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自分たちにしか作れないユニークな缶詰「のどぐろ干物缶・塩仕立て」の誕生背景と、開発に込めた想い

著者: 株式会社シーライフ


株式会社シーライフは、2006年に創業した水産加工会社です。国の特定第三種漁港の一港に指定されている島根県浜田漁港内にあり、浜田漁港がブランド化を進めている「どんちっち3魚(アジ・ノドグロ・カレイ)の干物を中心に、都内の百貨店や料亭、ふるさと納税などで全国のお客様からのリピーターも多く居て、毎年のように顧客を増やしながら、新しい商品を産み出しています。

2018年には、浜田市内において実に約27年振りとなる缶詰産業を復活させ、自社内で缶詰製造事業をスタートさせました。目の前の港で水揚げされる鮮度の良い魚でつくる新しい缶詰をコンセプトに、高級魚のどぐろの缶詰や未利用魚を有効活用したSDGs缶詰「今朝の浜」など世の中になかったユニークな缶詰を展開してきました。中でも、2023年4月に発売した「のどぐろ干物缶・塩仕立て」は、創業以来の主軸商品である干物と、新規事業の缶詰を引き合わせた斬新な缶詰になります。


このストーリーでは、開発を目指すきっかけとなった専務の想い、シーライフの缶詰事業の今後についてお伝えします。


創業当初の苦しい業績を救った、突然の「のどぐろ大ブーム」


島根県浜田市


当社は、2023年で創業18年を迎える水産加工会社になりますが、古くから水産加工の町として栄えてきた浜田市においては創業100年を超える老舗店や、親子数世代にわたって干物づくりをしている店や工場も多々あり、当社は市内では比較的新しい会社で、業界では新参者という立ち位置です。


もともと、20代の頃から水産加工会社に勤務していた社長の河上清志が40歳を目前に一念発起して、身内や有志とともにシーライフを立ち上げました。創業当初は、前会社でも製造していて経験値も高い干物や味醂干しを製造し、大阪や東京の競り市場、地場のスーパーなどへ販売をしていました。アジやカレイ、サバなどの大衆魚の干物を製造していましたが周りの工場に比べて人数や設備が劣るため生産量では敵わず、コストが割高となり、想い描いていたような自社の成長曲線とは程遠い業績となっていました。また、浜田漁港では年々水揚げ量が減少傾向にあり、安価な原材料が揃わないため干物を製造する加工会社を苦しめていました。


ところが、2014年にテニスの全米オープンで準優勝した島根県出身のテニスプレーヤー錦織圭選手が、試合後の記者会見で放った「のどぐろが食べたい」という一言で浜田市内の水産加工会社の忙しさが急に変わります。それまでアジやカレイの陰に隠れていたのどぐろが、全国放送のTV番組などで数多く紹介され、当社にも注文が殺到しました。この出来事を機に、のどぐろの干物、あるいはのどぐろを加工した商品を主軸品としたビジネスモデルを展開していくこととなりました。


のどぐろ(アカムツ)


干物だけでは先がないと感じ、無理だと言われながら始めた缶詰事業


専務・河上清貴


のどぐろの干物が人気返礼品となり、ふるさと納税が本格化した頃の2016年には、高校卒業後に大阪でサラリーマンをしていた専務の河上清貴が地元にUターンをして一緒に会社や地域を盛り上げることになりました。しかし、のどぐろの干物は好調であった一方で、他の干物の売れ行きは激減し、市場の縮小がさらに強まっていました。この頃から、のどぐろの水揚げ次第では経営が不安定になるという危機感を覚え、干物に代わる事業を模索し始めました。そして、その不安は的中してしまい、2020年を過ぎた頃からのどぐろの水揚げ量は少しずつ減り続け、2022年度は前年の水揚げ量を大幅に下回る数値となりました。


その際に、創業を後押ししてくれた地元の船会社の役員や、随所で製品づくりのサポートを行ってくれている行政の専門機関の人から勧められたのが缶詰事業でした。元々、浜田市には干物製造業と並ぶ産業として水産缶詰の製造が盛んに行われていました。魚が大漁に獲れていたころ、干物と同じように魚を保存する方法の1つとして缶詰文化が根付いていました。しかし、漁獲量の減少と、海外製造の安価な缶詰が流入したことで浜田市内に十数か所あった缶詰工場はすべて廃業していました。昔から変わらず缶詰市場は大手工場がシェアを独占している状態であり、低価格商品が主流であったことから缶詰事業への参入は、金融機関や税理士など多くの人から反対を受け、干物一本で事業を細々と続けていくよう何度も説得をされました。また、地方で新しい事業やビジネスを始める際には、必ずと言っていいほど昔から事業を営んでいる会社や団体との衝突が発生し、実際に一部の水産会社や仲買人から冷ややかな扱いを受け、成功するはずが無いと言われ続けていました。


しかし、干物の市場状況を踏まえると、新たな製品づくりが急務であると感じとっていました。あらゆる製品の可能性を模索する中で、製造サポートや技術ノウハウが受けやすい缶詰事業に取り組むことに決めました。製造体制の確立と、市場のリサーチを進めるまでの間は、近くにある県の試験場にある機器を借りて、約1年間ほぼ毎日のように日替わりで魚を持ち運んで、試作缶を製造し続けました。試作を進める中で、魚の良さ、特に鮮度の部分で美味しさが変わる面白さを見つけ、「これは、大手工場には真似できない、地方ならではの缶詰ができる!」と思い、数百万円を投資して、缶詰製造機を導入することを決心しました。すべては、未来ある水産加工業を行うため、1つでも多くの武器を見つけておきたいという想いから突っ走しるようにして、周りを無視して事業を始めました。



このように周囲の期待も薄い状況で始めた缶詰事業でしたが、高級魚のどぐろの缶詰や、日本初のアジの缶詰、未利用魚を使った日替わりの水煮缶詰などこれまでに10種類以上の自社製品の発売に成功し、県内をはじめとする多くの企業や生産者とのOEM共同開発品を手掛けることができました。今では年間約20,000缶の製造を行っていて、当社の主軸事業の1つに成長することができました。


成功できた1つの要因は、のどぐろがブームとなっている最中にも冷静に自社や市場が置かれている状況を見つめ直し、危機感を抱けたことが挙げられます。2018年頃は、サバ缶のブームやコロナによる宅飲みが広まる前であり、おつまみ缶や高級缶詰といった市場が出来上がっていない状況でした。それにも関わらず、魚を手軽に食べてもらうために、食卓にあるいは店頭で手に取りやすくしてもらうための手段として缶詰を選んでいたことは、上手く市場の行く末を判断できていたことになります。調子の良い時こそ、次なる1手を考えておくことはこれからの事業においても重要なポイントになりそうです。事業が安定してきた頃、専務の気持ちとしては、もっと自分たちにしか作れない缶詰を作りたい、自社だけでなく地域や業界の発展のためにもなる缶詰をつくり、缶詰の新しい価値を生み出したいという想いを抱くようになりました。



自分たちにしかできないユニークな缶詰の開発を目指して


次なる缶詰の開発に向け、自社や地域の強みや理想像、当店で購入いただくお客様の想いを改めてリサーチしたところ、「地域の特産品である“干物”に対する思いや憧れ、“干物”を通じた地域活性化を求めていることが多い」という仮説を立てました。



近くの道の駅で缶詰を納品していた時の話です。

県外から観光で来られている多くのお客様が冷凍の干物を見ておられました。しかし、「浜田といったら干物だよね、美味しそうだけど、車で来ているから持って帰るまでに溶けてしまうよね。」「美味しそうだけど、家で焼くとキッチンが汚れるし、匂いが気になるからやめておこう。」など目に留まり、手には取るけど購入には至らないという状況を目の当たりにしました。


そこで、せっかく常温で日持ちができる缶詰を製造できるので、「干物を缶詰にできないか」、「缶詰で干物をPRできないか」という考えに至りました。それが、2020年頃の話ですが、当時は思い立って何度か見よう見まねで試作をしてみましたが、缶詰特有のレトルト調理が、干物の焼いたときのジューシーさとは程遠く出来栄えは散々でした。そもそも缶詰は煮込み料理や蒸し料理の要素が強く、干物のような焼き料理とは反対の特性がありました。社員も少ない中で、自身は営業や販売に追われる日々だったため干物缶の開発にかける時間は減り開発はストップしました。しかし、私も含め社長や、周りの有志らは缶詰で干物が食べられたら面白いとはわかっていたため、完全には諦めきれず、開発のチャンスをうかがっていました。これまで当社では、干物製造の合間に缶詰製造を行っていたため、限られた人員で手間が少ない水煮缶詰ばかりを製造していました。しかし、多くの企業や生産者あるいは飲食店のシェフから○○○のような調理された缶詰を作って欲しいなど要望が相次ぎ、先のサバ缶ブームも加わった加工場はパンク寸前となり、専門の缶詰製造員の必要となりました。そのような経緯で製造や開発にかける人員が揃い、様々な缶詰に挑戦することで、今まで問題視しなかった工程の課題や、調理ノウハウを習得することが可能となり、干物を缶詰する際の問題も判ってきました。



干物を缶詰にする際の1番の問題点は水分量ということが判明し、通常の干物よりも水分をしっかりと取り除くために、機械の選択や、乾燥時間や乾燥温度の調整、乾燥前後の保管の仕方、魚の大きさや切り方の工夫など1つ1つの工程を見直していきました。繰り返し試作を行い、およそ1年の歳月をかけて最善な水分の抜き方と缶詰にした後の最高の食感を見つけ出しました。


のどぐろ干物缶・塩仕立て


2023年4月から発売。出来上がった干物缶詰は、干物を焼いたときに感じられる皮目の香ばしさと、柔らかい身のジューシーさが再現されていて、焼き魚に近い食感を実現することができました。製造工程の中で、缶に直接は調味液を注入しないことで、皮目にほんのり焼いたような焦げができ、まるで本当に焼いた魚を缶に詰めたような缶詰が出来上がりました。


「のどぐろ干物缶・塩仕立て」パッケージ


缶詰を入れるパッケージにもこだわり、メイン部分に入れた文字は「是、干物也(KORE HIMONONARI)」。デザインは、当社が今年から新しくしたギフト用の干物セットで使用している魚を入れる袋や、郵送するための梱包箱と同じ見た目にしました。かっこいいデザインに仕上がっているので、手土産やプチギフト用に買うのはもちろん、ちょっと贅沢をしたい週末の晩酌用に買っていただいても、気分が上がる商品になっています。缶詰という若い世代も受け入れやすい商品に、干物という文字と、これは干物なんだ!という明確なメッセージを込めることで、干物の認知度向上や市場の拡大、地元の活性化を目的としています。発売後3か月で、地元の道の駅やお土産店を中心におよそ500缶を販売しました。少しずつ、県外の企業からの引き合いも増えてきていて、8月には東京で行われるシーフードショーへも出品して、首都圏での常設販売を目指して営業活動を行っていく予定です。このペースでいけば年間2,000缶の販売となり当社においては上々の売れ行きにはなりますが、SDGsの流れから業界をあっと言わせ、年間10,000缶以上を販売したサスティナブルな缶詰「今朝の浜」を超えるような人気商品になることを期待しています。


未利用魚を使用したサスティナブルな缶詰「今朝の浜」


シーライフの缶詰事業は、設備の都合で生産量は限られていますが、自分たちにしか作ることができないオリジナル性とストーリー性のあるご当地材料ならではのユニークな缶詰の開発を目指しています。特に、小ロット製造だからこそ手掛けることができる魚を缶詰にすることで、食卓に魚料理を並べやすく、魚を身近に感じてもらい、その取り組みを通じて地域の活性化や生産者の増加を目指したいと考えています。これからも限りのある資源をもっと有効に活用をして、漁港や水産業界の課題解決、地域の発展に向けた商品づくりに励んでいきます。



商品概要

・商品名:のどぐろ干物缶・塩仕立て

・内容量:50g

・希望小売価格:1,000円(税抜)

・公式オンラインショップ販売ページ

https://ec-sealife.net/products/detail/117





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