大手人材会社を離れた繁内優志さんが、いま「介護福祉業界の採用ノウハウ」に関する本を出版した理由
大手人材会社で介護福祉業界の人材コンサルタントとして、全国で介護施設向けに人材ノウハウに関わる講演会を多数実施し、業界を支援してきた繁内優志さん。人材会社を退職し、一度介護福祉業界を離れて業界を客観的に見た時に、改めて人材確保の重要性に気づき、書籍を執筆したという。
いま介護福祉業界は空前の人材不足の時代。誰もがそのことを知っていながらも、介護福祉業界の採用ノウハウに関する情報は世の中では多くない。そんな介護福祉業界の人材不足が少しでも解消されるために何かできればと思い、著書『介護福祉業界の採用ノウハウ』(日本橋出版株式会社)を2022年12月6日に上梓。本の中では著者が数百の採用に成功した事業所・失敗した事業所をヒアリングし、情報収集した内容をベースに介護福祉業界に特化した採用ノウハウを分かりやすく解説している。
この記事では、繁内優志さんに、書籍の内容や、執筆の経緯を振り返りながら、取材を行いました。(日本橋出版株式会社)
▲介護福祉業界向けの採用ノウハウに関する講演活動を行う著者
大手人材会社で感じた介護福祉業界の人事課題
私が大手人材会社に入社をして最初に採用コンサルタントとして担当した業界はIT業界でした。
IT業界では、人事の採用担当は専任の人材がいて、採用のプロフェッショナルとして多くの金額や工数をかけて採用活動を行っていました。
そこでたまたまIT業界のとある派遣エンジニアの会社を担当したのが私の人材会社でのキャリアが変わる一つのきっかけになりました。
当時IT業界での派遣エンジニアの仕事は、多くの求職者が集まる職種ではありませんでした。
ただ、企業の人事担当者やその企業で働くエンジニアの方に話を聞くと、一つの企業の社内エンジニアとして働く人材よりもスキルアップやキャリアアップがしやすかったり、年収が高かったりするケースがあることが分かりました。
そのことを社内のキャリアコンサルタントへの説明や求人広告の中で訴求してみると、徐々にその会社の求人に応募する求職者が増加し、最終的には求人広告の内容を変更する前と比較して、10倍以上の応募が集まる人気企業に変わりました。
それだけでなく「派遣エンジニアのIT業界での見え方やポジションをポジティブなものに変えていきたい」という社内外の声まで生まれはじめました。
アメリカに本社を置く大手ソフトウェア開発会社から内定をもらっていたエンジニアの方に「派遣エンジニアの社会的地位向上」という理念に共感をいただき、その会社を辞退して、派遣エンジニアの会社への就職を決めていただけた日のことを私は今でも覚えています。
一人材会社でも一つの業界を変革できる可能性があることを実感できて、当時の私は嬉しく思っていました。
そんな中、私が所属をする人材会社で介護福祉業界での人材領域の新規事業の立ち上げメンバーを募集するという社内公募の案内を目にしました。
人材会社に転職をする前は医療業界で病院やクリニックへ医療機器や薬の営業を行っていたことや、自分の祖父や祖母に介護が必要なタイミングになっていたこともあり、介護福祉業界への思い入れがあったため、新規事業の立ち上げメンバーに応募し、異動しました。
新規事業の立ち上げメンバーになれた当時の私は、IT業界で実現できた世界観を介護福祉業界でも同じような形で実現できると思っていました。
ただ、最初のうちはそううまくいきませんでした。
まず介護福祉業界の多くの人事担当者の方々は、人事や採用に特化した人材ではなく、現場の仕事や経営の仕事と兼務をしている人材でした。
必然的にそういった方々は採用活動に割く時間が少なくなり、採用ノウハウを学ぶ時間も少なくなります。
また、他の業界と違い、収益の多くを国の制度に依存している業界であるため、一事業所が採用にかける予算も多くはありません。
採用予算が少ない業界であることにくわえて、世の中のネガティブなイメージによる採用難易度の高さから、業界を支援する人材会社もそこまで業界に注力をしていなかったり、ノウハウがなかったりしました。
そういった状況の中で介護福祉業界の採用について、業界に関わるようになった初めの1~2年は私自身も自信を持って支援ができませんでした。
介護福祉業界での採用成功体験が自信に
人材会社で介護福祉業界に関するグループ全体の事業開発や営業企画、広報活動等を行っていく中で一つの転機となる仕事がありました。
それは、介護福祉業界のとある事業者の新規施設開設に伴う人材採用コンサルティングの仕事でした。
それまでは介護施設の人事担当者や人材会社の営業担当者に向けた業界の採用に関するアドバイスを行っていましたが、実際に私自身が介護施設の採用活動における実務を行う機会はありませんでした。
その仕事で私は初めて介護施設の採用活動を自分自身が当事者となって関わったのです。
それまで全国の様々な介護福祉業界の経営者や人事担当者からヒアリングしてきた採用活動に関わる話の中で「これは参考になる取り組みだ」と思っていた取り組みを全て実施しました。
結論からいうと、その介護施設での採用活動はうまくいきました。
3か月ほどでオープニングスタッフとして必要な数十名の人材を無事に確保することができました。
1人あたりの採用単価も人材紹介に依存していたコンサルティング実施前と比較して、数分の一に抑えることができました。
採用成功できたポイントは大きく分けると以下の7つだったと分析しています。
- 他の介護施設と差別化ができ、他業界を意識した『採用メッセージ』をつくることができた
- 採用に関するWebページやSNSの内容を充実させることができた
- 未経験で無資格の人材をメインの採用ターゲットにできた
- 施設から半径10km以内の地域人材にリーチするという発想で採用活動ができた
- ハローワークやポスター設置、リファラル採用などの無料の採用手段を多数実施できた
- 求職者の応募だけでなく、日程調整から説明会、面接、内定、意思決定、入社に至るまでの全ての採用工程のコンバージョンを上げられた
- 1週間ごとに採用活動のPDCAをまわしながら改善活動を行えた
この経験を通じて私が感じたことは『介護福祉業界は正しい採用ノウハウを活用して、しっかりと採用活動に時間をかければ、採用成功ができる』ということです。
この採用成功体験が自信となり、全国で採用ノウハウに関する講演活動や更なるコンサルティングサービスを実施できるようになりました。
また、介護福祉業界では採用活動に関する成功体験や失敗体験に関するノウハウが分散していることに課題を感じ、採用ノウハウの知見の共有を手軽にできるようにと業界の経営者や人事担当者を招いた交流会も多数実施しました。
▲採用ノウハウに関する知見の共有イベントを開催
なぜいま介護福祉業界の採用ノウハウ本を出したのか
介護福祉業界の人材領域において自分の中で一定のことを実現できたと思ったタイミングで、私は人材会社から大手不動産会社へ転職をしました。
“住まいやライフスタイル”という観点から社会にビジネスとして貢献することに興味関心がわいたためです。
ただ、それまで関わってきた介護福祉業界に対する想いがなくなったわけではないため、プライベートで介護福祉業界の人材に関するブログサイトを運営していました。
ブログの記事を書くために毎日介護福祉業界のニュースをチェックしていたのですが、そこで一つのことに気づきました。
私が介護福祉業界を離れてから1~2年で業界の人材不足は解決するどころか、加速しているということです。
いま業界では人材の採用費が高騰して経営を圧迫したり、人材を確保できないことが原因で事業継続ができずに倒産したりするケースが増えてきています。
介護施設によっては年間の人材派遣や人材紹介会社への支払い費用が年間約1億円を超えている施設もあるという調査データもあります。
既に業界では、人材が採用できないことから採用活動を採用難易度が低い人材派遣や人材紹介に依存することで、採用経費が経営を圧迫し、1人あたりの人材採用にかける費用が減り、更に人材不足になるという負のループに陥っている施設をよく見かけます。
介護福祉業界に関わる人で会う人全員が「人材がいなくて困っている」という話をします。
一方で、介護福祉業界の採用ノウハウに関する情報が書かれている本やWebサイト、SNSは世の中では依然として多くはありません。
自治体が行う人材対策の関連事業も職員の配置転換の関係でほとんどが2~3年で終了してしまいます。
このままでは人材会社や人材関連ビジネスを展開する企業もこの業界を見放してしまう可能性すらあります。
目に見えた業界の課題があるにも関わらず、そこに対する解決策が多くは示されていないのが今の業界の現状です。
それならば多少なりとも知見がある私が、介護福祉業界の経営者や人事担当者の方々が採用成功できるような情報提供をできないかと思い、ブログで書き溜めた記事をベースに本を執筆することにしました。
▲『介護福祉業界の採用ノウハウ』本を出版
介護福祉業界の採用ノウハウ本に対しての想い
私は介護福祉業界の採用が他の業界より難易度が高いことも、難易度の高さから人材について何かを言い切ることが難しい業界であることも知っています。
もちろん介護福祉業界に限らず、どの業界でも採用活動に100%の正解はありません。
採用活動における正解は結局、一事業者一事業者が自分の手で見つけていく必要があるといえるでしょう。
そういった中でこの本が、事業者が採用活動の正解を見つけるための一つのヒントになれればと思っています。
また、この本を手に取っていただいた介護福祉業界の経営者や人事担当者が採用活動に前向きに取り組むきっかけになれば大変嬉しく思います。
一事業所一事業所が採用活動で取り組んだことがそれぞれの地域の中で介護福祉に関するイメージを形成し、やがてそれは世の中の業界全体へのイメージにも影響していくことでしょう。
日本人の3人に1人が高齢者になりつつある今の日本では介護福祉業界が活性化されることは、日本の経済活動の成長につながっていく可能性があります。
そういった意味では、業界で採用活動に関わる経営者や人事担当者は地域の中で大きな役割を担っているといえますし、そういった方々を私は心より尊敬し、応援しています。
この本が介護福祉業界の人材確保に関わる様々な取り組みを支援することにつながり、私が現在取り組んでいる”住まい”に関する取り組みといつか交わる日を楽しみにしています。
最後にここに至るまでに私に関わっていただいた全ての介護福祉業界の経営者や人事担当者、日本橋出版様に感謝します。
この本が少しでも業界への恩返しになることを願っています。
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