生活の周りにあるコンクリートがCO2を吸収できたらー 脱炭素社会を目指す革新的プロジェクト「CPコンクリート・コンソーシアム」の取り組みと展望
一般社団法人 生コン・残コンソリューション技術研究会(以下、RRCS)の会員から組成したCPコンクリート・コンソーシアムは、2022年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業として採択を受け、セメント焼成工程などで発生するCO2を、コンクリート由来の産業廃棄物に固定化するという地域内循環を構築し、更に新たな技術(粒状化、炭酸ナノバブル、炭酸化促進剤)を用いて、最大163kg/㎥のCO2を吸収するカーボンプールコンクリートを開発、普及するプロジェクトに取り組んでいる。
脱炭素やカーボンニュートラルが生活の一部になり始めている昨今。「脱炭素」と聞くと多くの人が交通やエネルギーを思い浮かべるだろうが、世界ではコンクリートが二酸化炭素削減に大きく貢献するだろうと注目されている。
道路や高層ビル、橋など、私たちの生活の周りにあるコンクリートがCO2を吸収できたら-。その実現を目指し、研究に勤しむCPコンクリート・コンソーシアムのメンバーに話を聞いた。
左:坂本守 プロジェクトマネージャー、右:鈴木好幸 同サブリーダー
社会実装を見据えた試行錯誤の2年間。新しいコンクリートの概念への挑戦
開発の進捗情報を教えてください
(鈴木) プロジェクト開始から2年間の試行錯誤を経て、目標達成に近づく多くのメニューを発見しました。しかし社会実装を視野に入れると、組み合わせの選択が非常に難しいことも判って来ました。革新的なアプローチを選ぶのか、汎用性の高い組み合わせにするのか。カーボンプールとしての最適な落とし所を見つける必要があり、短いスケジュールの中で最良の解を模索中です。
このプロジェクトの難しさについて教えてください
(坂本) 既存のコンクリートの概念を覆し、内部に空隙を作ることで炭酸化させるプロジェクトなので、確立された手法がなく、実験の8割9割は失敗しました。成功の兆しが見えたのは約1割に過ぎません。コンクリートは複合材料であり、各要素で成果が見込めても組み合わせ次第で上手くいかないこともあります。
また、構造物については、液相炭酸化を利用して、打設された壁を炭酸化するのがCPコンクリートの最大の特徴なのですが、ラボレベルで出来ても実際の現場スケールにすると上手くいかなかったりと、日々トライアンドエラーですが、これから大阪・関西万博など大型の試験施工が控えており、これが大きな検証の場となりますので、今年は我々にとって重要な1年となります。
湿式分析の苦労と成功の瞬間。CO2ナノバブル水の透水実験の喜びと落胆
印象に残っている出来事はありますか?
(鈴木) 正しいCO2固定量を湿式分析で測定しようとして、うまくいかないことがありましたが、コンソーシアムメンバーの協力によって解決できた時は知識、経験を結集した成果として信頼が深まり、心強く思いました。
また、コンクリート中に適度に空隙を導入して、CO2ナノバブル水を透水させてみたところ、狙い通り透水経路が炭酸化した様子が見えて大喜びした後、実際のCO2固定量を測ると全然できていないと落胆したこともあります。研究者として、常に想定外に向き合うのがこのプロジェクトの醍醐味ですね。
フェノールフタレイン溶液をコンクリートに吹きかけ、
アルカリ性の赤紫色の間に中性化された無色の透水経路が確認できる様子
このコンクリートが生み出す環境へのメリットについて教えてください
(坂本) 我々のプロジェクトは、コンクリートの製造過程などで排出されるCO2を最大限に吸収・固定することで、炭素循環を促進します。また、残コン・戻りコン・スラッジなどに含まれる未利用炭酸カルシウムを利用して、資源循環するのが当たり前の産業にしていきたいです。
脱炭素社会実現に向けて、エコフレンドリーな選択肢を発注者に与えられるように
プロジェクトを通じて得たものや感じていることは何ですか?
(鈴木) このプロジェクトを通じて、環境価値を認識する社会の重要性を強く感じています。海外では、エンボディードカーボンを懸念して古い建物の建て替えを禁止する制度もできているようです。CPコンクリートを含め、発注者の方により多くのエコフレンドリーな選択肢を与えられるようにしていく必要があると思います。
IPCCにコンクリートのCO2吸収固定量が初めて報告されました。このプロジェクトはこれからの脱炭素にどのように貢献していけると思いますか?
(坂本) IPCC(※1)への報告は大きな一歩です。これにより、我々の技術が広く認知され、さらなる脱炭素社会の実現に貢献できると考えています。環境価値の認識が進み、クレジットやインセンティブの制度が整備されることを期待しています。
資源循環型建材としてのコンクリートの可能性。グリーンカーボン、ブルーカーボンに次ぐ、ホワイトカーボンを普及していくきっかけづくりを
コンクリートを用いた建材が、木材と同じように適切な資源循環として管理される。CPコンクリートをはじめ、建設業界も脱炭素に向けて動き出しており、それは確実に私たちの未来を変える大きな革新となるだろう。CO2を吸収する特性を有するコンクリート(※2)がエコな建材として認識され、コンクリートが資源循環型材料として教科書に載る未来はそう遠くないのかもしれない。
CPコンクリートコンソーシアム:https://carbon-pool.com/
RRCS:https://rrcs-association.or.jp/index.html
※1 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change):気候変動に関する政府間パネル。気候変動に関する科学的知見を提供する国際的な機関。
※2 グリーンカーボン(植物)は年間106.4億t、ブルーカーボン(海洋)は同58.3億tに対し、コンクリートが吸収・固定するCO2量は10億tと推測されています。セメント・コンクリート産業におけるCCSやCCUSにイノベーションを起こすことでCO2の排出を抑え、さらにCO2を吸収、固定することで、脱炭素社会に貢献できる可能性を秘めているのがコンクリートである。
RRCSについて
2020年10月、東京大学の野口貴文教授が理事長を務める生コン・残コンソリューション技術研究会(RRCS)が設立された。生産者から消費者、学術研究者・サプライヤーまで、120人以上の有識者が一堂に会し、長らく放置されてきたコンクリートロス問題の解決に向けて取り組んでいる。コンクリートを再利用、削減、リサイクルすることで、資源を減らさない持続可能な産業化を目指す。
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