人の技を、ロボットともに繋いでいく~湖東工場の小さくて大きな生産革新~「創業60周年。感謝と挑戦を胸に」工場編(2)
パナソニック ホームズは2023年、創業60周年を迎えました。工業化住宅を提供してきた生産現場における歴史と新たな取り組みについて全4回で、ご紹介します。
第2回目は、パナソニック ホームズの家づくりの中核を担う生産工場の1つ、滋賀県東近江市の湖東工場に導入された協働ロボットについてです。湖東工場では、2022年より1台の協働ロボットと共に住宅部材の内壁の釘打ち自動化に取り組んでいます。
左から 岡田 行弘、濱松 憲司、松原 幸成、藤井 信一、葉田 宏哉(湖東製造部)
▶協働ロボットによる「HS内壁の釘打ち自動化」工程動画(1分55秒)はこちら
第1~3の工場と試験棟が立ち並ぶ敷地面積約10万坪の工場の中、わずか30平方メートル四方ほどの生産ラインの1スペースで、人の背丈の1.5倍ほどの高さのアーム型のロボットが作業をしています。内壁部材となる木材を釘打ちする工程で、材料の反対側に立つ作業員と一緒に作業を進めます。
巨人の片腕のような形をしたロボットが丁寧に素早く静かに釘を打つ様は、ロボットと作業員とが息を合わせ、協力して働いているように見えてきます。
定年間近のベテラン社員のアイディアから始まった協働ロボット導入
近年、工場の生産工程の自動化・省力化を目的とした産業用ロボットの導入は一般的ですが、人より動作が速く、力も強いため、危険を回避するために、その作業範囲に人が入れないよう柵を設けるなどの条件が労働安全衛生法に定められてきました。ロボット自体の安全技術が進化する中で2013年に規制が緩和され、人と一緒に作業できるようになったのが協働ロボットです。
パナソニック ホームズでの導入のきっかけは、湖東工場勤務の岡田 行弘(湖東製造部技術課長)が、定年間近の先輩に「今の釘打ち工程のラインは長すぎる。この工程を短縮できれば、生産性ははるかに向上するはずだ」と言われ、15年以上付き合いがあり湖東工場の事をよく知っている㈱安川電機(本社:福岡県北九州市)の双原 貴之さん(西部第1営業部)に相談したのが始まりです。2021年当時、既に産業用ロボットメーカーとして、世界的な評価を受けていた同社の双原さんは、この話を初めて聞いた時、「既存ロボットにもネジ締め機能はあるので、何とか対応できるのではないかと思った」と言います。
検討の結果、「MOTOMAN-HC20DTP」という協働ロボットによる「HS内壁の釘打ち自動化」に取り組むことが現場から起案され承認されました。ベテラン社員の一言から、協働ロボットによるこの取り組みが動き出しました。
左から岡田、双原さん
ロボットのティーチングと人材育成を通じて「技術伝承」の実現へ
規制緩和でロボットと協働できるとなっても、簡単に本稼働とはいきません。製造現場は安全が絶対であり、協働作業が安全に行えるかが検証され担保されなければ稼働には至りません。
通常、工場で使用するロボットは設置しただけでは、ただのモノに過ぎず、動かすためにはプログラムを行い、操作が必要となります。そして、実際、何が危険なのか、安全を脅かすことになるのかは、動かしてみなければ全く分からない状況です。このため、動作を指示するプログラムや操作の設計や取り決めなどが必要となり、ロボットや機器を操作し、対応できる人材の確保と育成が必須となります。
まるで打ち合せたかのように息の合った作業をするロボットと藤井
一方、工業化住宅における住宅部品、部材の製造には、人の手で精緻に作られているモノが多く、釘打ち作業や断熱材の挿入作業など、熟練した作業員の手による素早く緻密な作業は、人の手に頼られている生産工程が多いのが実情です。こうした作業を協働ロボットに置き換える場合には、同様のクオリティを実現するための「ティーチング」という作業動作を指示するプログラミングが必要となります。
例えば、釘打ち作業であれば、打つという動作をさせるプログラム、何センチ間隔でという指示。それ以前に、作業土台の大きさや広さや水平度といった基礎データ。さらに精緻に職人レベルと同等に釘を打ち込む精度をあげるための調整。これらをロボットに指示、プログラムしていく作業を行います。
また、安全技術が進化した協働ロボットとはいえ、人と作業する際にロボットの腕振りが速過ぎると、安全センサーが作動したとしても機械にはある程度の慣性があり、少しのズレで、作業者を傷つけてしまう危険性があります。協働ロボットとの作業で実際に「何が危険なのか?」を知るには、トライ&エラーを繰り返すしかありません。そして、その経験を協働ロボットに的確に「ティーチング」することが欠かせません。
現在、「HS内壁の釘打ち自動化」に携わっている協働ロボットは、すでに作業台やその水平度を教える必要はなくなっているものの、1枚のパネル完成のための釘打ち速度は、ベテラン作業員のそれに比べるとまだ5秒ほど遅れていると言います。
この道25年の藤井の釘打ち速度にまだ追いつかない
協働ロボットによるHS内壁の釘打ち自動化を起案し、その管理監督を行っている岡田は、「ロボットの能力を最大限引き出すには、教える人のティーチング技術が最も重要です。ベテラン作業員であっても全員がコンピューターの扱いに習熟しているわけではありませんので、こうした成果は工場内でも共有するようにしています。若い技術者たちが、中高年者にも簡単にプログラムが可能になるようなシステムを構築してくれたことで、現在ではベテラン作業者にも問題なく対応していただいています。今はまだ、操作キーを使用したプログラミングが中心ですが、ゲーム機のコントローラーのようなものでもティーチングが可能になるような取り組みも行っています。協働ロボットのティーチングは、まさに人から人への伝承と同じです」と言います。
また、岡田の元で、実際にティーチングを行っている葉田 宏哉(湖東製造部技術課)は、「入社1年目の実習で釘打ち作業を経験しました。1日中続けることは、体力の面でも気力の面でも大変で、集中力を持続し、重力に負けずいつでも正確に釘打ちをすることはとても困難なことだと体感していました。ですから、試行錯誤を重ねて、作業者の方々から『負担が軽くなった』『作業に集中できるようになった』と言っていただいた時にはやって良かったと感じるとともに、改めて技術課の仕事の大切さを感じました」と話しています。
左から葉田、松原
ティーチングのためにプログラミングツール(スマートペンダント)は欠かせないツールの1つ
「工場起点で、サプライチェーン全体での課題解決を目指したい」
岡田:今回の協働ロボットの導入は始まりに過ぎず、終わりではありません。今年度中には、サプライチェーンも含めた取り組みの輪を広げていきたいと考えています。
協働ロボット化の推進は、これまで、工場の生産過程で見つけにくかった改善点等を素早く発見できる「見える化」を現実のものにしてくれる面があります。ですから、サプライチェーン全体に目を向ければ、工場の部材が届く次の工程の施工現場と連携することで、無駄な廃棄物削減や省施工に繋げていくこともできると考えています。また、営業や設計等の部署と連携すれば、提供された邸別情報をもとに、効率的な戸建プランをフィードバックできるようになるかもしれません。そうすると工場は生産を担うだけでなく、受注した全戸建情報を持ったデータ拠点となり、工場が起点となって会社全体の生産性や収益の向上に貢献できるようになるでしょう。これから開発されていくであろう、すべての取り組みが繋がれば、サプライチェーン全体で収益や品質を高める好循環を生み出すことができるのが理想です。
岡田:湖東工場操業以来、受け継いできた生産性向上の取り組みは、製造現場だけでなく施工現場や営業・設計部門も含めた「働き方改革」をもたらしますし、人手不足と言われる施工現場の省力化等の社会課題の解決にも役立つものと思います。また、こうしたことを工場で働くメンバーが意識できるようになれば、働きがいや、やりがいにも繋がっていくと思います。
協働ロボットの最大の特徴は安全装置
(株)安川電機 双原さん、重田 知亮さん(㈱安川メカトレック営業本部)
協働ロボットが他の産業ロボットと異なるのは、安全センサー。衝撃があると安全装置が作動し、止まるという点です。規制緩和によって柵を隔てずに1つの工程を人とロボットが同じ場所で、ともに作業してもよくなったとは言っても、その作業は安全でなければなりません。ですから、ロボットに作業させるには、何が危険かを覚えさせる、設定する必要があります。
例えば、共同作業者の手が触れた時、今かかった圧力・重量は、これは運ぶべき荷物の重量なのか、作業中の人の手が当たった圧力(重量)なのかはロボットにはわかりません。ですから重量や圧力(接触時の重量)などを作業現場に合わせて設定し調整していく必要があります。
協働ロボットを導入いただいた当時は、住宅メーカーとしては初めてだったと記憶しています。ご提案時は、コロナ禍だったこともあり、私どもの中部ロボットセンターから、岡田さん達にリモートで提案説明を行うしかありませんでした。しかし、やはり実際に触れていただくことが必要と考えていたので、後日、大阪支店にお越しいただき、同類の多関節型ロボットに実際に触れて、操作をチェックしていただき、ようやく「使えそうだ」との評価を頂くことができました。
当時のことを熱く楽しく語ってくださった双原さん
湖東工場にほど近い安川メカトレック京都支社にロボット技術者が在籍しているという利点もあるので、今後は、ロボット単体、部品単体のみならず、生産ラインの自動化といったシステム全体の提案などを通してパナソニック ホームズの生産革新に貢献できれば、と考えています。
重田さんにはリモートでご参加いただきました
協働ロボット導入は“第一歩” 原田 健司(湖東工場 工場長)
私どもの住宅という商品は重いので、その部品も重いものばかりです。例えば壁の完成形は5~600㎏もします。ですので、何らかの補助的動力がなければ製造できないのが大半です。機械化や自動化の工程を導入すると人の負担は減るのですが、工程が増えて生産ラインが長くなってしまうというジレンマがありました。それがこの取り組みでようやく改善の第一歩を踏み出せたと感じています。協働ロボットの作業は「大切な技能は人が、大変な作業はロボットが」が基本です。ベテラン社員の技術を継承し、人の技術とロボットの技術が1つの工程で組み合わされ、生産量が増え、品質もさらにあがる、そうした人とロボットの協働する姿を描いていきたいと考えています。まだまだ難しい課題もありますが、生産技術の仕事は、いろんなところから様々な情報を得て、自身に置き換えて取り込んでいくのも1つの仕事だと考えていますので、若いメンバーには、広い視野と柔軟な発想でどんどんチャレンジしていって欲しいですね。
右:原田
次号は、つくば工場での生産革新についてご紹介します。(2023年2月17日公開予定)
▶第1号はこちら
創業60周年。感謝と挑戦を合言葉に、工業化住宅の生産を担う工場での生産革新の取り組み。時代とともに変貌を遂げるモノづくり現場(1)
◎パナソニック ホームズ株式会社について
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