今までにない全く新しい概念のトイレ「インフラスタンド」。借金と共に引き継いだ会社を再建し、トイレを通じて地域の人々の憩いの場を築くまでの挑戦と成長の軌跡。
長年にわたり地域の水回りを支え続け、2019年には新たな取り組みとして「オリジナルデザイントイレ」の製作を開始しました。そして、3年後の2022年には「インフラスタンド」と名付けられた公衆トイレを自社敷地内に建設しました。何十年も現場に立ち、本気でトイレと向き合ってきた私たちだから分かるトイレの幾多の可能性、世間が持つトイレや水道工事業界のイメージを変えていきたい、そんな強い思いが私たちを突き動かしました。
今回のストーリーでは倒産寸前の会社を引き継ぎ、トイレを通じて水道工事業界に革命を起こす挑戦と成長の軌跡についてお伝えします。
挑戦の礎は「仕事を創造すること」
創業から45年が経った2011年、先代である継父から「会社はもう駄目だ」と倒産宣告を受けた状態で会社を受け継いだ私の社長就任は思い描くような希望に満ちたものではありませんでした。
事業を引き継ぐ6年前から会社の経営状態が思わしくないことは肌で感じていました。2006年当時、経営状況の悪化により、私を含む社員全員が解雇される事態にも直面しました。経理をしていた母に対して職人さんから「お前の母親は悪魔だ」と言われた事は今でも忘れる事ができません。「会社は何のために存在しているのか?経営状況が良かった頃は家族のような時期もあったはず。業績が悪くなると会社はこんなにも変わってしまうのか?」当時は精神的にも経済的にも苦しく大変でしたが、この経験から「利益を出し続ける為に仕事を創造する事が経営者の責任だ」と私たちの挑戦の礎になっています。
(事業を継いで初めて「見よう見まね」で作った経営計画書)
事業承継から11年の年の歳月が流れた2022年8月に自社敷地内に公共トイレ「インフラスタンド」をオープンし、水道工事店としてこれまでにない地域社会との結びつきを築く事が出来ました。この11年間の挑戦と見えてきた今後の展望をご紹介します。
業績拡大の糸口と共に課題も見えた「オリジナルデザイントイレ」の展示
人口減少による働き手の不足が問題になっている今の日本でも建設業、その中でも私たち水道工事の仕事は3D(Dirty, Dangerous, Demanding)と言われ特に敬遠されている職種です。水道やトイレは生活にとって不可欠なライフラインであり、その重要性は言うまでもありません。
中長期で事業を見た時のボトルネックは明らかに人手不足でした。「水道工事をおもしろい仕事にする」特に若い世代からの興味や関心を引く事が急務であると考えました。
弊社が最初の取り組みとして始めたのがトイレを広告にした「オリジナルデザイントイレ製作」です。水道業界では全くの新しい取り組みで、実際に形になったときは、言葉では形容できない満足感と達成感がありました。もともと何かを創り出すことや、デザインする事に興味があったこともありますが、根底にあるのは仕事を通じて人々の生活を向上させたいという強い思いでした。
そこで、弊社の取り組みを広く知っていただくために、2019年に幕張メッセで開催された「イベントEXPO」で、「オリジナルデザイントイレ」の展示を行う事を決定しました。展示会には、私たちのトイレに興味を持ってくださる方々や、その場で関心を寄せてくれる様々な方々が訪れました。中には大手エンターテインメント企業の方からタイアップの話もありましたが、会社としての経験不足と「トイレ」そのもののイメージの悪さから広告媒体としては難易度が高い事を痛感しました。
この経験から、当社はトイレのイメージアップに焦点を充てることを決意しました。
(イベントEXPO出展時の様子)
トイレイメージを変えることが理想のトイレ製作につながる
トイレのイメージアップって具体的に何をすれば良いの?
ヒト・モノ・カネ全てが足りない私たちの選択は本業である水回りリフォーム業を通して、目の前にいるお客様のトイレに対するイメージを変えることに専念する事でした。
(便器以外に建具を含めたトイレ空間全体をプロデュースした飲食店)
取り組みに関して手ごたえは感じていましたが、このやり方だと範囲が狭い上、時間もかかってしまう。「私たちの掲げる理想のトイレをもっと沢山の方に知ってほしい」、「もっと沢山の人に利用してもらえる環境を作りたい」という思いは強くなっていきました。
今までにないようなコンセプトのトイレを作ることを決意
2021年3月新型コロナウイルスの影響が広がる中で、経済産業省から驚くべき補助金制度が発表されました。「事業再構築補助金」企業が新たな方向性に転換し、事業を再構築するための補助金です。発表を目にした瞬間「理想の公衆トイレを作ろう!」これしかないと思いました。
早速現場仕事を減らし事業計画の作成に取り掛かりました。迷いはありませんでした。
トイレを整えて集客が成功した渋谷ヒカリエ、話題を集めるTHE TOKYO TOILET PROJECTなど、沢山の最先端のトイレ事例を見てまわりトイレがトイレ以外の機能や役割をもち、その先にある経済効果を生み出す可能性を感じました。
トイレのイメージを一新したその場所には人が集う。公衆トイレをアップデートするような最先端のトイレを所沢に建築する事を決めました。
トイレの概念覆し、地域の人々の憩いの場となった、「インフラスタンド」
建築にあたって3つの目的を定めました。
「地域コミュニティーの活性化」「トイレのアップデート」「水道工事業界のイメージアップ」
今までの経験を活かしトイレと業界のイメージをポジティブにすることに加えて、本来の役割であるトイレとしての機能の他にコミュニティースポットとしての役割を付加しました。敷地内にはベンチやブランコ、手洗い場、シェアサイクルステーションを設けて、フリーWi-Fiも飛んでいます。
2022年11月。オープンから3ヶ月というスピードで公衆トイレを中心に行う初のイベント「KAWAYA市」を開催しました。
(2022年11月初開催したイベント「KAWAYA市Vol.1」の様子)
1年後の2023年の11月に行われた3回目となるKAWAYA市Vol.3では所沢市が主催するまちづくり企画『TOKOROZAWA DESIGN WALK』と連携して大規模なイベントの一部としても開催いたしました。
https://kawaya.net/2023/12/15/potential-of-plumber/
初めての夜のイベントにも挑戦したKAWAYA市Vol.3の後夜祭KAWAYA夜では【アート×音楽×トイレ】に挑戦。
大人も子供もスタッフメンバーまでインフラスタンドにいた全ての人が公衆トイレでのインスタレーションを楽しむ光景を目にすることができました。
(2023年11月「KAWAYA市Vol.3」後夜祭の様子)
トイレの横で食事をする人、買い物が終わってもその場に留まり会話を楽しむ人。トイレの不安がなくなる事で滞在時間が延び、お金を使う。来場者と出店者の間で濃い良質なコミュニケーションが生まれる。こうしてインフラスタンドは人と人とを結ぶコミュニティとなっていました。
2023年11月18日・19日に開催されたKAWAYA市の様子
YouTube
KAWAYA市を行った事による成果として多数のメディアの方から取材を受けることができました。
・日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC155J90V10C23A9000000/
・埼玉新聞
そしてこの取り組みを沢山の方に評価していただけるようになりました。
・関東商工会議所さまよりより「2023ベストアクション賞」
・NPO法人日本トイレ研究所さまより「2023日本トイレ大賞グランプリ」
・公共R不動産さまより「NEXT PUBLIC AWORD2023優秀賞」
様々なメディアに取り上げていただくことで、抽象的だった計画に具体性が加わり3つの目的を達成する為の道が作られていく感覚です。
「インフラスタンド」を通じて多くの方に刺激を与えたい
KAWAYA市をきっかけに2名の方に採用エントリーしていただく事ができました。今までの採用活動との違いは、「どこでもいいから働きたい」という志望動機ではなく、私たちの仕事に興味を持ってくれた上でのエントリーだったということです。狙いを定めた上での成功体験は貴重であります。
ここで改めてインフラスタンド建築とKAWAYA市を開催した目的を整理します。
① コミュニティーの創出(人との出会いが自分を変えてくれた。恩返しでもあるし、私たちも新しい出会いで成長したい)
② トイレのアップデート(トイレのネガティブなイメージを所沢で払しょくしトイレが生み出す経済効果を実現させたい。水道屋さんが主体的なビジネスを創出してもっと若い人に注目される面白い職業にしたい)
③ 水道工事業界のイメージアップ(3Dとか底辺職なんて言われることもある私たちの業界ですが、若い人に憧れられる職業にしたい。認知が上がる事によるブランディングで、誰でもよかった水回りの工事を「あなたに頼みたい」といわれる状況にもっていきたい。選ばれるということは私たちに価値がある事になりますので単価が上がります。その利益で社員の待遇改善を図り、採用につなげていきたい。40代の私が若手扱いされる業界は将来が見えない)
ひとつひとつの目的に一歩ずつ近づいている事を実感しています。
さらなる展望として、直接的な目的とその後に展開したい間接的な目的をお話して終わりたいと思います。
直接的にはインフラスタンドに訪れる方とコミュニケーションの質を高めるためにも出店者さんがこの場所で十分な利益を上げられるようにする事が必要だと思っています。継続的に出店できる状況にする事でインフラスタンドで質の高いコミュニテイが常に生まれ地域が豊かになる。
集まった人たちでおもしろい企画やコラボが生まれて、そこに関わる人達がさらにおもしろい事を作り出していくような。
それをモデルケースにすることで間接的にはインフラスタンド2号のような場所が所沢に増えていく動きを作れたらと思います。
地元企業や自治会、学校、PTA、私たち専門家に加えて行政も含めた全ての力で新しいパブリックスペースを作りたい。巨大資本や行政だけに与えられるのではなく「私たちが作る私たちのトイレ」公共の土地や遊休地に建築された公共空間だけど、マインド的には「セミパブリック」愛される公共空間です。
これは私にとってのインフラスタンドそのものです。
完成して(与えられて)一瞬だけは喜ぶけれど大切にしない、大事にされないのは自分事に捉えられないという側面があるからだと思います。
地域の人たちが自分のやりたい事、理想のトイレを作り、生活に豊かさが加わる想像をしてもらう為にもインフラスタンドの未来をワクワクさせる事が私たちの今後のミッションです。
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