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中国を旅するかのような読書体験を届けたい。そんな思いからスタートした、『はじめての中国茶とおやつ』が出版されるまで。著者であり人気中国茶カフェ「甘露」の店主の視点とは。

著者: 株式会社誠文堂新光社

“ガチ中華”という言葉が、メディアで紹介される機会が増えました。


“ガチ中華”とは、日本人向けに味がアレンジされていない現地そのままの中華料理とでもいうべき新しい食のジャンルです。それらの店では、メニューも店内の会話もほぼ中国語で、まるで現地にいるかのような感覚に陥ります。


海外旅行に行けなくなったコロナ禍で「手軽に海外旅行気分が味わえる」と、人気が高まっています。また、最近話題の「推し活」ムーブメントにおいても、「華流コンテンツ」すなわち中国大陸のドラマやアニメーション、ゲームなどを愛するファンが日に日に増えています。


そんなガチ中華や中華エンタメ好きの間で話題のお店がありました。東京・早稲田にある中国茶カフェ「甘露」です。日本人と中国人のスタッフが営むこの店なら、日本人が知りたいことを踏まえつつ、リアルな現地情報を発信してくださるのではという期待から、初心者向けの中国茶の本を書いていただきました。


発売から1カ月ほどが経ち、発売後即重版となった書籍について詳しく伝えるべく、今回は「甘露」店主の向井直也さんに、お店を出したきっかけから出版に至るまでのエピソードを振り返っていただきます。(誠文堂新光社)

『はじめての中国茶とおやつ』


【甘露について】

甘露は日本人の夫婦と2人の中国人留学生(当時)が2018年10月、新宿区西早稲田に開いた中国茶カフェです。


高田馬場から早稲田地域を対象としたローカルウェブマガジン「高田馬場新聞」を運営していた私・向井直也と、その妻で鍼灸師の資格取得を目指し専門学校に通っていた舞子、早稲田大学大学院でコミュニティデザインを学んでいた張鈺若(ちょう ぎょくじゃく)さん(四川省出身)、同じく早稲田大学大学院で日本語教育を学んでいた謝霄然(しえ しゃおらん)さん(遼寧省(りょうねいしょう)出身)の4人が出会い、それぞれが思い描く未来を実現するための場所としてオープンしました。 (左から謝霄然さん、向井舞子さん、張鈺若さん、向井直也さん。)

写真提供:高田馬場経済新聞


ローカルメディアを通じ、出会った地域の人たちと交流の場所を作りたいと考えていた私に、留学生と日本人が交流できる場所を作りたいと考えていた張さんを引き合わせてくれたのは、留学生のボランティア活動を支援していた早稲田大学OBの中国人、馬さんでした。

同じタイミングで舞子が、鍼灸の専門学校に通いながら薬膳と中国茶について学んでいたこともあり、中国茶カフェとして開業することになりました。


開店から5年が経つなかで、謝さんは甘露のスペースを活用して甘露中国語教室(2020年)を、舞子は甘露が借りているビルの2階で鍼灸治療院(2021年)を開業。創業メンバーのそれぞれが、やりたかったことを一つひとつ実現しているところです。 

(謝さんの、中国語教室の様子。)


【中国茶との出会い】

舞子が中国茶に興味を持ったのは2016年のことでした。四川省成都へ知人を訪ねた際に連れて行かれた、「茶城(ちゃじょう)」と呼ばれる中国茶の店ばかりが並ぶ専門店街での試飲体験がきっかけでした。


茶城の建物の中は薄暗く、迷路のような通路に面してたくさんの店が並んでいます。店ごとの違いもわからず、一見の客には何とも入りにくい雰囲気。連れられた店に入ってみると、店主らしき女性が「美味しいから飲んでみて」とニコリともせずお茶を淹れてくれました。


そのお茶が確かに驚くほど美味しかったのです。


それが何というお茶なのか、どうやって飲むのかも分からないまま購入しました。帰国してから日本で中国茶について学べる講座に通い、そのお茶がプーアール生茶だということを知りました。さらに学ぶうちに、中国茶の茶葉の状態を見極められる「評茶員(ひょうちゃいん)」という中国茶の資格があることを知り、中級評茶員資格を取得しました。

(成都にある、「茶城」の外観。)


【なぜ中国茶「カフェ」なのか】

甘露が中国のお茶を出す店でありながら、「茶館」ではなく「カフェ」と名乗っているのは中国茶に気軽に触れてみてほしいからです。


中国茶というと、お作法や道具といった堅苦しいイメージを抱く人がいるかもしれません。でも、私たちは中国の人たちがお茶を飲んでのんびりしたり、友達や家族とおしゃべりしたりするような、お茶とともに過ごす楽しいひと時をお届けしたいと考えています。


このように考えるに至った背景にも、四川省成都での体験があります。四川省の省都である成都市は三国時代の蜀(しょく)の都です。

四川料理やパンダで知られるこの街は、中国全土で茶館が最も多い都市だといわれています。茶館といっても大きな公園、お寺、あるいは団地近くの道端にある露天の茶館、いわゆる「青空茶館」が大半で、成都市民の憩いの場所になっています。


茶館ではまず受付で料金を払い、好きな茶葉と蓋碗(がいわん)を受け取ります。それを持ってあいた席に腰掛け、持ち込んだ果物やお菓子をつまみながらおしゃべりをしたり読書をしたり、まさにだらだらと時間を過ごします。1日中ここにいるのでは? と思えるような人たちもたくさんいます。この素敵なお茶の時間は、甘露がお届けしたいと願っているものの1つです。

(成都の茶館にて。多くの人がお茶を飲みながら、それぞれの時間を過ごしている。)


【中国のおやつ】

甘露では、中国茶とともに中国各地のおやつをお出ししています。

日本国内に中華料理店は4万軒以上あるといいますが、食後のデザートといえば杏仁豆腐にゴマ団子、ちょっと頑張ってマンゴープリンくらいでしょうか。あとは中華菓子の代表選手、月餅。面積でいえば日本の25倍もある中国の国土に、それだけしか甘いものが存在しないわけがありません。たくさんあります。


甘露を始めるのに向けて現地へ飛び、おやつをあれこれと食べ歩きました。そこで出会ったはじめての味とおいしさに感動しました。その現地での体験を少しでも皆さんに共有したいと、季節ごとにメニューを替えてお届けしています。


この5年の間に、四川省の氷粉(びんふぇん)や広東省の双皮奶(しゅあんぴぃない)、桃の木の樹液「桃膠(たおじゃお)」など、日本では珍しいおやつを紹介してきました。中国人にとっても故郷以外の地域の食べ物は未知のものが多いようで、留学生のアルバイトスタッフが「これは甘露ではじめて食べました」という場面もよくあります。

(左:双皮、中央:氷粉、右:桃膠。)


【中国を知るイベント「お国自慢大会」】

コロナ禍以降、開催できていないのですが、開店の当初は、店内でさまざまなイベントを開催してきました。

中でも毎月のように開催していたのが、中国人留学生が自分の出身省についてプレゼンする「お国自慢大会」です。甘露のある早稲田・高田馬場地域には、早稲田大学だけで外国人学生が約6,000人おり、その半数が中国人だといいます。


中国各地からやってきた留学生たちに故郷の風土、歴史、文化について語ってもらい、彼らと知り合うことで知らなかった世界を知るきっかけになれば……と考えて企画、実施してきました。


留学生の方々が日本語で資料を作り、日本語でプレゼンをするなかで、特に現地の食べ物の紹介には観客からあれこれと質問が飛んでいました。 (お国自慢大会の様子。スライドを用いて各々がプレゼンをしている。)


【中華コンテンツとの出会い】

2020年4月の緊急事態宣言下、休業期間に中国焼き菓子のオンライン販売をスタートさせました。休業期間の売り上げを何とかカバーしようと急遽始めた取り組みでしたが、全国のお客様がSNSなどを通じて甘露を知ってくださっていたことを知り、営業再開後も継続して販売をしています。


そこで提供していた焼き菓子の1つが中国のアニメ映画「羅小黒戦記(ろしゃおへいせんき)」のワンシーンに出てくるお菓子と似ている! とファンの間で話題となったことから、映画の制作会社「北京寒木春華動画技術有限公司(ぺきんかんきしゅんかどうがぎじゅつゆうげんこうし)」様より甘露にコンタクトがあり、ライセンス契約を締結。2021年秋から期間限定でコラボレーション商品を開発し、販売しました(現在は終了)。

それ以降、中国のアニメやドラマなど、中華コンテンツファンのお客様に多数ご来店いただくようになりました。

(「羅小黒戦記(ろしゃおへいせんき)」とのコラボ商品。)

【中国への入り口になる本を】

そんなある日、出版社・誠文堂新光社さんとフリーランス編集者の十川雅子さんが「初心者向けの中国茶とおやつの本を出しませんか?」と企画を持ちかけてくださいました。まだまだコロナ禍まっただ中の、2021年の夏でした。


甘露はかねてから中国に興味を持っていただく入り口のような存在になりたいと考えています。未知のおやつに興味を持った方、中国茶を飲んでおいしさに感動した方、中華コンテンツの推し活から甘露を知ってくださった方、あらゆる方たちが「中国のことをもっと知りたい」と思っていただけるような場所になりたい。そんな甘露にぴったりの「初心者向けの中国茶とおやつの本」という企画のご提案でした。


今の自分たちに本を出すだけの実力があるのかがわからず悩みましたが、最終的にはチャレンジしてみようという決断をしました。


どんな情報をどんなスタンスで表現するか、皆で頭を悩ませてあれこれ考え企画案を立てたのが2021年の末ごろ。そこから編集会議にかけるための資料を用意し、誠文堂新光社さんと、十川さんと何度もやりとりをして、2022年6月半ばにようやく出版が決定しました。

【旅するような読書体験を】

今回の本を制作するにあたって考えたのが、「現地を旅するように読んでもらいたい」ということでした。

旅に出ることが難しい時期に進めていた企画、執筆だったこともあり、本を通じて妄想旅行に出ていただけるような構成にしようというアイデアを立てました。そこで誠文堂新光社さんに無理なお願いをして、イラストマップを綴じ込んでもらいました。

(『はじめての中国茶とおやつ』イラストマップ。)


お茶の紹介についても、一般的な茶の種類別(緑茶や紅茶、烏龍茶など)ではなく、産地の省ごとに紹介。地図をながめつつお茶について知り、いずれ中国へ行けるようになったときに持って行きたいと思える本を目指しました。


旅気分を高めるためには現地取材です。中国各地の茶館とおやつの紹介は、現地在住者による取材と情報提供をお願いしました。なにせコロナ禍で我々が取材に行くことはできません。お国自慢大会を通じて培った中国在住のお友達ネットワークをフル活用して、取材を行いました。


取材は張さんが指揮をとり5カ月ほどかけて取り組みましたが、いくつもの困難にぶつかりました。まずは、彼女自身が遠隔で指示を出しているため、取材時に写真を確認することができません。

そのため事前マニュアルを用意したり、送られてきた写真を急いで都度確認したり、甘露の仕事を並行して行っていたので、管理が大変でした。


また、取材を依頼したのは現地在住の一般の方です。取材経験なんて、ありません。しかも地域ごとに何人かに分けて取材をお願いしましたので、写真や原稿のクオリティコントロールにたいへん苦心しました。


さらには、みなさんもご存知のとおり、中国ではロックダウンも頻繁に行われていました。その影響で取材に行くことが急遽困難になったり(しかしギリギリで何とかお店の方と直接コンタクトが取れました!)、さらには取材を予定していた茶館が閉店してしまうなど、苦労は数え切れきれませんでした。


産地別のお茶に始まり、現地の茶館とおやつの紹介と、これだけでかなり盛りだくさんな内容になりましたが、甘露のおやつの作り方に興味をお持ちの方が多かったので、せっかくだからレシピも載せよう! と、手の込んだものから比較的簡単に作れるものまで、焼き、蒸し、煮込みなど、バリエーション豊かな11品のおやつレシピを公開しました。


お茶の勉強、現地のガイドからレシピまで、欲張りな構成になっています。この本を通して、もっと中国茶やおやつ、中国の文化に興味を持ってもらう。そんな一冊になれたらとても嬉しいです。

【長くそばに置いていただける本に】

せっかく自分たちで作る本ですから自信を持ってお届けするために、掲載する内容に誤りや偏りがないかを何度も吟味しました。


実は中国茶の世界は常に変化しているため、お茶の規格や定義などは最新の情報を反映させるよう、専門家の方に監修に入っていただいています。また、広大な面積と長い歴史を持つ中国では食文化も多様で、同じ名前のおやつでも全く異なるものがあったり、諸説あるのが当たり前。おやつについてもプロの方にアドバイスをいただき、正確性があり、かつ長く読んでいただける、読み応えのある内容になっていると思います。

 (スタッフ複数名で何度も読み返し、付箋だらけになった原稿。)


【妄想旅行から現実の旅行へ】

この本を通じて中国茶や中国のおやつなど、中国の文化に実際に触れてみたい、体験してみたい、という方が増えてくれたら嬉しいです。さらに、実際に現地の産地や茶館やおやつめぐり、そして推しの聖地巡礼なども一緒にできたら最高です。


ということで、私たちの次の夢は、『はじめての中国茶とおやつ』の旅を現実のものにすることです。


近い将来、この本を通じて出会った皆様と一緒に、旅に出られる日を楽しみにしています。



【書籍概要】

書 名:はじめての中国茶とおやつ

著 者:甘露

仕 様:B5変判、160頁

定 価:1,980円(税込)

発売日:2023年4月10日(月)

ISBN:978-4-416-52355-1


【書籍のご購入はこちら】

誠文堂新光社 書籍紹介ページ:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/hobby/78759/


【書籍に関するお問い合わせ先】

株式会社 誠文堂新光社

〒113-0033 東京都文京区本郷3-3-11

ホームページ:https://www.seibundo-shinkosha.net/

フェイスブック:https://www.facebook.com/seibundoshinkosha/

ツイッター:https://twitter.com/seibundo_hanbai




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