思考力の重要性とともに東大地理の魅力を知ってほしい!『小学生が解いた! 東大地理』が生きる力を養う指針になる。主著者が本書にかける思いとは
山川出版社から『小学生が解いた! 東大地理』が刊行されました。東大地理の入試問題は、じっくり「考える」ことによって解答を導き出すことができる思考力重視の良問揃いで、その中には小学生でも「なぜ」と順を追って考えることで解ける問題が存在します。本書は実際の東大地理の入試問題と、それを小学生に解いてもらった解答を紹介しつつ、問題の概要と思考のプロセスについて解説し、これからの時代に求められる思考力に迫ります。
今回は、数十年にわたって高校現場で地理の教鞭をとり、受験指導に当たってきた主著者・米山宏氏が、本書にかけた想いや意義をご紹介します。
IISBN:978-4-634-59203-2
著者:公文国際学園中等部・高等部 チーム地理=編
刊行:2023年4月
仕様:四六 ・ 192ページ
小学生でも解ける東大地理の問題がある!?
実は、東京大学の地理の入試問題のうち、いくつかの設問は解答へのアプローチの仕方によっては小学生でも解答可能です。小学生のように「なぜ」と順を追って、まさに今流行りのプログラミング思考のように論理的に考えれば正解にたどりつく。それほど東大の問題は論理的思考力、展開力が重視される素晴らしい問題です。しかも、東大地理の問題を解くのは実に楽しい。なぜなら自分の知識をもとに想像力と創造力を駆使して未知なる問いと格闘できるからです。
東大地理入試問題を解く公文式教室の小学生(本書21ページ)
決して解けない問題ではありません。おそらく読者のみなさんは、東大受験の経験者はともかく、東大の問題って恐ろしく難しいものだと思っていませんか? それはある意味正解で、ある意味間違っています。いろいろな表や図を読み取り、思考を巡らせることによって解答を導き出すという手順を踏ませるのが東大地理の王道です。その王道を極める(解く)にはしっかりとした地理的知識が必要なのは言わずもがなで、その知識がない人にはもちろん難しい問題です。しかし、問題によっては小学生でも思考可能な部分もあるのです。
「考える」を通して、「生きる力」の指針を得る
私は地理の高校教員として、勤務校(公文国際学園中等部・高等部:横浜市戸塚区)で30年近くにわたって、東大受験生向けの地理の受験指導を行っていますが、そのたびに東大地理の入試問題は大変よく練られていると感嘆しています。東大地理はじっくり「考える」ことによって解答を導き出すことができる思考力重視の良問揃いなのです。グローバル時代になって、思考力重視が多方面で叫ばれるようになってきました。それは思考力をつけることが、混迷を深める時代の答えのない問いに対処するための非常に重要なファクターになると、誰もが認識するようになってきたからです。与えられた既存の知識だけでは現代世界の課題は解決できなくなっているのです。自分の考えを巡らせ、新たなフェーズに発展させていかなければ課題の解決には至りません。
実際に小学生に提示した問題。言葉遣いなどを改めている(本書42ページ)
本書の1章では東大地理において思考力がどのような役割を果たすか、思考力の何が大切かについて説明します。2章では実際に東大地理の過去問を小学生に解いてもらった解答をもとに、問題の解説と問題を解く上での思考のプロセスについて説明します。3章ではやや思考力から離れますが、東大地理を解く上での傾向と対策を記しました。とくに共通テストとの親和性についても解説していますので受験生にも有用かと思われます。そして4章や「おわりに」では、思考力を高める方法は日常生活においても可能であることを紹介し、また今まで多くの方に暗記科目と思われてきた地理という科目が、実は多く思考力が必要な「考える」科目であり、社会生活上で十分役立ち、場合によっては命を守る可能性すらあることを提示しています。本書は論理的に思考することによって、東大の問題でも一部は小学生が解答できることを示しています。東大地理を通して、地理を学ぶことの意義とそれによって得られる思考力の何たるかの一端を知ってもらい、ひいては、大げさかもしれませんがグローバル化する世界での「生きる力」の指針としていただくのが目的です。
解答の後には、思考法をチャートでわかりやすく提示している(本書76ページ)
「知識のワクチン」で未来に備える
「知識のワクチン」という言葉があります。本来のワクチンは感染症などの病気に対処し、それを予防するためのものですが、現代ではコンピューターネットワーク上のウイルスに対処するためのプログラムもワクチンと呼ばれるように、さまざまな形態の被害に対応したり、それを軽減したりするために存在する手段を、ワクチンと称しているようです。だとするならば、地理の知識はまさに防災上のワクチンといえるでしょう。その土地の地形や歴史的変遷から、ある自然現象が起こるとどのような被害が想定され、したがってそれに対応するためにはどのような行動をとる必要があるか。まさしくそれは命を守る行動であり、だからこそ、その知識をワクチンと称することができるのです。
本書を導く主著者の飼い猫・なべお先生が楽しく指導してくれる。
思考力をもって「考える」地理教育を進めることが、少しでも知識としてのワクチン接種を進めることになります。そして、それがいざという時に効果を発揮し、あなたの命を守ることになるかもしれません。
私が長い間、毎年少数ではありますが、東大受験の生徒に対して指導を行ってきた関係で、圧倒的に東大の問題に触れる機会が多かったという事実があります。結果的に東大地理の出題傾向やその理念が理解できるようになってきたと、勝手に思い込んでいます。何にしても地理教員として東大地理の指導をしているときには、地理教育の神髄を感じることができます。それは何度も書いたように、東大地理の問題が地理的知識を元にした思考力を必要とし、私自身が問題を解く醍醐味を感じてしまうほどだからです。「覚える」地理ではなく「考える」地理を推進してきた私にとっては、そのような問題に鳥肌が立つほどの魅力を感じ、共感を覚えるまでになり、より多くの方々に思考力の重要性とともに東大地理の魅力を知ってほしいという思いから、本書ができあがりました。
思考力に脚光を浴びせ、地理の学問としての重要性を再確認させてくれた東大地理の入試問題に改めて敬意を表し、また、本書が想像力や創造力とともに思考力強化のためのきっかけとなり、結果的に我々が現代社会を生き抜くための力と地球平和いしずえを希求する力の礎になることを願って結びとしたいと思います。
〈執筆者紹介〉
主著者 米山 宏 よねやま ひろし (公文国際学園中等部・高等部 地理科教諭)
執筆協力 中村 洋介 なかむら ようすけ (同上)
齋藤 亮次 さいとう りょうじ (同上)
公文国際学園中等部・高等部 チーム地理
公文国際学園中等部・高等部に勤務する上記の全3名の地理科教員で構成する。主著者は全国中高教育模擬国連研究会を主宰し、執筆協力の2名も教科書執筆などを手掛け、さらに全員が神奈川県の高等学校教科研究会社会科部会地理分科会の海外研修委員会に属するなど、さまざまな教育の分野で活動している。授業では3名全員が協力のうえ、「考える地理・楽しい地理」を目指して、インタラクティブに外部との連携や協同学習、ロールプレイング、シミュレーションなどの手法を実践しながら,新しい授業を模索し合っている。また「百聞は一見に如かず」の精神に基づき、フィールドを重視した授業を展開し、3名が協力した形で毎年多数の巡検(フィールドワーク)を実施している。
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