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人の数だけ、物語がある

全国の小・中学生に気づきと可能性を。「おしごと年鑑」が100社を超えるトップ企業の協賛を集めるまで

著者: 株式会社朝日学生新聞社

「君たちはどう働くのか?」 そんなキャッチコピーの帯が目をひく大判の本を、今年も発売いたしました。


「おしごと年鑑」は、新聞社による学校への寄贈図書として2016年にスタートしました。家でも読みたいという声にこたえて市販版が生まれ、今ではほとんどの掲載記事が公式サイトにも公開されております。


小学生、中学生たちが進んで手に取るユニークなおしごと紹介本誕生のいきさつと、プロジェクトに込められた思いを、朝日学生新聞社「おしごと年鑑」編集部に語ってもらいまました。


学校で始まった「キャリア教育」の取り組み


いま学校で、子どもたちが毎年取り組んでいる「キャリア・パスポート」をご存じでしょうか?


これは学習状況や進路の見通しを自ら記録するポートフォリオで、文部科学省の方針により2020年4月から全国の小・中・高校に導入されました。


統一の書式はありませんが、いま小学1年の児童であれば高校3年まで12年分のパスポートが蓄積されることになります。



教育現場のこうしたキャリア教育の高まりをいち早く察知した朝日新聞社の一社員のアイデアによって生まれたのが「おしごとはくぶつかん」事業です。


学校の先生方の多くは、教員以外の仕事について詳しく知りません。一方、世の中の企業は子どもたちに自社の仕事を知ってもらいたいと願いつつも、その術がありません。


新聞社なら両者をつなぐ役割を担えるのではないか。


そこで、ウェブサイト「おしごとはくぶつかん」と、本のかたちの「おしごと年鑑」で協賛企業のリアルな仕事を紹介し、全国すべての小・中学校3万校に無償で寄贈するビジネスモデルをつくりあげました。

社内コンテストから「おしごと年鑑」が誕生!


この構想を2014年に社内の新事業創出コンテストに提出。ここには毎年、さまざまな部署から数多くの提案が寄せられます。

応募企画は社会的意義だけでなく、事業の成長性など、多角的な視点で評価されます。


「おしごとはくぶつかん」が教育分野の課題解決に役立つ点は認められながらも、世の中に類似のメディアが見当たらず収益性は未知数でした。

トライアル段階に進んだものの、立ち上げの実績次第では即ストップがかかります。


まずは本事業の趣旨にご賛同いただける企業探しからスタートです。どんな媒体なのか、そして企業や学校の先生、何よりも小・中学生読者にどんなメリットがあるのか、一から説明を繰り返しました。


こうして2016年の創刊時は50社の掲載にこぎつけました。


その翌年は「おしごと年鑑」をご覧いただくだけで、企業ご担当者の反応が変ります。

「こんな本があるのですね!」。

オリジナリティあふれる現物のパワーが効いたのです。

2年目にして掲載社数が一気に倍増し、コンテスト発の事業が本格化する貴重な成功例になりました。


以降、毎年の協賛社数は100を超えます。


最新版では、大塚製薬、資生堂、ライオン、鹿島建設、佐川急便、セブン-イレブン・ジャパン、日本気象協会など、さまざまなジャンルの企業・団体を紹介し、300ページを超える分厚い年鑑に成長しました。


▲「おしごと年鑑2023」の掲載企業はこちら

子どもたちにいかに楽しく「おしごと」に興味を持ってもらうか


学校、企業の双方にご評価いただいているのは、何よりも内容の面白さです。


子どもたちが進んで手に取ってくれるよう、さまざまな工夫を凝らしています。1社見開き2ページの誌面では、必ず素朴な疑問形の見出しを立てています。


●「おしごと年鑑」の誌面から①

「ロボットがセキュリティをする時代ってホント?」

警備員の代わりをするロボットってどんなもの? 街中で活躍するセキュリティロボットについて、セコムに教えてもらったよ。


●「おしごと年鑑」の誌面から②

「「赤いきつね」のつゆには、なぜ4種類の味があるの?」

麺にお湯をかけて数分で食べられる「マルちゃん 赤いきつねうどん」のつゆは、地域によって味が違います。意外に知られていないこの事実の真相について、東洋水産に教えてもらったよ。


●「おしごと年鑑」の誌面から③

「線路の石はどうやって作られているの?」

線路の下には「敷石(しきいし)」という、大きさがほとんど同じ石がたくさん敷かれています。敷石は、どんなところでどうやって作られているのでしょうか? 古河機械金属に教えてもらいました。

働く人たちのリアルな情報で、将来のイメージが描ける


取りあげる仕事の内容も、身近な暮らしから、食品、インフラ、科学技術まで、バラエティ豊か。あえて固定フォーマットは作らず、図解あり、マンガあり、写真ありのにぎやかな誌面にし、読者に飽きずにページをめくってもらえる構成にしています。


企業側のご担当者はふだん大人向けの広報や情報発信をされているものの、子ども向けとあって、どんなところにスポットを当てるかは思案のしどころです。

編集部とのミーティングは毎回熱を帯び、2ページの誌面を校了するまで3カ月近くの試行錯誤が続きます。


どの会社も最後に「答えてくれた人」というコーナーを設け、働く人たちの生の声を載せています。


「建物が完成し、多くの人に喜んでもらえたときに誇りとやりがいを感じます」

病院の建物をつくるとき、どんなことをしているの? 株式会社フジタ)


「いろいろ考えてみることも大事だけど、何よりもまずはやってみること」

注射が痛くなくなる工夫ってどんなもの? ノリタケカンパニーリミテド)


「ワクチン作りには複雑な工程や作業があり、さまざまな人との共同作業も重要なので、誠実さも大切です」

ワクチンはどうやって開発するの? 日本製薬工業協会)


こうした大人たちの率直な仕事観は、きっと子どもたちの心に届くことでしょう。


▲茨城県大洗町立南小学校の5年生の児童たち(2023年1月)


発刊後、うれしいことに編集部には多数のメッセージが届きます。


ある先生は「目まぐるしく社会の仕事内容が変わっていくなか、こうして毎年発行していただくのは大変ありがたいです。また、全ページカラーのため、子どもたちが手に取りやすく、楽しく読んでいます」と感想を寄せてくれました。


2022年版は、7万5000部を発行しました。

国内だけでなく海外の日本人学校、あるいは子ども食堂、小児科病棟のある病院にも寄贈しました。


小さな子どもたちが「おしごと年鑑」を広げて、食い入るように読みふける写真をいただくこともあり、大きな手ごたえを感じています。

プレゼン大会を通じて、夢が具体的な目標に


授業での活用も広がっており、大阪府泉南市立信達中学校では2021年秋に2年生全5クラスの204人が「おしごと年鑑」を使って、企業プレゼン大会を行いました。


一人ひとりが年鑑の中から気になる企業1社を選び、調べたことをスライドにまとめて発表するというもの。クラス代表10人が決勝大会に進み、Google Meetで2年生全員の前でプレゼンを行いました。


発表動画は、編集部を通じて企業担当者にも届けられ、適切なアドバイスをもらって大成功の企画となりました。


北海道南西部にある厚沢部町立厚沢部中学校でも2022年12月から翌年2月にかけて2年生が、同様のプレゼン大会にチャレンジ。


航空会社で働くのが夢という生徒は成田国際空港を選び、「(航空会社で飛行計画を作る)ディスパッチャーになりたいと強く思いました」と感想を語り、夢が具体的な目標に変わる瞬間となりました。


▲プレゼン大会に取り組んだ厚沢部中の2年生たち(2023年3月)


紙媒体としての「おしごと年鑑」は部数に限りがありますが、公式サイト「おしごとはくぶつかん」内のウェブ版「おしごと年鑑」でほぼすべての記事を無料で読むことができます。


GIGAスクール構想によって、1人1台端末が実現したこともあり、教室でのおしはくサイト閲覧も増えています。


事業が成長段階に入ったため「おしごとはくぶつかん」は、2022年7月に朝日学生新聞社に移りました。創刊から半世紀以上の朝日小学生新聞、朝日中高生新聞を発行する、教育に特化したグループ会社で、さらなる深化、拡大を図っています。


子どもたちに「世の中には、こんな仕事もあるんだ!」とさまざまな可能性を知ってもらおうと、毎年の誌面づくりが楽しみでなりません。



【書誌情報】

書名:おしごと年鑑2023

https://oshihaku.jp/yearbook/

編者:朝日学生新聞社

発売日:2023年7月7日

定価:2,200円(税込み)

発行:朝日新聞出版


【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】

朝日学生新聞社 教育事業室

Email:agk-education@asagaku.co.jp





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