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紙の持つ色や風合いからブランドの世界観を構築する、紙由来のブランディング手法「ブランドペーパー」の誕生秘話

著者: 株式会社ペーパーパレード

2022年2月28日〜4月1日の期間、紙の専門商社・株式会社竹尾 青山見本帖が主催する「AOYAMA PARTNERS STOCK」にて、デザイン会社・株式会社ペーパーパレードがブランディングを手掛けた‟ヘラルボニー”のアートワーク展示会が開催されました。

この展示会では、竹尾の紙《ビオトープGA-FS マゼランブルー》を「ブランドペーパー」と位置づけブランディングを展開する、ペーパーパレードが提唱する紙由来のブランディング手法「ブランドペーパー」を初めてお披露目するという内容です。

そして今回、展示会で公開された紙由来のブランディング手法「ブランドペーパー」とは一体どんなものなのか、ペーパーパレードの守田氏と竹尾の青柳氏に詳しくお話を聞いていきます。

「AOYAMA PARTNERS STOCK」の外観


株式会社ペーパーパレード ディレクター 守田 篤史氏

多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。2020年に株式会社ペーパーパレード共同代表に就任。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、作り手とユーザーのより良い関係をつなぐモノ・コトのデザインを企てている。国内外の受賞歴多数。


株式会社竹尾 営業開発部 青山見本帖チーム 専任部長 青柳 晃一氏

1967年生まれ、1989年竹尾入社、竹尾ペーパーショウ、「PAPER’S」など、イベントや広報を中心に販促活動を担当した後、現在は青山見本帖でクリエイターや企業と紙素材を活かした新しい企画、ビジネスの立上げに取り組む。


ペーパーパレード 守田氏(写真左)、竹尾 青柳氏(写真右)


紙由来のブランディング手法とは


ー 展示会お疲れ様でした!ヘラルボニーのアートワークの数々、とても見応えありました。

(守田)

ありがとうございます!紙由来のブランディング手法でブランディング展開したものの展示は今回初めてだったので、多くの方に見ていただけて嬉しいです。


ー 今回の展示会で公開された紙由来のブランディング手法については、初めて知るという方が多いと思いますので、まずはこの手法について詳しく教えていただけますか?

(守田)

もちろんです。紙由来のブランディング手法「ブランドペーパー」というのは、ある特定の紙をコーポレートカラー(=ブランドペーパー)と定め、その紙が持つ色や風合いからブランドの世界観を構築する、ペーパーパレード独自のブランディング方法です。

展示会でご紹介したヘラルボニーにおいては、障害のある作家のアート作品をプロダクトに転用するアートライフスタイルブランドのブランドを確立するために、自閉症のシンボルカラーである‟ブルー”と、アートという上質さを顧客に伝えられる‟質感”を兼ね備えた紙として、竹尾の《ビオトープGA-FS マゼランブルー》をブランドペーパーに定めました。そしてこの紙を旗印に置き、ヘラルボニーのブランドブック、ショッパー、パッケージなどあらゆるブランドアイテムに展開し、この手法を体形的に実践できた事例となります。

展示されたアートワークの一部(ブランドブック、ショッパー、パッケージ、包装紙)


ー ヘラルボニーといえば‟このブルー”というイメージがついてます。とても印象的な色ですよね。深みがありながら、目を引く鮮やかさもあるようにも見えます。

(守田)

そうですよね。ブランドペーパーに定めたビオトープGA-FSのマゼランブルーは圧倒的なブルーで、言葉で表現しきれない絶妙な青色は、印刷では絶対出せません。それに手触りなどの質感も上質で最高なんです。

《ビオトープGA-FS マゼランブルー》をブランドペーパーとして展開したパッケージ


(青柳)

そう言ってもらえて嬉しいです。ビオトープGA-FSはクラフト紙ベースで出来ていているため、質感が豊かで、ショッパーなどに多く展開される当社の人気の紙です。マゼランブルーは深みがあるブルーで、品がありますね。しかも小口まで色が染まり切っているので、アイテムに展開する際に実用的な紙でもあるんですよ。ビオトープGA-FSが持つ特長は、ヘラルボニーのブランドコンセプトやものづくり精神にマッチしているなと思います。

ビオトープGA-FSの質感(写真:竹尾コーポレートサイトより


ー こうやって紙にこだわりがある商品パッケージは、家に持ち帰ったあと別の物を入れたりと、結構大切にしちゃいますよね。

(守田)

まさにそれもこのブランディング手法の狙いの一つです。紙の色や質感からブランドメッセージを伝えることで、捨てられがちなパッケージをできるだけ長く大切に取っておいてもいたい。それはつまり、ブランドそのものを大切にしたり、好きでい続けてもらえるような体験をブランドペーパーでつくる、というような感じです。デジタルではできない、紙から伝えるブランドコミュニケーションを実現していきたいなと思ってます。


ヨーロッパでは「ブランドペーパーを特注でつくる」、日本では「ブランドペーパーを選ぶ」という逆転発想


ー そう考えると、ハイブランドのパッケージは愛着もあるし、素材がしっかりしてることもあって捨てずに取っておきがちですね。

(青柳)

きっとそうだと思います。特にヨーロッパのハイブランドにとって紙の存在は重要です。

歴史のあるハイブランドのメーカーは紙を特注生産するケースが多いですね。その紙をブランドブックやパッケージなどに展開し、世界中にブレないブランドメッセージを届けています。ヨーロッパの高級紙メーカーは、高級ブランドの高い品質要求に対応する事で、多くの素晴らしい紙を作り出してきたと言えるのではないでしょうか。


ー 紙へのこだわりが半端ではありませんね。しかしなぜヨーロッパでは紙が重要視されるのでしょうか?

(青柳)

それは歴史にあると思います。量産技術が確立する前、紙は非常に高価な素材で本も限られた人だけが手に取れるものでした。ヨーロッパにおいては数世紀に渡り聖書に使う紙を貴族のご婦人が手作りしていたそうです。また、透かしや加工などの技術は紙とブランディングにとても深い関係があって、紙に家紋の透かしを入れる事で王族や貴族の持つ権威などを表現したり、銅版印刷がロゴや名前を格調の高さを強調する手法として用いられたりしていました。日本においても和紙の歴史は長く、神事などの特別な場面でも使われていました。

学校の卒業証書には、透かし入りの和紙が今でも使われていますし、最近は若い方にも活版印刷が人気ですね。

紙は文化のバロメーターとも言われていますが、長い歴史のある地域では、紙文化が発展し、重要な役割を役割を果たす素材として、重用されてきたのだと思います。

     昔は格式の高さを表す手法として紙に家紋やロゴを入れていた(写真:竹尾コーポレートサイトより)


ー とても勉強になります。ヨーロッパの歴史において紙を自由に扱うという行為は、誰もが憧れる最上のものだったんですね。

(守田)

紙を一から作ることは、デザイナーとしてもとても憧れますね。(笑)しかし、ハイブランドのように特注の紙を何十トンも生産できるのはどうしても体力のある企業だけになってきます。そうなると、ベンチャーや中小企業は紙にこだわったブランディングは実践できないのか、ということになります。そんな疑問を数年前から抱くようになり、ブランドコンセプトや個性を一目で体現できる紙を軸に、効率よく、しかもコスパまで追求できる方法を研究し続けた結果、「ブランドペーパーを選ぶ」という逆転発想に辿り着きました。


ー 紙を作るから選ぶ、ですね。その逆転発想を経て、紙由来のブランディング手法が誕生したんですね。

(守田)

そうなんです。海外と比べて、実は日本にはクオリティが高く豊富な種類の紙があるんですね。それを活用しない手はないなと。一から特注生産するお金はなくとも、豊富な種類の紙からブランドペーパーを選べばいいんです。紙と印刷の知識をフル活用すればヨーロッパのような最上のブランディングを実践できるのが、紙由来のブランディング手法の凄さだと思っています。


ー 素敵ですね!!

(守田)

ありがとうございます。(笑)

ブランディングのスタート時点でブランドペーパーを設定してしまえば、それを旗印にビジュアルアイデンティティを社内共有・運用しやすくなりますし、新しくアイテムを生み出す際もデザイナーの意図を外さずに進められます。それに印刷ルールを決めさえすれば、アイテムを増やす際の印刷工程を省略することでコスパも追求できますしね。


ー なるほど、紙が旗印になることで様々なメリットもあるのですね。世の中には数々のブランディング手法があると思いますが、ブランドペーパーは今回初めて知りました。

(守田)

恐らく他にはないかと思います。(笑)先にコーポレートカラーを決めて、それに近い紙を選ぶ順番が定番ですよね。特定の紙をコーポレートカラー=ブランドペーパーと定めてブランディングを展開するやり方はペーパーパレード独自で考案した手法なので、日本では初じゃないかなと。

(青柳)

企業ブランディングの一環としてプロジェクトごとに紙を生産する案件は良く受けますが、紙由来でブランディングしていく、しかも企業のVIまで徹底しているのはペーパーパレードさんが初めてだと思います。

膨大な種類の紙からブランドペーパーとなる紙を選び抜く(写真:竹尾 見本帖本店

紙の佇まいとブランドをマッチングさせる、紙のコンシェルジュ


ー 紙由来のブランディング手法を進めるにあたって、大変さや苦労などはありますか?

(守田)

何千種類の紙の中から最適な紙を選ぶという大変さでしょうか。ブランドペーパーを定めるには企業の経営方針やブランドコンセプトの理解の深さと、彼らの未来を計算することが何より重要です。それを徹底的にやりきった上で、色、質感、手触り、音などの紙の五感的な佇まいをリサーチして、ブランドのベクトルに合う最適な紙をマッチングさせていきます。ブランディング手法といいつつ、紙のコンシェルジュ的な仕事でもあると思っていますね。


ー 紙のこともブランドのことも、両方を分かっていないとできないですね。

(青柳)

まさにそうです。守田さんの紙のコンシェルジュ的な仕事のやり方は、紙を生産する技術者の仕事にも似ていると思います。紙の生産というのは、最初に決めた色を数値をベースに機械に生産を任せるのですが、最終的な色の調整は技術者の眼の感覚に頼ります。技術者の目は数値では管理できない細かい色の違いを感じる事ができます。守田さんのコンシェルジュ力は、紙職人のそういうところに共通点があるのかと。紙に対する長年の経験、知識、理解がコンシェルジュ力となり、それがあってはじめて、紙が企業のブランドペーパーに昇華していくのだと思います。

手作業で紙を検品する技術者の様子(写真:竹尾コーポレートサイトより


デジタル化が進めば‟紙”はなくなるのか


ー 今日のお話を聞いていて、紙には様々な可能性があるのだなと感じました。それに「ブランドペーパー」は、関わる人それぞれにメリットがあるように思います。

(守田)

そうですね。紙という五感に訴えかけられるブランドコミュニケーションの実現をコスト感よく実現できるという企業にとって良い点、紙から様々なブランド体験ができる顧客にとって良い点、ブランディングの可能性が広がるデザイナーにとって良い点と、関わる全ての人にとって何かしらメリットがあるのがこの手法の良い所かなと思います。

(青柳)

あとは、デジタル化の流れで紙がなくなると言われるこの時代に、ブランドペーパーによって「やっぱり紙っていいよね」という人が増える可能性も秘めていると思います。電子書籍が出始めた頃のように、大きいロットの出版が減りいよいよ本がなくなると思われたけど、本の質感を求める層が増え装丁にこだわった出版が逆に増えた、みたいな流れになり得るかもしれません。もしくは、レコードやフィルムカメラの復活のように、紙そのものの所作が求められてくるかもしれません。紙の所作を求めるなら、和紙の復活も有り得ますね。

(守田)

和紙は最高ですね!以前、和紙を使ったプロダクト開発に取り組んだのですが、色合い、質感、表情が一枚一枚異なる和紙の無限の可能性を感じました。今後も様々展開していこうと模索しています。

和紙を使ったプロダクト「折り紙マスク」(写真:ペーパーパレード サイトより)


ー デジタル化を理由に紙が姿を消すことはなさそうですね。(笑)竹尾さんでは現在何種類の紙を扱ってらっしゃるのですか?

(青柳)

竹尾のミニサンプルセット(https://www.takeo.co.jp/finder/minisamplebooks/)と呼ばれるサンプル帳には約7,000種類の紙を収録しています。

ここまでの種類を収録しているのは弊社だけだと思います。ヨーロッパの素晴らしい紙も

沢山収録していますが、日本の高い管理技術に裏付けされた、多彩な色のファインペーパーが収録されたサンプルセットは世界でも類を見ない紙見本だと思います。

竹尾が収録している紙はなんと7,000種類(写真:竹尾コーポレートサイトより)


ー 7,000種類ですか!質感も色合いも異なる紙がそれほどあると、ブランドペーパー選定には困らなさそうですね。

(青柳)

そうですね。それに、紙ひとつひとつにはストーリーがあって、それも一つの選定要素になると思います。例えばビオトープは、クラフト紙を思わせる強さや手触りに合わせ、自然界の物や事象から抽出された様な深い色が人気のファインペーパーです。私は常々「紙はアイデンティティを表現するもの」と考えており、それぞれが持つストーリーもとても大切にしています。守田さんは紙の情報だけでなくストーリーも読み取ってブランドとマッチングしてくださってますね。

(守田)

ありがとうございます!紙由来のブランディング手法「ブランドペーパー」が実現できているのはまさに、紙の作り手の想いとストーリーがあるからこそです。

全ては紙づくりから始まっているのだなと、今日のお話を通して改めて確信しました。今日のお話を胸に、強いブランドコミュニケーションをつくっていけるようにブランドペーパーをどんどん追求していきたいと思います。


ー ブランドペーパーがこれからどのように発展していくのか、ペーパーパレードさんの今後の取り組みがとても楽しみですね!まだまだ聞きたいことはありますが、本日はここまでにしたいと思います。

守田さん、青柳さん、貴重なお話をありがとうございました!



会社概要

【ペーパーパレード】

デジタルとフィジカルの境界を横断しながら紙や印刷の新しい価値を生み出すことをテーマにし、産業構造の変化にともない、未来に引き継ぐことが難しくなってきている技術をすくいあげ、新しい可能性を見出し、提案するデザイン会社です。

社名:株式会社ペーパーパレード

代表:和田 由里子

設立:2020年1月22日

所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-59-8-208

WEBサイト:https://paperparade.tokyo/

Instagram:@paperparade.tokyo

プレスリリース一覧:https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/57221


【竹尾】

社名:株式会社竹尾

代表:竹尾 稠

創業:1899年

所在地:東京都千代田区神田錦町3-12-6

WEBサイト:https://www.takeo.co.jp/

見本帖一覧:https://www.takeo.co.jp/finder/mihoncho/

プレスリリース一覧:https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/85255




インタビュー・文 / 木村 真奈美




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