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ストーリーの著者は、読者でもあります

常識を超える発想とこだわりから生まれた唯⼀無⼆のオーディオシステム『TINA AUDIO(チナオーディオ)』。「音の仙人」と呼ばれる創業者の開発秘話

著者: 有限会社知名御多出横

1975年の創業以来、「音を生演奏に近づけ感動を届けたい」を信念に、職人によるハンドメイドでスピーカーをつくり続けている、沖縄県のオーディオメーカー「知名御多出横(以下、知名オーディオ)」。

創業者・知名宏師(ちなひろし)が半世紀近い研究の末、技術の粋(すい)を集め生み出したモデル『TINA AUDIO(チナオーディオ)』は、これまで多くの方々にご支持いただき、多数のメディアへの掲載や賞の受賞など、実績を一つひとつ積み重ねてきました。


『TINA AUDIO(チナオーディオ)』を体感した方からは、「音が上から降ってくるように感じる」「音に包まれているようで気持ちいい」「リアルな生演奏を聴いているようで、臨場感がすごい」といった驚きの声をいただきます。



実はこのユニークなスピーカーを生み出した創業者自身もかなり個性的で、「沖縄のエジソン」「音の仙人」と呼ばれることもあるのです。このストーリーでは、唯⼀無⼆のオーディオシステム『TINA AUDIO(チナオーディオ)』を生み出した創業者・知名宏師(ちなひろし)のものづくりの原点と開発秘話をご紹介します。

「音の仙人」「沖縄のエジソン」。その存在も唯一無二の開発者・知名宏師


「まさに“仙人”」。その風貌から、出会った人は口々に彼をそう表現します。

作務衣姿にもじゃもじゃの髭、大きく、力のある目。時を忘れてものづくりに没頭する職人気質と、人懐っこい子どものような無邪気さが同居する人柄に、誰もが心を惹かれてしまう。彼こそが、知名オーディオの創業者、知名宏師です。



(写真の最前列中央、花嫁の向かって右隣が少年時代の宏師)



宏師は、1947年、沖縄県石川市(現在のうるま市)に生まれ、嘉手納町で育ちます。家業は牛乳店。配達の手伝いで得た小遣いをすべて部品代につぎ込み、ラジオ作りに熱中していた少年は、ジュークボックスから流れる音に魅了され、オーディオ開発への道を歩み始めます。「音を生演奏に近づけ感動を届けたい」。その信念のもと、音の本質に迫り、ヴォーカルの息づく瞬間まで伝えることにこだわり抜いて、半生を捧げてたどり着いたのが現在の『TINA AUDIO(チナオーディオ)』です。




宏師の長年の趣味は、長男にプレゼントしたことをきっかけに自分自身がすっかり沼にはまったというラジコン飛行機。機械の仕組みはもちろん、音を伝える媒体である空気について理解を深め、航空力学・流体力学的な観点も得られたことは、宏師のオーディオ作りに大きな影響を与えているといいます。


 その音も、開発者の存在自体もユニークな『TINA AUDIO(チナオーディオ)』。

2005年から2007年にかけて小学館の文芸誌『きらら』に連載され、2022年に出版された駒沢敏器さんの小説『ボイジャーに伝えて』にも、見る人が見ればすぐにわかるそっくりな描写で登場してしまいます。



<小説より引用>

「これはアンプなんですよ」と言った。石鹸箱ほどの大きさしかなかった。続けて上田さん(三軒茶屋のバーのオーナー)は私の後方を指差し、このアンプとセットになっているスピーカーはあれです、と言った。直径10センチくらいの黒いパイプが2本、高さは1メートルほどだった。どこからどう見ても単なる筒で、そこから音が出るようには見えない。

「沖縄にある個人メーカーのものなんです」と上田さんは説明してくれた。

「仙人みたいな人が店をやっていて、ある日直感が閃いて試作してみたそうです。そうしたらとんでもない音が出た。大きければいいというものでもないんですね。」



後に「沖縄のエジソン」とも呼ばれる唯一無二の存在が生み出した、唯一無二のオーディオシステム。その原点は、宏師の少年時代にさかのぼります。

小学生からラジオ作りに熱中、米軍基地のごみは「宝の山」

幼い頃から手先が器用で、機械を分解するのが大好きだった宏師。初めて作ったゴム動力の模型飛行機が予想以上に遠くまで飛んだ感動をきっかけに、ものづくりに熱中する少年時代を過ごしました。ロボットなど雑誌の付録作りもお手のもの、頼まれては人の分まで作っていたそうです。


小学校4年生の頃には、鉱石ラジオ(当時主流だったイヤホンで聴く簡易な構造のラジオ)を自作。牛乳配達の手伝いで得た小遣いをすべて部品代に費やすほど、ラジオ作りにのめり込んでいきました。

中学生にして電気の法則や真空管の原理、アンプの電気回路を理解し、真空管ラジオ(1945年頃から普及したスピーカーで聞くラジオ)も製作。お米の配達に来ていたお兄さんに「僕のも作って」と頼まれて作って以来、評判が口コミで広がり、多くの人がラジオを求めて宏師のもとを訪ねるようになります。

この頃、宏師は「音」へのこだわりの原点に出合います。それは、ある店のジュークボックスから流れていたデイブ・ブルーベックの「テイク・ファイブ」。「この曲がなかったら今の製品にたどりつけなかった」と語るほどの衝撃を受け、現在も知名オーディオの製品の完成検査に使っている曲です。


工業高校の電子科へと進学した宏師は、ラジオ修理のアルバイトも開始。友人に時折、米軍基地のごみ捨て場に連れて行ってもらい、当時の日本では手に入りにくかった部品がごろごろしていた「宝の山」から様々な部品を持ち帰っては、トランジスタラジオ(1955年に発売された小型・軽量ラジオ)のアンプ作りに勤しみました。

高校卒業後、いったんは県外の大学に進学したものの、「やりたいことと違う」と中退。沖縄へ戻ってアメリカ軍関係者向けのオーディオ販売会社に就職、最先端の技術に触れる毎日の中、さらにものづくりの技術に磨きをかけていったのです。



理想の音を求め、独自のアンプとスピーカーを開発

宏師はその後、国内大手メーカーの沖縄営業所に修理工として勤め、国内の様々なメーカーの技術も吸収。1975年、28歳の時に、知名オーディオを立ち上げました。



1980年には、中学生の頃に聴いたテイク・ファイブを原点に追い求めてきた「雑味の出ない音」、演奏者の位置や息遣いまで感じられるような「生演奏に近い音」を目指し、独自のアンプとスピーカーの開発に着手します。

宏師が真っ先に取り組んだのは電気溶接でした。電気製品の部品を接続する方法は、通常はハンダ付け(ハンダとは、すずと鉛を主成分とする合金で、金属の接合剤として用いられる)。しかし、部品とは異なる素材なので電流がスムーズに流れず「澄んだ音にならない」と考えたのです。素材と同じ銅線での溶接に挑戦しようとしますが、細い銅線に適した溶接機はありませんでした。そこで「どうしよう」ではなく「それじゃあ作ればいい」と考えるのが宏師。小型の溶接機を開発してしまいます。

3年後には、電子部品をすべて電気溶接したアンプが完成。クリアで雑味がなく、生演奏に近い音質「クリスタルクリアサウンド」を実現し、販売当初から「最小の音量でも極めて弱いピアニッシモまできれいに聴き取れる」と評判を呼びます。1987年にはこの技術で特許も出願、知名オーディオを代表する技術となっています。 

クレームとパイプオルガンが生んだ究極の形

全方向へ音を伝えるスピーカーは、「クリスタルクリアサウンド」同様に知名オーディオを代表する特徴ですが、これは沖縄市のあるレストランの「カウンター側で高音が聴こえない」というクレームから着想を得たもの。「音の指向性と音量は完全に別の問題」であり、全方向に音を伝えるスピーカーの必要性を痛感したのです。様々な大きさ、形で試行錯誤を繰り返すものの、なかなか実現には至りませんでした。

20年ほどが経過した2002年のある日、納品のために山形へ向かう新幹線の中で、宏師の脳裏にふとパイプオルガンが浮かびます。「スピーカーが筒型だったらどんな音が出るだろう」。次の瞬間に訪れた閃き。興奮のあまり、「これだ!」と声を上げてしまっていました。


山形から戻った宏師は3日で試作品を作り上げ、「今まで聴いたことのない音」に驚きます。また、上向きのスピーカーユニットから音を拡散することで、全方向に音を伝えることも可能になりました。

人に聞こえる周波数は高音2万ヘルツ、低音は20ヘルツまで。その音を再現するには、理論上、音の波長と同じ長さのパイプが必要とされていました。しかし、宏師の試作した長さ1mの試作品からは、これまでの常識では出るはずのない40ヘルツの音が出ていたのです。宏師は実験を重ね、2mのパイプで本来は17mが必要なはずの20ヘルツの音も再現。2mが20ヘルツの波長の約8分の1であることから、「八分のλ(ラムダ/波長のギリシャ記号)」と名付けたこの技術で、宏師は「これが知名オーディオの最終形」だと確信します。現在の『TINA AUDIO(チナオーディオ)』の誕生です。



本物の音と感動を、これからも皆さまへ


『TINA AUDIO(チナオーディオ)』は、2005年に販売を開始。音質ばかりでなく、良い音のために工夫を積み重ねた結果たどり着いたシンプルな円筒形のフォルムも「どんな場所にも溶け込む」「機能美がある」と評価をいただき、全国のオーディオファンの皆さまに愛されるスピーカーへと成長していきました。老舗のバーやベーカリー、ホテルやレストラン、そしてご家庭のリビングにも。『TINA AUDIO(チナオーディオ)』のある空間は、筒形スピーカーが波紋のように広げる音のように、沖縄をはじめ全国へと広がっています。



2020年、宏師は事業承継を行い、代表の座を親族である知名亜美子へとバトンタッチしました。亜美子は「音を生演奏に近づけ感動を届けたい」という宏師の想いはそのままに、これまで以上にたくさんの方へその魅力を伝えようと、精力的に活動しています。

知名オーディオはこれからも、本物の音と感動を皆さまにお届けしてまいります。



次回は創業者の想いを引き継ぎ、さらに広げていく2代目・知名亜美子のストーリーをお届けします。 





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