伝えしたい花き業界の現状と課題

花屋は、華やかできれい、というイメージと、実際の仕事の過酷さとのギャップが大きい仕事です。

花は冷たい環境の方が鮮度を保てるので、花屋の仕事は常に寒さとの闘い。立ち仕事の上、重くて冷たい水を扱うため、手も荒れてしまいます。どの仕事もそうですが、けっして良いところだけではないのは確かです。

そうした過酷な面もある現場を、社員だけでなく、アルバイト・パート等、様々な待遇のスタッフが、「花や緑が好き」という純粋な気持ちで支えています。


そんな中で起きたコロナ禍。花き業界全体の2020年3 月~5 月の取扱数量は過去 3 年平均に比べ約 3,300 万本減少、取り扱い金額も約 41 億円減少。

百貨店や商業施設内の店舗は休業や営業時間短縮を余儀なくされました。また、結婚式や、イベント・宴会も中止や延期が相次ぎ、売上にも大きな打撃が。

お祝いや人が集まる場面に欠かせなかったはずの花が、このまま必要とされなくなってしまうのではないか。そんな危機感すら抱くようになりました。

教育・研修機関としての「第一園芸アカデミー」設立まで

近年の生花マーケット自体、縮小傾向が続いている上、小売店におけるお客様のニーズの約半数がホームユース。第一園芸が得意とするギフトやブライダルなどの装飾用途は徐々に縮小しています。今後、ますます生き残り競争が激化するのが確実な中、確かな技術と知識で勝ち残るためにも、全社的な技術の底上げが求められていました。


一方、店長に頼った従来の技術教育(OJT)では限界があり、店舗や個人によって技術の格差が生じ始めていました。

もともと第一園芸は、日本初のフラワーデザイン海外留学生である永島四郎を輩出するなど、西洋式装花の礎を築いてきた歴史をもち、高い技術力を誇ってきた老舗企業です。

その第一園芸を目指して入社した従業員のモチベーションを維持し、その技術をさらに磨く仕組みを整備したいという、社内の強い想いもありました。


そこで、こうした問題を解決して技術の向上や見える化を進め、ひいては会社の価値を高めるため、2019年4月に第一園芸のオフィシャルの教育機関「第一園芸アカデミー」を設立しました。

軌道に乗せるまでの試行錯誤

第一園芸アカデミーの受講対象は、ショップやフラワースタジオに勤務するフローリスト約170名です。

ジャパンフラワーカップで内閣総理大臣賞を受賞し、日本一となったトップデザイナー・新井光史をはじめ、実力を認められた店長経験者が講師を務め、私は事務局を担当することになりました。


▲ 基本中の基本、三角形を作るトライアンギュラーの講習とテキスト。大切な技術のノウハウを標準化しテキスト化できたことも大きな財産になった。


1年目は技術の見える化をするため、主に技術試験を実施。試験を行うことで、スタッフの技術グレードをチェックし、把握するためです。

年に24回ほど試験を行い、1~3級とそれ以下にスタッフを分け、自身の技術やステージを認識させるとともに、花の扱いやデザインにも第一園芸のルールがあり、自己流ではないことを教育しました。横並びで同じ課題を作成するため、他者と比べられることによる競争意識も持たせることができたと思います。


1年目の地ならしを終え、いよいよ2年目から本格的な研修へ。

そんな矢先に起きたのが新型コロナウィルスの流行でした。

当社の売上も大きく落ち込み、先の見えない状況で、あえて費用や時間をかけて研修を続けるか。

そんな迷いが生まれたとき、「ピンチはチャンス。こうして時間が生まれた今だからこそ、アカデミーを通じてできることがあるはずだ」というトップの熱意もあり、継続が決まりました。

自宅待機が続き、花を触ることもできず不安を抱えるスタッフが増える中、前向きな気持ちで技術を磨く機会を提供できるのは本当にうれしく、スタッフからも感謝の声をもらいました。


この機会に代々社内に伝わる技術を体系的に整理し、広く社内に伝えようと、この時期にカリキュラムを集中的にセット。感染対策を万全に行い、オンラインも活用しながら研修を続けました。

同時に人事制度も整備。従来、優秀なフローリストは店長等の管理職に登用されることがほとんどでしたが、管理職以外のデザイナーのような技術職でキャリアを積む途も拓け、アカデミーを通じて、フローリストのキャリアパスを示すことができました。


その一方、様々な問題も浮き彫りになってきました。それは「実力主義」に対する不安や不満で、現場では当たり前となっていた年功序列主義が、横並びで試験を行い、等級をつけることで個人の技術力の差が顕在化。現場で軋轢を生むこともありました。


また各店の繁忙期とカリキュラムの時期調整も大変です。店舗なら春、フラワースタジオならブライダルの多い秋など、どうしても繁忙期とのバッティングが生じます。店長経験もある私には限られた人数でシフトを組む現場の状況もよく理解できました。そこで現場を管理する店長と根気よく対話を重ね、アカデミーの必要性や重要性を理解してもらいました。



▲ 1級を獲得するための試験。

受験者すべてが同じ花と花器を使いそれぞれフリースタイルでいける形式。

枝ものの使い方、花の使い方、所作など細かくチェックされます。



▲ 新井光史によるデザインやデザインに対する考え方を学ぶ上級者向けの『新井塾』の様子。もちろんリモートにも対応。この日は大阪から参加のメンバーも。


▲ 第一園芸アカデミーバッジ 特級:黒 1級:白 2級:緑 スタッフのグレードが一目でわかるよう色分けされています。


第一園芸アカデミーによる人材育成は試験や研修によるものだけではありません。社内外における生花コンテストの参加企画と実施も役割のひとつで、2020年9月に行われたコンテスト「Flower Art Award 2020 in TOKYO MIDTOWN」 に参加、見事グランプリを受賞することが出来ました!

社内公募を行い審査に合格した者をトップデザイナーとペアにして、ノウハウを共有しながらコンテストに挑むという初のスタイルでしたが、一番うれしい結果を得ることが出来ました。

技術力が際立つスタッフ、向上心の優れたスタッフはコンテスト等で露出させ、アカデミーはそれをアシストし優秀な成績を収めさせ、社内・社外へPRすることで、会社の価値を上げることに貢献できたと思います。

▲ Flower Art Award 2020 in TOKYO MIDTOWNグランプリ受賞作品「The Rose Moon」


▲ 保屋松(ほやまつ) 千亜紀・新井 光史ペア

発足から4年を迎える今、離職率は半減

こうして試行錯誤を重ねてきたアカデミーも、まもなく発足から4年を迎えます。


店頭に立ち接客できるのは3級以上の者と決めたことで、スタッフは各自が目標とするスキルを磨き、今ではすべての店舗に3級以上のスタッフが常駐しています。

各店で自主練習を行うところも増え、拠点自体のレベルアップにもつながりました。


また、スキルアップ以外のメリットとして、スタッフ同士のコミュニケーションも活性化しました。

試験や研修を通じて、ショップとフラワースタジオという異なる部署に所属するスタッフが顔を合わせる機会ができ、交流が増えたようです。

モチベーションアップの一環として、1級合格者5名の作品は「2022年第一園芸オリジナルカレンダー」に採用されています。「私もカレンダーに載る作品を作りたい!」と思うスタッフも多いようで、外部への露出機会の創出とスタッフ発掘にもつなげることができ、広報を兼務している私にはありがたい効果でした。


▲ アカデミー1級合格者による2022年のカレンダー


▲ 本格的な撮影にも参加


さらに、アカデミー発足前の数年と比較するとフローリストの離職率が半減するという、うれしい結果も得られました。アカデミーを通じて技術を磨き、それぞれのキャリアパスが明確になったからではないかと考えています。


今後は緑化事業(庭木や植物の管理等)でも同様に教育機関を設ける計画があり、さらに全社的に技術力を磨く体制が整う予定です。


第一園芸ではこれからも124年間培ってきた技術や知識を継続的な研修と試験でスキルを保持し、会社の価値を上げ続けて、花とみどりのプロフェッショナルとして花き業界のトップランナーであり続けます。




【谷中 直子について】

学生時代からアルバイトで経験を積み、第一園芸に入社。

数年間の百貨店系ショップでの勤務後、ホテル内のショップに異動しブライダル装花を十数年経験。

店長職を経て現在は広報業務を担当。社内教育機関「第一園芸アカデミー」の事務局も兼務する。


■第一園芸株式会社 概要

第一園芸は、花と緑のプロフェッショナルとして創業124年を迎える、三井不動産グループの企業です。店舗やオンラインショップでの個人/法人向け商品の販売、婚礼装花、オフィスビルや商業施設などの都市緑化や公園・庭園などの造園・管理を手がける緑化事業、季節の空間装飾事業など、幅広い事業を展開しています。今後も第一園芸は、花と緑に囲まれ豊かで潤いのある、そして持続可能な社会の実現を目指して挑戦しつづけます。


所在地:東京都品川区勝島1丁目5番21号 三井物産グローバルロジスティクス勝島20号館

代表者:代表取締役社長 伊藤昇

創業:1898年(設立1951年)

資本金:4億8千万円

株主:三井不動産株式会社(100%)

URL: https://www.daiichi-engei.jp/


三井不動産グループのSDGsへの貢献について

https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/esg_csr/

三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、つまりESG経営を推進しております。当社グループのESG経営をさらに加速させていくことで、日本政府が提唱する「Society5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。

※本リリースはSDGs(持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」の達成に貢献しています。




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