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人の数だけ、物語がある

和歌山・熊野古道の無人ホテル「SEN.RETREAT CHIKATSUYU」。現地に社員を常駐せずに運営してきた、開業後1年間の歩み

著者: 株式会社日本ユニスト


世界遺産・熊野古道の宿場町として栄えた、和歌山県田辺市中辺路町近露。

この地に2022年4月28日、日本ユニストはコンテナホテル「SEN.RETREAT CHIKATSUYU」を開業しました。ドッグランとして使えるプライベートガーデンや焚き火台、生地からこねて作れるピザ窯などをそろえており、豊富なアクティビティを体験いただける宿となっています。

全7室を備える当宿は、開業当初から無人で運営しています。運営会社の日本ユニストは大阪市に本社があり、現地に常駐している社員はいません。前例のない無人での運営を行いながら、この1年間どのように宿を作り上げてきたのか、宿の運営を担う「SEN事業部」のメンバーとともに振り返ります。


<担当者>

大﨑庸平












菅原清貴














松本麗実













■‶リトリート体験”の実現に向け、設計を変更

SEN.RETREAT CHIKATSUYUをオープンさせるプロジェクトが本格的に動き始めたのは、2021年秋のこと。熊野古道を泊まり歩く宿「SEN.RETREAT」ブランド1カ所目の「SEN.RETREAT TAKAHARA」が10月に開業したことで、次なる2カ所目のCHIKATSUYUも、開業に向けた準備が進み始めました。


SEN事業部で最も早く入社したのが、SEN事業部長の大﨑でした(21年10月入社)。

すでに建築・設計などはある程度決定していたものの、マーケティングの観点から、可能な範囲で工夫や変更を加えました。


「まず最初に、SEN.RETREATで提供するアクティビティを『大自然の中でストレスをリセットし、明日の自分を好きになってもらえる‶リトリート体験”』と定め、ブランディングを行いました。CHIKATSUYUでは、元々客室の横にお客様の車を駐車する設計でしたが、それだと敷地内で‶リトリート体験”につながるような、ゆっくりとくつろぐ空間を作り上げられない。そこで、近くの土地を駐車場用の土地として確保することにしました。

他にも、お客様ご自身で生地からこねて焼けるピザ窯や、近露の里山を一望できるビューデッキなど、宿の敷地内で遊べて、付加価値となるコンテンツを新たに作り上げました。ピザ窯設置にあたっては、実際にお客様だけで窯を使えるようにしている無人宿に実地調査に行くなど、入念な下調べも行いましたね」(大﨑)




■工事と撮影で過密スケジュールとなった開業前の1カ月

無人運営とはいえ、開業までかかる下準備は人手あってのもの。SEN事業部のメンバーは4月の1カ月間ほとんど泊まり込みで、開業準備に当たりました。

ただ、雨天が続いたことにより、工事は大幅に遅延。モデル入りの写真撮影の日に、すべての客室の工事が完了していないという、予想外の事態も起きました。


「私は2022年1月に入社するまでは保険会社で、大﨑もテーマパークやコンサル会社で働いていたので、当時のSEN事業部には宿作りの経験がある人が誰もいませんでした。そのため、備品や家具の発注、食材の手配など手探りで一から進めていきました。開業直前になっても工事が完了しておらず、パースでしか内装を見ていない状態で準備を進めるのは難しかったですが、そのときできうる最大限の工夫を凝らし、何とかお客様をお迎えできる状態を開業日までに作り上げました」(松本)


写真撮影の様子


関東サッカーリーグ1部所属のサッカークラブ・南葛SCの選手も、撮影に参加

×


グランドオープン前には、地元住民の方を招待した内覧会も実施。多くの方にお越しいただき、期待や励ましの声をかけてくださったのは嬉しい思い出です。共同研究を行っている和歌山大学の学長さんや、県庁の方など、紀北からはるばる駆けつけてくださった方々もいらっしゃいました。

そして、ゴールデンウィークの始まりとともに、無事グランドオープンを迎えました。



■地域との密な連携・関係構築

よそ者である大阪の会社が地方で宿を運営するには、地域との関係構築が重要です。

その一環として、開業後すぐに、地元の方にも使っていただけるゴミステーションを宿の横に設置しました。宿から出るゴミは一般家庭よりも多くなってしまうため、地元の区長さんに相談したところ、「元々あったゴミステーションが小さく、設置場所も少し遠いので、住民も使える大きなものを設置してもらえたら」と返答いただきました。


また、当宿では地元の主婦さんにアルバイトとして客室の清掃・準備を行っていただいています。ゴールデンウィークに早速、改善点や感想を直接伺う場を設けたことで、相互に活発な意見交換を行い、良いスタートを切ることができました。


地元の方の理解あってこそ、無人運営というスタイルは成立します。そのため、現地を訪れる際には、地域の方との意思疎通を行う機会をいただくようにしてきました。

清掃スタッフさんとの連携についても、開業して『じゃあ後はよろしく』というスタンスだったら、運営を行う上できっとどこかで不備が生じていたと思います。そうしたことがないように、各方面とのコミュニケーションを大事に行うよう心掛けてきました」(菅原)



■地元のおばあちゃんと交流できる「おばあちゃんプラン」を考案

地元との繋がりを大切にする姿勢を、宿泊プランに生かした例もあります。

地元のお食事処「箸折茶屋」の女性店主がつくる夕飯用のお弁当を、宿泊客へ手渡しで提供する「おばあちゃんプラン」です。

×


発端は、「地元の方と協力して何かプランを作ってみたい」という大﨑の考え。

夕飯としてバーベキューやピザ、チーズフォンデュなどの食材はご用意していたものの、地元の方がつくる料理を味わってもらうオプションもあったらいいのでは、というアイデアから最終的なプランへと膨らませました。


「SEN.RETREAT TAKAHARAの開業以降も、地元ゆかりの方や店舗とコラボしたイベントを単発で開催していたのですが、『いつ泊まっても地元の方と交流できるような取り組みを、無人運営施設であっても行いたい』という思いがありました。人の温かみを感じられるようなプランを仕上げることができて、手応えを感じています」(大﨑)



こうしたプランなども功を奏し、夏休みシーズン中は高稼働率を記録。お盆休み期間は稼働率100%となり、嬉しい悲鳴が上がりました。


■安全対策を講じるため、壁と門を入口に設置

当宿では、お泊まりいただいたお客様に後日、zoomで感想などをヒアリングする取り組みを継続的に実施しています。そこで複数のお客様から声が上がったのが、「敷地入口が交通量の多い国道に面しているが、柵や門がなく、子どもや愛犬から目を離すのが怖かった」というご意見でした。下記写真が開業当初の入口の様子です。



無人で運営を行う以上、安全を第一に考えることは最優先事項です。

また、外部から空間を閉ざさないと、リトリート体験ができる非日常感のある雰囲気を作り上げるのが難しいとも感じていました。そのため、開業から半年ほどの時点で、壁と出入口の門を取り付けることを決めました。

11月の1カ月間を完全休業として工事を行い、12月にリニューアルオープンをしました。熊野古道らしい温かみのある木材を使用したほか、完全に遮断せずに少し中が見えるようにして閉塞感を出さないようにしたことなどが特徴として挙げられます。



リニューアルオープンを記念して、地元の和太鼓集団「なかへち清姫太鼓」による演奏会と、窯でピザ焼きを体験できる地元住民向けイベントも開催しました。過疎化が進む地域でにぎわいをもたらす取り組みができたことは、有意義だったと感じています。



■プライベートガーデンで冬は屋外こたつ

当宿はプライベートガーデンでバーベキューをしたり、ドッグランとして利用したりと、

温かい季節には楽しみやすいものの、冬場の過ごし方に課題を抱えていました。

その解決策として浮上したのが、屋外こたつ。

冬の澄んだ空気の中、地元で捕獲された猪肉のしゃぶしゃぶ鍋と、和歌山産のみかんをこたつで味わえる冬限定プランを打ち出しました。とはいえ、こたつに入らない上半身は寒いので、ブランケットやカイロなど、可能な範囲で防寒対策グッズを用意するなど、万全を期すことに努めました。



こうして冬を乗り越え、オープンしたのと同じ春がまたやってきました。

2年目となる今年は、人里と自然がうまく調和しているこの近露という街を、より楽しめるような仕組みを作り上げることに挑戦したいと考えています。

そしてさらに居心地の良い宿泊体験をお届けできるように、ハード・ソフトの両面からサービス向上に取り組んでまいります。






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