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STORYS.JPは、2013年2月に誕生しました。

「強・用・美」を追求したプロフェッショナルのための野営テーブル「Teddy Toimii ”SAMPLE 1:Folding Table”」開発ストーリー

著者: Teddy Toimii

 我々は、BOY SCOUTとして30年以上に渡り、野営の経験をしてきました。豪雨や台風、強風、吹雪、などあらゆる天災下での野営を経験し、既存のキャンプ用品が抱える問題を感じてきました。壊れたキャンプ用品は数知れず、だからこそ出来る既存のキャンプ用品の問題点を解決し、我々の理想を形にしてご紹介致します。”Hav en god weekend"


 Scout haus by Teddy Toimiiは、ヴィンテージウエア、モードウエアなどの古着やアートポスター、オーディオ、レコードなどを国内、国外問わず取り扱うオンラインショップとして徐々に知名度を上げております。そんなTeddy Toimiiがオリジナルプロダクトを発表しました。しかし、古着屋業を行う裏で隠された開発は、ブレない理想と強い胆力がないとできませんでした。問題山積、開発白紙、リリースすべきかの葛藤など、開発のストーリーがここにはあります。



Teddy Toimii代表 Tetsu(Teddy) Kitagawa

 1986年生まれ、4歳からボーイスカウト活動に専念。大学で建築を専攻のち、大学院を修了。大手建材メーカーにて建設業向けの構造製品開発、技術担当として従事。2022年4月にTeddy Toimiiを設立。古着屋業であるScout haus by Teddy Toimiiを開設し、国内海外共にインターネット販売、並びにイベント出店を行う傍ら、Teddy Toimiiオリジナルプロダクトである ”SAMPLE 1:Folding Table”を開発し、2023年10月にリリース。

 現在もボーイスカウトの指導者としてボーイ隊の隊長を兼任、ボーイ隊の最高峰である菊スカウトを輩出している。



LanLanLuu&Gallary 代表 Masahide Maeda

 アンティーク家具リペア職の後、株式会社のカフェ部門のCOOとして内装デザインなど全て0から立ち上げ、自身も2017年よりLanLanLuu&Gallaryを設立。現在アパレルデザイン、レザークラフト、シルバーアクセサリーの制作も行い活躍している。”SAMPLE 1:Folding Table”の開発では立ち上げ当初から協力をしてもらった。



窪田製作所

 創業40年の金属加工屋、鉄、アルミ、ステンレスのどのような部材の加工、溶接、粉体塗装まで可能。主に家具製作を得意としており、チェア、テーブル、手摺りなどオーダー制作の事例も多い。




サスティナブルなキャンプ用品を作りたいと思いで開発に着手

 幼い頃から、ボーイスカウトで数々のキャンプ用品を見てきました。当時90年代のキャンプブーム真っ只中、アメリカンスタイルのBBQグリルや大きなスモーカー、L.L. Beanの大きなテントは子供心に衝撃的でした。その中でキャンプ用品は、何年も使用していると間違いなく壊れます。しかし壊れないキャンプ道具というのも一定数存在するのです。例えば小川テント製の三角形状の常設テント、ボーイスカウトのコッヘル(いわゆるクッカー、現在生産中止)といったものは半世紀経過しても壊れてはいないのです。キャンプとは自然を愛するための行為であるのに、キャンプ用品が壊れ廃棄してしまったらサスティナブル※ではなく、本末転倒であると思ったことがきっかけです。サスティナブルの観点で壊れない、永く使えるキャンプ用品とは何なのかというところが開発の始まりでした。まずは経験上最も廃棄したキャンプ用品は何かと言うとテーブルでした。「脚が折れた」、「天板が外れた」、「重い物を載せたら壊れた」、「天板が割れた」こういった経験を数々してきたことと、構造関連の製品に対する開発ノウハウがあったことから”SAMPLE 1:Folding Table”の開発に着手しました。

※ サスティナブル・・・人間、社会、地球環境の持続可能な発展



「一生使える」、「シンプルな形式」、「普遍的なスタイル」の全てを兼ね備えた製品

 当初、様々な製品リサーチ、構造形式を考えておりました。しかしながら、テーブルも空間を構成する要素の一つであるので、建築的にテーブルに必要な要素も「強・用・美」であることが基本的な考えとしました。この「強・用・美」は古代ローマの建築家ウィトルウィウスが、建築を3つの条件によって定義しています。「強・用・美」つまり、強さ、実用性、美しさのことを指します。「強」は構造、「用」は機能、「美」は形のことですが、その要素全てを含んだ物を目標としました。

 我々はプロフェッショナルです。野営のプロフェッショナルであることを考えると、1泊だけの野営ではなく、最低でも1週間の野営を行っても耐えうる製品作りを想定しなくてはなりません。それこそがプロフェッショナルが考える理想のキャンプ用品とは何なのかと考えた時に、「一生使える」、「シンプルな形式」、「普遍的なスタイル」というのが理想でした。

「一生使える」とは文字通り一生使えることを指します。

「シンプルな形式」とは、説明書を見なくても開閉ができ、誰でも使えることを目指します。特に近年のキャンプ用品はパーツ点数が多いのが特徴ですが、そういったことはせず、あくまでもシンプルかつ分かりやすい形式にするのが理想でした。

「普遍的なスタイル」とは、しっかりと作り込むことで、使用する人が飽きない、ずっと見ていられる、愛着のあるものというのを目指しました。



「普遍的なスタイル」を解く鍵はデザインバランス

 空間のデザインから紐解くと、建築家で有名なミースファンデルローエ※は”Less is More”(少ない方が豊かである)と、一方、ロバートベンチュリー※は”Less is Bore”(少ないことは、退屈である)とそれぞれ解いています。それぞれの建築家の言葉から、”Less”と言う概念に対するイメージが対極的であることが伺えます。この理論を読み解いていくと、デザインのバランスを確保するために「LessとMoreの中心」となるデザインを目標にし、ミニマルなデザインと、古典的なデザインの中間を取ることによって、「普遍的なスタイル」に近づくことが出来ると考えました。

 普遍的かつ真新しいスタイルを得意としたデザイナーとして、マルタンマルジェラ ※のデザイン手法を参考にしています。マルタンマルジェラ は軍服のリメイクやデニムパンツにペンキを付けたデザインで、脱構築的※なファッションデザイナーとして有名ですが、その裏ではデザインのバランスを確保し、退廃的なものを美しいものに変える名手であると感じています。ここでは、マルタンマルジェラ のデザイン手法を参考に、イギリスから輸入したアンティークのフォールディングテーブルを”Sampling”という技法でデザインを行いました。”Sampling”※は”Imitation”※とは異なり、既存のモノを生かしながらより良いものにしていくデザイン手法であるため、”Imitation”とは大きく意味が異なります。

 普遍的なスタイルであることで、飽きない、一生見ていられることを意識しながら、デザイン全体のバランスを考えていきました。「LessとMoreの中心」を意識してデザインをして行くと、使用する素材そのものを意識することができます。よく「カラーバリエーションは?」と聞かれるのですが、カラーバリエーションを与えるとデザインが"More"側に寄ってしまいます。デザインとして「LessとMoreの中心」を狙ったので、素材自体の美しさをデザインのバランスとして確保するようにしました。素材自体の美しさと、素材の経年変化自体を楽しんでもらえればと思います。つまりは、”SAMPLE 1:Folding Table”という変わった製品名もこういったデザインの手法から来ているのです。

(写真左)Sample1: Falding Tableの基となるイギリス製のアンティークテーブルの実測図、この寸法図をベースに設計を展開。








※ ミースファンデルローエ・・・ドイツ出身の建築家、20世紀のモダニズムの三代巨匠の一人、主な作品としてバルセロナパヴィリオンなどがある。

※ ロバートベンチュリー・・・アメリカの建築家、建築の名著として「建築の多様性と対立性」(日本版は鹿島出版より)がある。

※ マルタンマルジェラ ・・・ベルギー出身のファッションデザイナー、2008年に引退し、現代アートのアーティストとして活躍

※脱構築・・・ある対象を解体し、それらのうち有用な要素を用いて、新たな、別の何かを建設的に再構築すること。

※ Sampling ・・・過去の曲や音源を一部用いて音楽を制作する手法、ここではデザインの手法として用いている。

※ Imitation・・・ここではただ単に真似ることを指す。



「シンプルな形式」だからこそ、設計アプローチは建築的に

 脚部の構造形式はシンプルにしながらも、使用する際の高さ、折りたたむ作業に対するアプローチを建築計画学的に考えながら設計をしていきました。建築設計資料集成※を参照するだけでは足らなかったので、様々なチェアの座面高さのリサーチを行い、家具屋やキャンプ用品店に実測しに、データを照合して天板高さを出しました。

 また、テーブルを折り畳むという行為に対して、天板を立てると砂利などで天板にキズが付きます。そうした問題を解決するために天板の隅角部にレザーを取り付けるというシンプルなアイデアで解決しました。先述した「LessとMoreの中心」を狙ったデザインと相まり、デザインバランスを取る役割も果たしております。美しさにはフィボナッチ数列※を用いた黄金比というのが存在します。実はこのテーブルにもそうした黄金比を使用して設計しております。

※ 建築設計資料集成・・・日本建築学会著、丸善出版

※フィボナッチ数列・・・イタリアの数学者フィボナッチが提唱した数列。フィボナッチ数列から生み出された数列は黄金比と呼ばれている。



「一生使える」、「安心感」を与える設計

 一般的にフォルディングテーブル(折り畳みテーブル)の脚部はスチール製、キャンプテーブルの脚部はアルミ製というのがセオリーです。スチールは強度はあるが、重いし錆びるという難点が、アルミは軽く錆びないし耐食性があるが、強度が弱いという難点があります。ステンレスは重いが、強度もあり錆びない、しかも熱比率が最も低いことから高温にさられても変形の不安が最も少ないのがステンレスであるため、ステンレスを採用しました。

 ユーザーの皆さんに安心して使用できるように材料の曲げ試験を行い、得られたデータで、耐荷重計算を行いました。強度を持ち合わせていないと製品の耐久性を確保できないと判断しており、設定した耐荷重90kgはかなり安全率を確保した上で設定しております。同様に天板木材の曲げ試験を行い、データと暴露性能、木目の美しさからブナ材に決定しました。針葉樹のどれも強度が確保できるのですが、暴露性能で高温多湿の日本の気候に対応できる材料と考えると、強度、暴露性能、美しさの全項目で満足できるのがブナ材という結論でした。

 強度を確保するために唯一のデメリットは「重い」ことですが、強風下(風洞実験では風速7m/sまで確認)ではテーブルが動くことはないようになっております。先述した通り1週間以上のキャンプ(天災が起こる可能性の示唆しながら)でも耐えうる製品設計をしていることから、唯一のデメリットである「重い」というのは設計上必要な条件でもあります。「一生使える」には「安心感」がないとできません。「安心感」とはユーザーに与える安心感だけでなく、開発者が納得出来ないと本当の意味での「安心感」ではないと思えるのです。

(左画像)シュミレーション用の3次元モデル


(下画像)試験時写真と強度比較



開発での難点

脚部のフォールディング機構は、元々参考にしていたものがあるにも関わらず、機構のための長さを再計算して部品を一個ずつ算出していきました。幾何学のアプローチで計算を行い、何度も図面と計算式の照らし合わせながら設計をしました。脚部の制作においては、誤差吸収が可能なように、リベットに数ミリの隙間を設けてパーツを取り付けております。パーツ同士のわずかな隙間によって、傾いた悪路や砂利の屋外でもテーブルを安定して使用できるように設計しております。

 天板のR形状については、隅角部のレザー貼り作業をスムーズに行うために協力者であるLanLanLuu&Gallaryの前田さんと何度も打ち合わせしながら試作品を制作しました。天板の試作もかなりの回数を行い、納得できるまで試作を繰り返しました。試作品の制作では、3mmレザーの貼り付けと材料選定、レザーを薄くすれば加工は楽ですが耐久性、デザイン性を特化させる為に、レザーの厚み、大きさデザインはバランス良くまとめあげるのは苦労しました。前田氏とは年齢も近いことから、お互い切磋琢磨しながら開発を進めてきました。前田氏がいなかったらリリースまで辿り着けない第一の恩人です。


(左写真)ディテール写真、脚部、天板など、全ての工程を職人がハンドメイドで行う。









製造先がなくなり開発白紙に、かつての上司の言葉が開発続行に導く

 最終版の試作が完了し、ステンレス脚部の試作をしていた業者が他案件で対応できないということで、製造を断られました。製造先がなくなることにより、開発が白紙になりました。「開発を進めるには胆力が必要」かつての上司の言葉が頭をよぎりました。「なんとしてでも、開発を白紙にすることはできない」そういった気持ちで製造先のリサーチを何十件も行い、金属製家具の製造を得意とする窪田製作所にコンタクトを取り、交渉を行いました。窪田製作所は快く製造を引き受けてくれることを了承してくれ試作の制作に取り掛かってもらいました。脚部試作の制作で、脚部のパーツ同士を取り付ける際のリベットの隙間をわずかに設ける作業はやはり難しかったです。製造先として制作してくれた窪田氏は第二の恩人です。



テーブルの開発終了、付属品まで細部に渡り「良い仕事」をする

 テーブルの試作ができた段階で、フィールドテストを行いました。その際持ち運びができるようにバックは必ず必要になることで、バックの開発も行いました。しかし、ただ単に布地を使用したバックを作るだけでは他のキャンプ用品との差別化ができなく、なおかつテーブル重量は10kgを超えるので、バックに使用するのは丈夫な分厚い生地でないといけません。そのため分厚い帆布を使用する方向で開発を進めました。しかし、分厚い帆布を縫製できる業者が無く、業者をリサーチしてはコンタクトを取るという作業を何十件も行いました。帆布の縫製はできないとたくさん断られた中、ようやく見つけた業者が、井上縫製の井上さんでした。しかし、布地を縫製することはパターンを決め、縫製をすることですが、パターンナーの経験が全くないので井上さんに依頼をし大きな型紙を制作し、型紙のチェックをして縫製作業にかかりました。完成した試作品にテーブルを入れて隙間のチェック、出し入れしながらチェックをしていきます。大きさの確認ができたら、次は取手や角の革貼り作業に入ります。革と帆布を取り付ける工程はリベットで行う方向で一回目の試作を行いましたが、取手の革が断面欠損するため、仮試作で取手がリベット部分から破れる現象が発生しました。そのため、強度の高い糸で取手と同方向に縫製することによって接合部の強度を確保できました。試作品の制作では分厚い帆布に、厚みのあるレザーを縫いつけ耐久性を格段に向上させて、重いテーブルを持ち運ぶ為のバック自体の耐久性向上にはかなり苦労しました。取手のレザーにも幅、厚みが共にあるレザーを贅沢に使用し、取り付けもリベットや縫いつけなど試作を重ねデザイン性、利便性の落とし所を見つけるのに苦労しました。テーブル自体の開発と共に付属するバックまで試作を繰り返し、最後まで妥協せずに開発を行うことが「良い仕事をする」ということだと信じて開発をしてきました。

(左写真)帆布とレザーコンビのバック、幅107cm高さ60cmの巨大バックが付属品。バック単体で旅行にも使用可能。帆布に穴が空いたらレザーを貼り付けるサービスも展開中。




開発が終了しても悩みぬく、商品を良さを伝えるLPの制作で半年かけリリース

 モノを開発すること以上に、どのようにエンドユーザーの方に良いモノかを伝えることが最も難しいのです。LP※の構成だけで約半年、それでも悩み最終的にリリースすべきなのかとも考えておりました。ユーザーに事故が起きないか、破損のリスクなど様々なことを考えてしまい、眠れない日が続きます。本当にリリースして良いのか、リリースしても良さを分かってもらえるのか、本当に悩む日々でした。しかし、LPやマニュアルを作る中で、どのような説明をすれば良いのか試行錯誤を繰り返しました。この試行錯誤だけでかなりの時間を要したことは事実です。最終的に納得できる物を作ることで悩みは薄れていきました。「これなら出せる」確信に変わりリリースを決断したのです。リリースまでギリギリの戦いでしたが、何とか形を作ってリリースに漕ぎ着けました。やはり、リリースまでのマインドで必要なのは「開発者が自ら納得できること」なのだと思います。



(写真)ランディングページ










※LP・・・ランディングページの略



開発者にとって製品とは「愛」

 設計の初期段階で、娘が産まれました。テーブルの開発と同時期であったのですが、子育てと両立しながら設計をし、製造先探し、開発が白紙になり、四苦八苦しながらも最終的にリリースが出来た時に確信したのは、自分の娘の次に愛しているのがこの製品であることでした。開発者の最終的な境地とは「愛」であること、これは産む苦しみを体感し、最後まで妥協せず納得できる製品を開発した者だからこそ実感できることだと思います。

 ”SAMPLE 1:Folding Table”をリリースするに当たり、恩人がいなかったらリリースすることが出来ませんでしたし、支えてくれ最後まで信じてくれた妻と、背中を押し最後まで諦めない気持ちを維持してくれた娘には感謝しかありません。リリースすることが出来て「愛」とは感謝することの連続であるのだと、開発を通してわかりました。だからこそ、Sample2、Sample3、Sample4・・・と新たな「愛」を皆様に提供していくのが、我々の使命です。

”Nature study will show you how full of beautiful and wonderful things God has made the world for you to enjoy”(ロバート・ベーデン・パウエル ラストメッセージより)

 どうか、このストーリを読んでくれた皆様には、この世界が、素晴らしく美しい世界であることを一緒に実感してもらうと共に、皆様が愛する方とより良い時間を共有し、幸せな人生を送れることを切に願い、終わりとさせていただきます。

”Hav en god weekend"

※ロバート・ベーデン・パウエル・・・ボーイスカウト 創始者





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