当事者の心に寄り添い、超うす型紙パンツで自分らしさ取り戻す「リリーフ まるで下着」のリニューアル秘話
(左から、マーケティング担当の白神、開発担当の田中)
年を重ねると、外出が億劫になったり、疲れやすくなる等の変化が体に起きます。このように、加齢により心身が老い衰え、健康な状態と要介護状態の間に位置する状態は「フレイル」と呼ばれ、コロナの影響による外出や社会交流の減少にも伴い増加しています。
自身にまつわる様々な部分が弱ってくる中で、「身体」のフレイルにより起こる事象のひとつに尿漏れが挙げられます。まだ自力で買い物に行くなど外出ができるからこそ、尿漏れへの不安に振り回されず外出や社会交流を楽しみたい。そうした、まだまだ自分らしく人生を楽しみ続けたい方に向けて、花王株式会社は超うす型紙パンツ「リリーフ まるで下着」を販売しています。
オムツ・介護用品という印象が強く、使用するハードルが高くなっている尿ケア用品。しかし、尿モレの量に関わらず早くから活用することで普段と変わらない生活を送れるため、必要としている方が自然と使える商品としてお届けしたい。こうした想いから、発売当初より衣服デザインで使われる被服構成学を採り入れ、習慣化できるような商品を追求してきた花王。化粧品や洗剤類など、多様なカテゴリーの商品開発で培われてきた知見も活かし、2009年に「リリーフ まるで下着」を世に送り出しました。
2022年10月、そんな「リリーフ まるで下着」が改良新発売されました。新しい「リリーフ まるで下着」は、従来品よりもさらに履き心地と履いた際の見た目が改善され、綿下着のような使い心地が特徴です。
同商品のマーケティング担当を5年務める白神と、開発担当として同商品へ8年関わってきた田中に、改良に込めた想いや開発エピソードを聞きました。
身体だけでなく心の悩みを解決し、生活を前向きに変えられる商品作りを
「身体」「心」「社会性」と3つの要素があると言われるフレイル。これらは独立した問題ではなく、お互いに影響を与え合うものです。「リリーフ まるで下着」がケアするのは尿漏れのため、一見すると「身体」のフレイルのみにフォーカスした商品だと思われがちですが、実はマーケティング・開発チームが着目したのはむしろ「心」だったといいます。
「尿漏れは主に身体の衰えからくるものですが、ヒアリングを重ねるなかで気付いたのは心に対するダメージの重さでした。周囲に気付かれてはいないかもしれないけれど、自分は気になってしまう。かといって、オムツを履いていると気付かれたくもない。そうした声を男女問わず聞いてきました」(田中)
尿漏れやオムツを履いていると周囲に気付かれる不安から、家に引きこもることを選んでしまうと、それが身体・心・社会性のさらなるフレイルに繋がります。気兼ねなく履ける尿ケア商品を作ることで、安心して元気にお出かけしてほしい。気持ちが元気なまま、歳を重ねていってほしい。こうした「心」に着目して誕生したのが「リリーフ まるで下着」でした。
大人向け尿ケア商品の歴史は、赤ちゃん用と同じく布オムツにまで遡ります。その後、紙タイプのテープ型が登場し、1995年には「まだ歩ける方向けに」とパンツ型が発売。そこから、尿ケアを必要としつつも「介護は必要なく、ご自身の生活を送っている」層のニーズがあることがわかり、2009年の「リリーフ まるで下着」発売に至りました。この層のニーズの可視化が遅れた背景には、ユーザー層の精神的なハードルがあるといいます。
「大人向け尿ケア市場の多くを占めるのは介護用なため、各メーカーも介護用商品に特化して開発していったという流れがあります。そのなかで、まだ介護を必要としない方たちも悩みを抱えていることが徐々に分かりました。ただ、ユーザーの中に尿ケア用品=オムツのイメージが根強く、発売しても使ってもらえないのではないかという懸念があったことも事実です」(白神)
(自社の別商品と比べると、介護向けとは異なることが分かる)
加えて、超うす型紙パンツの登場が遅れた背景には、社会全体の変化もありました。今では普通に流れる生理用品のCMですが、1970年代~1980年代には、生理用品のCMを放映するとクレームも少なくありませんでした。尿ケアも同じで、「下のケアができなくなることは恥ずかしいことだ」という意識から、悩みとして表面化しづらかったと考えられます。時代の変化に伴い、悩みの声やニーズが少しずつ可視化され始めたのです。
下着のような見た目と履き心地の紙パンツを目指して
フレイルという言葉が浸透したのはここ数年ですが、それ以前から「心」に着目し、「リリーフ まるで下着」を発売した花王。さらなる改良に向けて動くなか、インタビュー調査で検討を進めていくなかで見えてきたのはさらなるはき心地・見た目の改善へのニーズでした。特に、吸収体のある股下や尻部分へ注目し、改良プロジェクトを進めることになったのです。
プロジェクトを進めるにあたり、改めて着手したのは原点回帰だと白神は話します。「誰のために、何のために開発するのか」を再整理し、「リリーフ まるで下着」が目指すべき1番のポイントについて「下着のような見た目と履き心地を紙パンツで実現すること」と明確化しました。さらに、その特徴をいかにユーザー、代理購入者となる子ども世代、孫世代に伝えていくのか認知も課題と設定します。
「お客様は情報を受け取る力が落ちてくる年代のため、いかにわかりやすく商品の特徴、魅力を伝えるかについて1番議論を交わしました。お尻にフィットするという表現も、受け手によっては『食い込む』と思われてしまうことがあり、工夫が必要だと思いました」(田中)
衣服の専門家の知見×花王の技術で「まるで下着」を実現
プロジェクトの発足から目指すべき方向性が決まると、早々に日本女子大学 大塚美智子教授への協力を打診しました。人間工学を踏まえ、人体にあった衣服作りを目指す被服構成学を専門とする大塚教授。専門家の協力を得ることで、新商品の良さを客観的に評価してもらおうと考えたのです。そして、実は2000年代から花王の商品開発に数度助力していただいてきた大塚教授は、田中の学生時代の恩師でもありました。
「学生時代、被服学にハマるきっかけになったのが大塚教授の授業でした。授業の最初に『全身の筋肉と骨を覚えてきてください。テストをします』と言われて、人体への理解がないと服は作れないという気付きのきっかけになりました」(田中)
今回の改良プロジェクトの計測に使われた装置は、田中が学生時代に大学に入ったものでした。修士論文時に使った装置を使い、試作品の計測、評価を行った田中。大塚教授とのやり取りができたことも含め、「学生時代の学びが仕事に繋がったことに感慨がある」と語ります。
身体にフィットすることを重要視する被服構成学の観点から見ても、オムツを下着として履けるようになるには吸収体の改善が必須だと指摘された開発チーム。当初、自分たちでも予想していた課題感が専門家目線で裏付けされ、自信を持って取り組めたといいます。
ここで活用されたのは、花王がこれまで紙オムツ・紙パンツ開発する際に収集した体型データを用いた花王オリジナルモデルでした。公的機関による高齢者の体型調査は年々規模が縮小しており、十分なデータが得られにくくなっています。そのため、花王は従来から社内で集積したデータをベースに、足回りやお腹周りの特徴を解析することで花王オリジナルモデルを活用しています。今回もオリジナルモデルを使って立体裁断を行い、型紙を設計しました。
「量産化するためには、最終的に平面にしなければなりません。立体に強い大塚教授の協力と、平面にする部分で強みを発揮する花王とのタッグがあってこその開発でした」(田中)
こうしてできあがった改良版「リリーフ まるで下着」は、気になる吸収体部分がさらに体にフィットし、下着のように身に付けられるものとなりました。
「オーダーメイドの服とは異なり、量産品は幅広い体型の人にフィットするものを作らなければなりません。オリジナルモデルに合わせて原型を作り、その体型から外れた人をどこまでカバーできるかを実用調査で調べました。
下着のようなフィット感を生み出している縁の下の力持ちは、真ん中部分のスリットです。このおかげで、下着を履いたときと同じU字曲線のシルエットを実現しました。フィット感があり、食い込みはないのがポイントです」(田中)
開発側が下着と同じような見た目と履き心地の実現に取り組む間、その魅力をどう伝えていくのかを考えていた白神。重視したのは一見して特徴がわかるシンプルな商品パッケージでした。
「大人用の尿ケア用品売り場を訪れるお客様には、周りの目が気になることから、短い時間でサッと選んで買いたいというニーズがあります。そのため、パッケージに大きく記載するのは商品名と1メッセージ、イラストと3要素に絞り、誰に向けたどういう商品なのかがすぐわかるような見た目にしました」(白神)
検討を重ね、ホワイト・ピンク・ブルーのカラー展開もわかるように色と文字で配置し、商品の特徴である「綿下着のようなはき心地」をメッセージとして採用しています。
尿ケア製品のイメージを変え、全ての人が自分らしい生活を楽しめる社会作りへ
発売後、リピーターが10%ほど増加している「リリーフ まるで下着」。お客様とコミュニケーションを取る部署には、販売先の問い合わせのほか、使用した感想も寄せられています。
「減っていた外出が増えてきたという声も受けており、目指してきた『対策できて良かったで終わらせず、生活が変わる商品を』の実現を感じています。また、ご本人だけではなくお子さん、お孫さんといった代理購入者の購入比率も少しずつ上がってきている点も成果の1つです」と喜びを交えて白神は話す。
最近、白神には自身の祖母とのこんなエピソードがあったといいます。
「入院時に失禁が見られたため、医師が親に大人用オムツを紹介されたのですが、当の本人は90代でもオムツは要介護の人が履くものであり、自分向けのものではないと思っていたんです。パンツタイプのものがあると言っても抵抗を示していまして、実際の商品を触ってもらって初めて抵抗感を払拭できたという経験をしました。尿ケア用品=オムツ、ごわごわした履き心地で不快というイメージを払拭するためにも、まず商品の存在を知ってもらいたいと思った出来事でした」(白神)
田中は、とある高校生に「尿漏れに悩む祖父母に、どう商品を勧めたらいいか」と聞かれた体験を振り返ります。
「オムツというワードを聞くとどうしても心理的なハードルが上がるため、下着みたいな紙パンツだとお伝えしてみては、お応えしました。また、袋のまま置くのではなく、中身を出し、クローゼットの引き出しに下着と置き換えて置いておく、オムツイメージの強いホワイトではなく、ピンクやブルーを選んでみるといったこともアドバイスしています」(田中)
実際に、ピンクカラーの「リリーフ まるで下着」に出会えたことで、最期まで自尊心を保って生活できた女性がいると田中は語ります。入院先でも白いオムツを受け入れられず、ポータブルトイレで頑張りながらも、パッドを付けた下着では失敗することが起きはじめたというその女性。そんな彼女に当時販売していたピンク色で花柄の「リリーフ まるで下着」をプレゼントしたのはお孫さんでした。
「看護師さんにも褒めていただけ、『孫が用意してくれたの』と嬉しそうに自慢されていたそうです。お孫さんは『リリーフ まるで下着』を偶然見つけたそうなのですが、『最期まで可愛い、綺麗なパンツをはいて過ごしてほしい』という思いで贈ってくださったとお聞きしました。『最期も、少しだけでも和やかに自尊心を持って過ごせたかもしれません』とお聞きし、大変嬉しく思いました」(田中)
今回のリニューアルを経て、見た目・履き心地共に、最も下着に近い紙パンツに至った「リリーフ まるで下着」。しかし、白神、田中は共に「まだまだ改良の余地がある」と口を揃えます。
尿ケア製品そのものに対するイメージもあり、まだまだ下着のように履ける紙パンツという選択肢が上がりにくい状況です。商品カテゴリの認知だけでなく、イメージ改善ができるような、お客様とのコミュニケーションの機会も増やしていく。
加えて、「リリーフ まるで下着」として向き合ってきたフレイルについても、予防啓発活動も積極的に実施する予定です。これからも、お客様が自分らしく人生を楽しめるような商品開発を目指していきます。
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