400年ぶりに復活した芦屋釜の伝統を守る鋳物師「日本の文化遺産を未来へと繋ぐ」
芦屋鋳物 陽は2023年11月22日に、⽇本の伝統と技術が息づく錫製酒器『天地の詞(あめつちのことば)』の発売を開始します。この錫製の酒器には、伝統工芸品である芦屋釜の技術を用いて制作されています。
南北朝時代に起源を持ちながら、江⼾時代に姿を消してしまっていた芦屋釜。この幻の名品とも呼ばれる名品は、平成の世になってから、福岡県遠賀郡芦屋町の芦屋釜復興事業によって現代に蘇りました。
芦屋釜復興事業に於いて、養成員として16年間の修⾏を終え、今回の商品を企画・制作したのが芦屋釜鋳物師の樋口陽介でした。本ストーリーでは、伝統を守る彼の挑戦を伝えます。
国の重要文化財にも多数登録される「芦屋釜」の復元に挑戦するまで。
芦屋釜とは、福岡県遠賀郡芦屋町で製作される鉄製の茶の湯釜のことです。
中世には茶道の世界で高く評価され、国の重要文化財にも指定されている9つの茶の湯釜のうち8つが芦屋釜です。しかし、江戸時代初期には製作が途絶えてしまいました。
そんな芦屋釜の復元に取り組む鋳物師が、樋口陽介さんです。樋口さんは1980年に福岡市で生まれ、美術教師を目指して福岡教育大学大学院美術教育課程を修了しました。そこで鋳金というジャンルに出会い、芦屋町から鋳物師養成員の募集があったことを知り、応募します。
「初めて芦屋釜を見たときの鉄の迫力、芦屋釜の持つ存在感と力に引き寄せられた」
「これまでの研究などによって判明している芦屋釜の特有の製法を全て取り入れることは難易度が高い。けれども挑戦してみたい。」
「これまで知らなかった世界へ飛び込んだ。和鐵の製錬法や取り扱い、すべてが無条件に楽しかった。ものづくりを通して歴史や物語が見えてくる等、本質的なものづくりの面白味に気づいた。」
そのような思いや原体験から挑戦を決意したと振り返ります。
2005年から芦屋町の研究施設「芦屋釜の里」で修業を始めた樋口さんは、全国に残る芦屋釜の調査・研究を基に、昔の人が作り上げた技術を習得するために努力しました。
芦屋釜復元は、とても高い壁。鋳物づくりの厳しさ、肉体労働、芦屋釜の特徴である薄さや文様、形など繊細な作業を繰り返し、伝統の製法を再現することは容易ではありませんでした。それでも樋口さんは「一度途絶えた歴史を持つ芦屋釜は、まず昔の人が作り上げた技術を正しく再興することが大切だと思っています」と語り、芦屋鋳物師の復興を目指す職人の一人として〝真の復元〟を目指しました。
2021年4月に16年間の修業を終えて独立した樋口さんは、芦屋釜の里内の芦屋釜復興工房で芦屋釜の製作を続けています。
また、鋳物師としてだけでなく、美術家としても活躍してきました。美術性の高い作品作りにも精力的に取り組み、佐野ルネッサンス鋳金展で大賞や佐野市長賞を受賞するなど、その才能を発揮しています。また、中国青銅器の研究にも参加し、青銅器に鋳込まれた古代文字「金文」の製作技法を応用するなど、芦屋鋳物師としての魂を常に忘れずに芦屋釜の里を「東アジアの鋳物研究・生産センターにしたい」という夢をもっています。
芦屋町への恩返しと、伝統や文化を後世に残していくための活動が制作のきっかけに
室町時代の名品に迫るべく、先人達の高い技術力と精神性を紐解きながら「芦屋釜は、芦屋町の文化遺産。残さなくてはいけない」との強い思いを持ち、現代の芦屋釜の技術と品質の向上に取り組む傍ら、蘇った伝統を二度と失わないように時代を越えて残していくためには、技術だけでなく教育普及も重要だと考えています。
樋口さんは、芦屋釜の製作だけではなく、鏡や印鑑などの鋳物製品を作る体験の為、様々なワークショップを通じて芦屋釜や鋳物に興味を持ってもらう活動も行っています。
伝統工芸品の中に宿る力で「人と人が豊かになれる時間や空間」体験をより多く広めていきたいという願いとともに、時代の変化に対応しながら伝統を残していくために、復元させた製作技術を生かした多様な鋳物製品が必要である。
この様な考えにより、芦屋釜づくりで培った薄造りの鋳物技術から湧く様々な可能性と展開をさせるため「芦屋鋳物 陽」を立ち上げ、日本の伝統と技術が息づく新たな視点からのものづくりを始めます。
今回は、日常の中で美しい日本の文化をより多くの方に届けようと『伝統を身近に』『日常を彩る』をテーマに、錫の素材を使った酒器『天地の詞(あめつちのことば)』の製作に繋がっていきました。
錫製酒器にも様々な形が存在しているものの、今までなかったものを生み出すために『天地の詞(あめつちのことば)』では⼆つ⼀組のペア酒器での製作に挑戦。
⼆つ⼀組にこだわった理由は『誰かと一緒に過ごす時間に使ってほしい。』という背景から豊かな想いが広がることへの願いが込められています。
贈答用にした場合の見た目にもこだわりを見せ、ペア(セット)として並べて箱に入れるよりも、見た目がかさばらない入れ子構造にデザインの工夫を施しています。
錫製酒器のデザインは、芦屋町に広がる空と海との境界線、悠久の重なりを伝える芦屋層群の2つの景色を製品の模様に取り入れたと振り返ります。
「ある日、近所にある橋の上でわざわざ車を停めて海に浮かぶ夕陽を写真に収めている人たちの姿が目に留まった。同じ方向を見てみるとそこにあった景色はいつも見ているはずだったが、その美しさに改めて心を奪われ感動した。」
「積み重なった地層である芦屋層群を不均一な段差で表現しようとした際、鋳型の内と外の凹凸を合わせるのに苦労した。鋳型の隙間が、ぶ厚くなれば重くなり、薄すれば穴が空いてしまう。何度も何度も試行錯誤しなければならなかった。思うように出来ない失敗は、この上ない経験だった。」
『天地の詞(あめつちのことば)』は、製品同様の景色がパッケージからでもひとつの作品として楽しめるように芦屋町の情景を浮かべたデザインとなっている理由からも樋口さんの芦屋町に対する深い想いを感じられる仕上がりとなりました。
製作を振り返って。芦屋釜の良さを最大限活かした製品づくりへのこだわりと今後の展望
樋口さんを数年にわたり見守ってきた芦屋釜の里・館長の新郷さんは樋口さんについて、「発想力が豊かで表現に縛られることなく美術的な要素を取り入れて製作ができる職人さんです。」と話す。
また、日々近くで芦屋釜の製作を見ている歴史の里係の入江さんは、「芦屋釜を大切にしているからこそ、今回の作品も芦屋釜と共通する部分を最大に意識して、芦屋釜の鋳物師さんとして製作している。その中でも錫製酒器は、手に馴染みが良く持ちやすいなど実用性を意識している。美しさと実用性があるのが樋口さんらしい。」と振り返ります。
最後に、「お茶の世界を知らなくても日常で体験できる錫製の素材の商品をもっといろんな人に楽しんでもらいたい。」と今後への想いも加えて話してくれました。
芦屋釜の美しさや気高さをより多くの人々に伝えるために新しい展開で伝え、芦屋町に残る日本の文化を未来へと繋いでいくことでしょう。
芦屋釜の伝統を守る鋳物師 樋口陽介さんの挑戦は、まだまだ続きます。
■樋口陽介 Facebook:
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■芦屋鋳物 陽 Facebook:
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■芦屋釜の里:
https://www.town.ashiya.lg.jp/site/ashiyagama/
〒807-0141
福岡県遠賀郡芦屋町大字山鹿1558-3
Tel: 093-223-5881
Fax:093-223-5882
営業時間:9時~17時(入館・呈茶は16時40分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日にあたる場合はその翌平日)・年末年始
■『天地の詞(あめつちのことば)』:
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