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80代の著者さんもおられます。

宿泊体験を通じて、感性を養うことの大切さを感じてほしい。移住したグラフィックデザイナーが淡路島で立ち上げた貸別荘「WORM」に込めた想いとは

著者: アティテュード株式会社

2016年に設立したAttitude inc.は、グラフィックデザインを起点に、ブランディング、ビジュアル制作、プロジェクトの企画・立案など、多岐に渡る仕事に携わっています。


仕事と暮らしの環境や心身ともに健やかでいれる場所を探し続け、2020年に現WORMのある淡路島へ移住しました。自然豊かで開放的な立地で、農的な暮らしとクリエイティブ業務を両立させているうちに、心身のバランスが改善し、暮らしの質はもちろん仕事の生産性が上がっていることに気がつきました。そればかりでなく、知らず知らずのうちに自然の中から得られる様々な感性的なフィードバックにより、クリエイティブの質も向上していることに気づいたのです。


WORMが本格開業して数ヶ月が経った今、改めて、開業に至った経緯を書き記すとともに、この宿に込めた想いをお伝えしたいと思います。


グラフィックデザイナーが淡路島に移住した理由


Attitude inc.創業者の置田陽介は、若い頃からアートやデザインの分野に惹かれ、東京の大学を卒業した1998年以降、グラフィックデザインを起点に活動を続けてきました。

2007年より2012年までは生まれ故郷である大阪のデザイン会社grafに所属し、例えば、アートの展覧会を企画しその告知物をデザインしたり、アパレルブランドのシーズンカタログのアートディレクションをしたり、美術書の装丁デザインをおこなったり、カフェのロゴをデザインしたり、アートやデザインにどっぷりの日々を過ごしました。

grafから独立後、2016年に「アティテュード株式会社」として法人化しましたが、その間も、東京や大阪など都市部のクライアントを相手にパソコンモニターとにらめっこし、デザイン仕事に明け暮れる日々でした。


狭いオフィスの中で長時間椅子に座りパソコンモニターを見つめ続ける状態というのは、いうまでもなく動物的に不健康で、そのような生活を20年近く続けていた自分の身体は不調に陥り、しばしば精神的にバランスを崩すこともありました。


また、狭く無機質なオフィスに閉じこもっている状態では、何一つ感性的な刺激を得ることができず、脳が煮詰まり、それがクリエイティブの質にも影響しているように思えていました。


良くない悪循環に陥っていることに気づいても、仕事に追われる日々ではなかなか状況を変えることができない。そのような状況が3~4年は続いていたと思います。


そんな中、2013年に生まれた子供も育ってきて、「マイホームを持とうか」という話題が家族間で話し合われるようになります。2018年頃の話です。


当時は、大阪のベッドタウンである奈良県生駒市に住んでいたのですが、生駒の候補物件を見にいくうちに、「ここで家を買ったら、ますますこの状況から抜け出せなくなってしまうのではないか・・」という不安な思いが湧き上がります。


子供の教育面や暮らしの便利さ、資産面を考えると、それは正しい選択肢でしょう。

でも、私は、そのために「一度しかない自分の人生を不健康で無機質なもので終わらせたくない」と強く思ったのです。また、長い目で見たときに、家族にとっての良い選択肢にも思えなかったのです。


有り難いことに、私のこの思いは家族に受け入れてもらい、そこから、農的な暮らしも取り入れることが出来る田舎の移住先探しが始まりました。


淡路島は、大阪や神戸といった都市部へのアクセスも良く、それでいて開放的な自然環境と空気感が得られる「ええとこどり」の場所として早くから候補に挙がり、何度か通っているうちに今の場所を見つけ、また淡路在住者の良いコミュニティとも繋がりを持てたので、思い切って移住を決めました。


Attitude inc. 仕事事例

コロナ禍での移住。仕事が止まった不安もあったが、島の暮らしに慣れる猶予期間にもなった


2020年3月。

忙しい仕事の合間を縫って引っ越しの荷物を運ぶ日が続いていました。

子供の小学校入学に合わせて、どうしてもその月の間に引っ越さないといけなかったのです。

その時、僕たちの移動と歩を合わせるかのように新型コロナウイルスが猛威をふるいだし、あれよあれよという間に緊急事態宣言が出て、小学校も閉鎖となり、経済も止まりました。

仕事が止まったことには経済的な不安を感じましたが、その状況は自分たちにとっては好都合だったかも知れません。


新しく建てる住居と事務所はまだ建築中でしたが、建築現場に通って、用途の決まっていなかった事務所棟2階スペース(現・WORMのゲストルーム)をどのように使うべきか試行錯誤することができましたし、通ううちに建物や場所への思い入れも増すことができました。


また、慣れない島の暮らしに慣れる猶予期間にもなりました。


それに、都会と違って「密」とは無縁の場所で、思いっきりノビノビと、これまでの凝りをほぐすかのように暮らすことができたのです。


新築祝いに撮ってもらった家族写真。


新居のキッチンで料理をする。


出来たてのガランとしたオフィススペースで作業をする。手前には草刈り機が。



「都会の人が思いっきり開放的になれる宿泊施設をつくろう」


2020年6月。

建物が完成し、引き渡されました。

敷地内には、私たち家族が暮らす住居棟と、1FにAttitude inc.のオフィスが入る事務所棟が立っており、裏には広い斜面の農地が広がっています。


事務所棟の2Fスペースは、将来的にギャラリーやショップ、イベントスペースのようなかたちに出来ないかと考えていました。


淡路島に通ううちに、この島には素敵な本屋もライフスタイルショップも無いことに気付き、島に暮らす若者のことが少し可哀想に思ったのがきっかけでした。


自分がこれまでに培ったアートやデザインの文脈を落とし込んだものを展開し、彼らの将来に何か影響を与えることができないかと思ったのです。


ただ、コロナ禍に突入し、徐々に都会に住む方達へ向けたことをしようという風に、気持ちが移っていきました。


決して一戸あたりの面積が広くない集合住宅で暮らし、コミュニケーションを遮断され、狭い公園を取り合うようにして過ごす当時の都会の人たちの辛さが痛いほどわかったからです。

狭い事務所でパソコンに向き合いつづけ、心身のバランスを崩した過去の自分と重なる部分があったのです。


「窮屈に暮らす都会の人が思いっきり開放的になれる宿をつくろう。」


夫婦で話し合い、将来的にオフィス棟の2Fスペースをそのようにしようと決めました。


その矢先、経済産業省からコロナでダメージを受けた企業へ向けて、思い切った事業転換を目的とした「事業再構築助成金」制度が始まり、それに乗っかるかたちで、「将来的に」という枕詞は消え、実際の計画が加速化していきました。


改装前の事務所棟2Fスペース。

最初はギャラリーやショップにしようと思っていた。

自然のリズムとフィジカルな仕事。ここで暮らし始めてデザインの質が向上した


淡路島に移住してからの暮らしは、これまでのデスクワークに、裏の農地の整備や庭の植栽といったフィジカルな仕事が加わり、心身のバランスが改善されました。


自然のリズムに合わせた早寝早起きで、生活のリズムも良くなりました。


畑に植えた野菜やハーブ、果樹などを収穫し、頂くという贅沢な時間も叶えられています。


美術館に行ったりお洒落な本屋さんに行ったりといったインプットは確かに減りましたが、暮らしの中で目にする海や空の移ろい、昆虫や花の美しさなどから、知らず知らずのうちに感性的な刺激を得ているようで、驚くことに、ここで暮らしはじめてからデザインの質が向上したと実感しています。


ダラダラと机に座っていなくなった分、仕事の効率が良くなったことも大きいように思います。


AI時代に突入した現在、人間に問われることは、コンピューターが出す答えとは異なる、感覚的な部分はないでしょうか。


人と違った発想で新たな価値観を生み出したり、「何故だか分からないけれどすごく惹かれる」ようなサービスを生み出す、そんな感性的な資質を持つことが、これからの私たちには必要なのではないでしょうか?


そのためには、忙しい都会のオフィスを抜け出して、「感性の土壌を耕す」時間を持つことが、ますます重要になってきているように思います。


WORMに詰め込んだのは、そのような想いです。



感性の土壌を耕すために、宿の既成概念を取り払った


では、「感性の土壌を耕す」ために、どのような宿を作るべきか?

私はその答えを、「宿という既成概念を取り払う」ことに求めました。


自分は、ほとんどの日本の宿泊施設が、快適さと安心感を守るため、どこも同じようなサービスしか提供していないことに気がつきました。

そういった場所からは、新たな価値観や感性的な刺激を得ることができないと感じていました。


若い頃、海外の様々な地を旅した際に新たな視界が開けたような感覚を、日本の宿泊施設でも提供できないかと考えたのです。


そういった工夫の一端をご紹介します。


部屋の仕切りを無くすことで、宿泊者の視界に常に大窓からの自然の景色が入り、意識せずとも常に時の移ろいを感じながら過ごすことができる。


中央にオーバル型の巨大なテーブルと多様なデザインの椅子を配置。

気分や用途に応じて、自由に使うことができる。


インテリアは、古いものと現代的なもの、洋風のものと民族的なものを同居させる。

これにより、どこか知らない異国に住んでいるような感覚に誘う。


食事の提供をしない代わりに充実したキッチンを用意。

裏庭にゲスト用のハーブ園を設け、普段とは異なる料理へのチャレンジを促す。


食器や調度品は、作家もの/量産品を問わず、自分がこれまで様々な地で出会い集めてきたものを中心に構成。

型にはまらないミックステイストを楽しむことが出来る。


メンテナンスのしづらさを度外視して、床材にカーペットを採用。

裸足で開放的に過ごしてもらうことが出来る。


こういった工夫を懲らすことに、莫大な時間と、補助金ではとてもおさまらない金額をかけ、2022年11月にWORMが完成します。








私たち家族がゲストと同じ敷地内に暮らしているので、日々アップデートが可能。


冬の試運転期間を経ての本格オープンから、現在、数ヶ月が経ちましたが、おかげさまで予想以上に多くのお客さまに泊まっていただいております。


宿泊して下さった方からの反応も非常に良く、パートナーの誕生日祝いだったり特別な日を過ごされるケースが多いのも嬉しいところです。(なんと、プロポーズの場所にWORMを選ばれた方もいらっしゃいます! 見事、成功。)


お客さまからのフィードバックの中で、内装やインテリアへの評価と並んで多いのが、「自分の部屋のように寛げた」「まるでここに暮らしているようだった」というご意見です。


WORMは、通常のホテルや旅館、貸別荘と違って、ゲストに泊まっていただく施設と同じ敷地内に私たち家族が暮らし、仕事をしています。ともすればネガティブなポイントになってしまうところですが、大きなアドバンテージでもあることに最近気づきました。


それは、お客さまの要望をスピーディーに読み取り、改善点を即座に反映させることができることです。


また、家具や食器、備品類なども自宅でしばらく使ってみて、良かったら宿に採用するということができることもメリットです。そうやってオープン後に修正したり機能を追加した箇所は何十箇所にも及びます。(もちろん、すべての要望に応えるわけではなく、WORMの大事にしているポイントを阻害しないかどうかの見極めをおこなった上で修正をおこないます。)


そうして日々アップデートされる宿でお客さまが喜んでくださっている姿を目にすることで、私たち家族にも良い影響が及び、毎日が豊かなものになっていっていることにも気がつきました。


「WORM」というネーミングの由来である「ミミズ」のように、これからも、土を耕し、豊かさの連鎖を引き起こせるような存在であり続けられたらと願っています。



WORMを象徴する、エントランス扉の持ち手。

陶芸作家にオリジナルで作成して頂いた。




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