世界中の聴く人を魅了する高音質。半導体メーカーロームのオーディオデバイス「MUS-IC」の誕生秘話
ロームは1954年に京都で創業した半導体メーカーです。抵抗器からはじまり、トランジスタやダイオード、ICと開発を進めています。最近では、脱炭素社会の実現に高効率化で貢献する半導体技術として期待されている、SiCやGaNなど新素材のパワー半導体の開発にも注力。
1971年には日系企業として初めて米国シリコンバレーに進出。今では全世界に営業、開発、生産拠点を持ち、日本発のグローバル企業として歩みを続けています。
お客さまをはじめとする世界中のステークホルダーの皆さまから選ばれる企業になるためには、品質第一の考えを大切にしたものづくりが最も重要だとロームは考えています。今回は、職人魂で高音質を追求したオーディオデバイス「MUS-IC(ミュージック)」を紹介します。
高音質を追求し、独自の音質設計技術を確立
ロームのオーディオICの歴史は約50年前からはじまっています。カセットテープからCD(コンパクトディスク)を経てハイレゾ音源にいたるまで、時代のニーズにあわせ、良い音を求めて製品を進化させてきました。今日では、オーディオ信号を調整・増幅するオーディオアンプや、デジタル音源データをアナログデータに変換するD/Aコンバータなど幅広いラインアップで、多くのオーディオ機器に採用いただいています。
開発をはじめた当初は歪みやノイズといった電気的特性に基づいた設計を行っており、製品スペックだけを見れば業界内でも優れた製品を提供していました。しかし半導体の高集積化や高機能化が進む中、10年ほど前にお客さまであるオーディオ機器メーカーから「もっと良い音が出るはずではないか」という厳しい指摘をいただきました。
何とか期待に応えたいという思いから、横浜テクノロジーセンターに専用のリスニングルームを設置。「女性ボーカルの伸びが足りない」「楽器の定位がずれている」といった、お客さまが言われる音の違いを自分たちの耳でも聴き分けできるようになるまで、徹底的に音楽を聴き続けました。
その後、耳で聴いた良い音と電気的特性の相関を検証し、音質と電気的特性を両立させる独自の音質設計技術を確立。2018年には、ハイエンド・オーディオ機器向けに、オーディオデバイスとして要求される数値性能と音質性能をともに極限まで追求し、ロームのエンジニアの熱い想いを形にしたローム・オーディオデバイスの最高峰ROHM Musical Device 「MUS-IC」をリリースしました。2021年には、オーディオ機器ごとに簡単に音質チューニングができる、フラグシップモデル向けのDACチップを開発。現在も、お客さまが求める理想の音づくりに貢献すべく製品開発を続けています。
忠実な音の再現を目指すオーディオデバイス「MUS-IC」
MUS-ICは、ロームの企業風土である「品質第一」「音楽文化への貢献」「垂直統合型生産」に、「音質設計技術」をあわせて開発した、ロームの最高峰のオーディオデバイスにのみ使用するブランド名です。
MUS-ICが目指しているのは一言でいえば「忠実な音の再現」だと、最前線でオーディオICの開発に携わる佐藤は言います。
「音楽が生み出す感動をいつでも、どこでも、リアルに蘇らせるというのが、オーディオ機器に求められている究極の目的だと思います。しかしそれは決して、歪みやノイズといった電気的特性に基づいた設計だけからは生まれません。この事実に、オーディオIC開発に携わって随分経ってから気づきました。
忠実に音を再現させるために注目したのは、コンサートホールで聴いているかのような自然な響きや臨場感、ものすごく小さな音から大振幅までをきちんと表現するダイナミックレンジ(スケール感)、そして演奏がはじまる前の緊張感がその場にいるかのように伝わってくる静寂感です。これらを実現させることで、演奏者の方が生み出す音楽の世界観を、可能な限りそのまま表現したいと考えています。」
<ローム株式会社 LSI事業本部 事業部統括 標準LSI事業部 商品設計担当 標準LSI商品設計2課 オーディオ2グループ グループリーダー / 技術主幹 佐藤 陽亮>
2020年にはMUS-ICの32bit オーディオD/AコンバータICが、日本の音響機器メーカーであるラックスマン社の最新SACD/CDプレイヤーに採用されました。ロームのオーディオICの印象や採用にいたるまでの経緯について、ラックスマン株式会社開発部部長の長妻様に伺いました。
「製品の第一印象は、力強いんだけど、素直な音質であるということ。高域が立っていたり、低域がやたら力強くなっていたりと、突出しているところがなく自然に感じられました。その後、ICの癖を見極めながら、何回かブラッシュアップをしていただき、お互いが歩み寄るような形で製品を完成させることができました。
佐藤さんが我々音響機器メーカーと同じレベルで音の話ができたこと、そして個人の好みに陥りがちな音を、客観性と主観性を両立させて聴きいておられていたことで、話がとてもスムーズに進みました。」
<ラックスマン株式会社 取締役 開発部 部長 長妻 雅一 様>
MUS-ICシリーズは、国内外の多くのハイエンド・オーディオ機器に採用され、オーディオ機器メーカーからはもちろんのこと、オーディオ機器のエンドユーザーの方々からも音質について評価をいただいています。
垂直統合型生産体制で音質をつくり込む
お客さまに納得いただく高音質設計を実現するためには、音質の違いを聴き分ける力を養い、製品をつくる過程でどの要素がどう音質に影響するのかを把握する必要がありました。
その鍵となったのが、回路設計からパッケージまですべて自社内で行う「垂直統合型生産体制」です。この生産体制を活かし、製造工程で実験と試聴を何度も繰り返すことで、音質に影響する28個のパラメータを特定。専用リスニングルームでパラメータごとに、透明感や解像感、定位、低音の量感などの音質評価を行い回路設計や生産工程にフィードバックすることで、ねらい通りの音質を実現していきました。
たとえばパッケージの工程では、ICチップとリードフレームを結ぶボンディングワイヤ構造の見直しや、材質を銅から金に変更。弦楽器の音をより艶やかにし、豊かな表現を引き出すことに成功しています。
また製品の設計はもちろん、製造する上でも「垂直統合型生産体制」は重要なポイントです。高音質を実現するには、製造部門にも数値化できない音の感覚を理解してもらう必要がありました。MUS-ICの製造に携わった濱澤は当時をこう振り返ります。
「いろんなパターンでテストのチップを作成したいという要望が上がってくるんですが、量産条件ってそんなに簡単に変えられるものではないんですよね。なので、最初は佐藤さんのこと面倒なことをいう人だなと思いました。
でも何度も音の違いを聴いているうちに、私にも微妙な差というのが分かるようになってきました。熱意も伝わってきましたし、私自身も楽しくなってきて、そのうち頼まれてもいない実験を勝手にやったりもしました。」
<ローム株式会社 LSI事業本部 技術開発担当 統括部長 濱澤 靖史>
このように部門を超えて伝わっていく情熱や、つくり込まれた独自の高音質設計のノウハウを、オーディオ部門の開発メンバー全体で共有しながら製品づくりに取り組んでいます。
音楽がある限り、高音質を追求し続ける
音楽を生み出す側と楽しむ側、その双方に貢献していきたい。
創業間もない1965年に発行した「目で見る音楽史」からスタートし、1991年には「公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション」を設立。音楽を学ぶ学生への奨学援助による育成に力を入れ、現在ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で第1コンサートマスターを務める樫本大進氏をはじめ、今までに500名以上を支援しており、多くの音楽家が国内外で活躍しています。
そのほか、音楽文化の普及・発展に向けた様々な支援を行っています。特に京都では、文化芸術都市としての京都の街の発展に貢献したい、そんな思いから、2016年に「ロームシアター京都」の50年間のネーミングライツを開始。文化芸術の創造・発信拠点として、音楽イベントへの協賛なども積極的に行っています。
音楽を愛するすべての人のために情熱と技術を注ぎ込み、音楽のためのICとしてMUS-ICが生み出されました。
音楽家が音楽を追求し続けているように、高音質の追求にも終着点はないと佐藤はいいます。音楽がこの世界から消えてしまうことがない限り、ロームの挑戦は続きます。
ロームの公式Webサイトでは、常に高い品質をお客さまにご提供するロームの「ものづくり」とそこに情熱を注ぐ人の物語を、動画でお届けしています。
Stories of Manufacturing
「音楽を愛するすべての人のために 〜MUS-ICの誕生:オーディオデバイス開発〜」
https://www.rohm.co.jp/company/about/stories-of-manufacturing/mus-ic
動画はこちら
ROHM Musical Device「MUS-IC™」特設ページ
https://micro.rohm.com/jp/mus-ic/
・「MUS-IC™」は、ローム株式会社の商標または登録商標です。
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