読者のクチコミで大ヒットした「ミステリ史上最も衝撃的な3部作」はここから始まる。ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』の出版秘話
2021年に創元推理文庫から刊行した『自由研究には向かない殺人』は、イギリスの作家ホリー・ジャクソンが執筆した、高校生ピップが主人公の3部作の1作目です。この作品は刊行以来たいへんご好評をいただきまして、年末ミステリランキングでも高順位にランクインしました。
*第1位 〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 海外篇
*第2位 『このミステリーがすごい! 2022年版』海外編
*第2位 〈週刊文春〉2021ミステリーベスト10 海外部門
*第2位 『2022本格ミステリ・ベスト10』海外篇
*第2位 本屋大賞「翻訳小説部門」
このストーリーでは、本書の担当編集者である佐々木日向子が原書を見出した経緯から、翻訳と編集、出版までを振り返ります。
編集者人生初の「シンクロ」、からの翻訳出版が決定するまで
この作品と担当編集者であるわたしが出会ったのは、海外のあるサイトがきっかけでした。A Good Girl's Guide to Murderというタイトルに興味を惹かれたのです。直訳すると、「グッドガールの殺人ガイド」。いったいどういう意味なんだろうとあらすじを読んだところ、17歳の高校生の女の子が学校の自由研究で過去の事件を再捜査するという内容でした。なにそれ面白そう!と思ったわたしは、すぐに日本で翻訳出版できるかどうか、海外著作権を扱うエージェントに連絡を取りました。そして同時に、この作品を翻訳してもらうとするなら、数年前に『誰かが嘘をついている』(カレン・M・マクマナス著)を翻訳してくださった服部京子先生にぜひお願いしたいなと考えていました。この作品も、高校が舞台となっているいわゆるYA(ヤングアダルト)ミステリで、ティーンエイジャーのテンポのいい会話の翻訳がとても魅力的だったからです。
そして翻訳権について問い合わせてしばらく待っていたところ、服部先生からメールが届きました。
「YAミステリのおもしろい作品を見つけました」
それがなんと、このA Good Girl's Guide to Murderだったのです!!
ええっ!? これはわたしが興味を持って、服部先生に翻訳してもらいたいなあと思っていた作品では!? こんなシンクロが起こるなんて……もはやもう……運命? と、大袈裟に言えばそういう流れでたいへん驚いたのですが(編集者を10年以上やっていて初めての出来事でした)、その後、この作品は無事に東京創元社で翻訳出版できることになりました。めでたし!
SNSを駆使した捜査の斬新さ、爽やかな青春ミステリとしての魅力
『自由研究には向かない殺人』は、高校生のピップが、卒業の資格を得るための試験と並行して独自におこなう自由研究(EPQ)の題材として、かつて自分の住む町で起きた17歳の少女の失踪事件を調べることから始まります。交際相手の少年が少女を殺して、自殺したとされていた事件で、その少年と親しかったピップは、彼が犯人だとは信じられず、無実を証明するために、自由研究を口実に関係者にインタビューをしていきます。しかし、身近な人物が容疑者に浮かんできてしまって……。
この作品はピップによる事件の調査記録、インタビューの書き起こしや一部が黒塗りにされた警察の書類などがそのまま掲載されているというスタイルの物語です。SNSも駆使して調査に挑む高校生が主人公というのは、翻訳ミステリとしてとても新鮮な設定でした。ひたむきに真実を追うピップを応援したくなる爽やかな青春ミステリであり、謎解きも素晴らしく、英米でもベストセラーとなっていました。おかげさまで日本の読者にも広く受け入れていただきました。
日本の読者にアピールできる日本語版タイトルを
ちなみに原題を直訳した「グッドガールの殺人ガイド」ですと、日本の読者には「主人公が学生で、自由研究で事件を捜査する」というこの作品の魅力が伝わりにくいなあと思いまして、日本オリジナルのタイトルを考えることにしました。そこで過去の名作ミステリのタイトルを参考に『自由研究には向かない殺人』という邦題を考えました。このシリーズには2作目のGood Girl, Bad Blood(邦題『優等生は探偵に向かない』)と3作目As Good As Dead(邦題『卒業生には向かない真実』)にも「good」が入っており、著者のこだわりが感じられました。そこで日本でのタイトルにも「向かない」を共通させることにしてシリーズ感を出しました。いやはや、なんとかいい感じで共通点を表現できるタイトルを考え出すことができて、本当によかったです。
1作目のすごさは偶然じゃない! シリーズ第2作『優等生は探偵に向かない』
そして『自由研究には向かない殺人』の続編『優等生は探偵に向かない』を翌年に刊行し、こちらも大変ご好評をいただきました。年末のミステリランキングでも上位を獲得しました!
*第3位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 海外篇
*第3位 〈週刊文春〉2021ミステリーベスト10 海外部門
こちらは、ピップの友人の兄が失踪してしまい、警察が捜索してくれなかったため、彼女が調査に乗り出すというお話です。この2作目も、ピップによる多数の調査記録、インタビューの書き起こし、イラストや写真、友人の家の間取り図まで掲載され、読んでいるみなさんもピップの調査の過程をリアルに感じられるような仕組みになっています。SNSを使った情報の集め方も1作目以上に巧みで、臨場感がたっぷり。
この『優等生は探偵に向かない』がすばらしいのは、読みはじめたときからはまったく予想もつかない展開になるところ。ネタバレになってしまうのであまり詳しく言えませんが、あるところでぐわっと「何これ!?」という出来事が起こり、そしてピップの推理をたどっていって判明した真相に呆然……。いやはや、ホリーさん(著者)の頭のなかってどうなってるんでしょうと驚きました。
衝撃の3部作完結編! 『卒業生には向かない真実』絶賛発売中!
そしてついにこの夏――2023年7月18日、3部作の完結編となる『卒業生には向かない真実』を刊行いたしました!! 文庫の帯のキャッチコピーにはこう書きました。「ミステリ史上最も衝撃的な3部作完結編」!
『卒業生には向かない真実』は、『優等生は探偵に向かない』の事件の数ヶ月後からお話が始まります。大学入学直前のピップに、ストーカーの仕業と思われる数々の出来事が起きていました。無言電話に匿名のメール。家の敷地内に置かれた、首を切られたハト……。それらの行為が、6年前の連続殺人の被害者に起きたことと似ていると気づいたピップは、調査に乗りだしますが……。彼女がたどりついた、恐るべき真実とは……。
この真実を、誰が予想できたでしょうか? まさかこんな展開になるなんて!!!という衝撃に襲われること間違いなしです。と、とにかくすごい!
先生からいただいた翻訳原稿を読んだばかりの、わたしの感想メモの一部をご紹介します。
「凄まじい作品だった……3部作の締めくくりがこんな内容になるなんて、思いもしなかった……す、凄すぎた。ミステリとして、ピップという女の子の物語として、すごいことは確かだ。そしてとてつもなく面白い、ということも。面白いと言ってしまっていいのかと思うくらいとんでもない話だけど、それ以上にすごく面白い!」
この感想文には編集者として語彙の少なさにちょっと落ち込みますが、まあとにかく衝撃を受けていた、ということです。何かすさまじい作品であるということは伝わったでしょうか? ぜひ手に取っていただきたい作品です! 3部作はすべてつながっていますので、ぜひ1作目の『自由研究には向かない殺人』から順番に読んでいただけますと幸いです。
かつてない読書体験をお約束いたします!!
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