日本の住環境に合わせて進化したスマートロック。安定通信と簡単取り付けでヒットした次世代の鍵「LINKEY Plus」開発メンバーがその挑戦の裏側を語る
IoT時代の幕開けとともに、Bluetooth搭載スマートロックの先駆けとなったLINKEY。そして、初代LINKEYの通信の距離や安定性という課題を解消すべく開発されたLINKEY Plus。両者の開発のきっかけとなったのは、各時代の最先端のIoTでした。
電子錠大国である韓国の開発元との海を隔てたプロジェクトは、決してたやすいものではありませんでした。しかし、数々の困難を乗り越えて完成したLINKEYシリーズは、今や株式会社ユーエムイーの顔ともいえる商品に成長し、宿泊施設や住宅の玄関の次世代の鍵として浸透しつつあります。
この記事では、初代LINKEYおよびLINKEY Plusに関する、社員も知らないエピソードを公開します。開発メンバーと当時の出来事を振り返り、運用メンバーも交えてこれからのLINKEYシリーズについて語り合いました。
きっかけは「FineLock」の失敗。日本市場向けのスマートロックを求めて初代LINKEYの開発を開始
ーLINKEY Plusのお話をうかがう前に、まずは初代LINKEYを開発するきっかけを教えていただけますか?
井出:初代LINKEYの前身として、FineLockという商品がありました。韓国でかなりヒットしていた新しくて見た目も良い鍵で、「同じような国民性と気候を持つ日本でも売れるのでは」と、同じものをそのまま日本市場に導入しました。
しかし、日本と韓国の住宅は、まったくの別物でした。韓国の集合住宅の玄関ドアはホテルのように屋内にあることが多いですが、一方の日本はほぼ屋外のような環境にあります。開発元の想定以上に直射日光が長時間当たって、液晶画面のひび割れや内側の破損が起こりました。
そして使い物にならないからと撤去しようとすると、固定用のネジ穴がドアに残る。結果として日本向きではなかったんですね。初代LINKEYの開発は、FineLockの反省点や弱点を補うべく始まりました。
ー当時、通信できる鍵はすでに存在したのでしょうか?
前田:コードレス電話などに使われていた433MHz帯という通信規格を通じて、リモコンなどで開け閉めする鍵はありました。ただ、インターネット経由での鍵の開閉、スマホやタブレットのようなモバイル端末からの操作という発想はありませんでした。
その頃はすでに初期のBluetoothがありましたが、消費電力も多く、鍵に搭載しようといった考えはまったくありませんでした。
Bluetoothの進歩により、鍵がインターネットにつながる時代に。初代LINKEYの完成
ーその状況から、どのようにしてインターネットにつながる鍵の開発に至ったのでしょうか?
井出:韓国での開発会議に呼ばれた当初、私は新商品の開発には反対するつもりでいました。FineLockの販売台数について開発元の押しが強く、胃が痛くて眠れない夜を過ごしていましたし、FineLockはクレーム対応に苦労した商品でしたからね。
現地に着いた夜、JEIという国産電気錠メーカー(初代LINKEYの開発から参画いただいたパートナー企業)と会いました。彼らと前田さんとの会話を聞いて、私は心変わりしたんです。
前田:私は入社したばかりの頃でしたね。新しい鍵の開発を手伝ってほしいとのことで、急遽一緒に韓国に行きました。JEIさんとの会食の席で、Bluetooth 4.0、Bluetooth Low Energy(BLE)というものがリリースされて、 消費電力が非常に少なくなったという話を聞きました。これなら鍵をインターネットにつなげることができる時代が来るのではないか、と。
これが2013年頃のことで、スマートホームやIoTという言葉がいろいろなところで登場するようになり、非常に盛り上がった時代でした。
井出:開発元はずいぶん前から日本市場に合うように研究開発をしてくれていたようですが、やはりIoTがなければプロジェクト開始に至らなかったかもしれないですね。
ーその当時のIoT技術の発展と、鍵にIoTを搭載するという思いつきがあったからこそ生まれた商品だったのですね。LINKEYというネーミングはどなたが考案されたのでしょうか?何か由来はありますか?
井出:私が思いつくままに挙げた5~6個の候補の中から、社員の人気投票でトップだったものが選ばれました。
前田:ネットにつながる鍵という由来で、リンクとキー(鍵)を合体したような名称です。
ー急速に開発が進み、初代LINKEYは2014年12月に販売開始しましたね。
前田:おそらく日本ではBluetoothで通信する最初のスマートロックです。「一緒に何か開発できないか」と話を聞きに来られる企業さんもいて、1年後くらいに競合製品が現れ始めました。
賃貸向けという当初の想定とは異なり、当時なぜか民泊が流行り始めて宿泊事業者に多くご購入いただきました。
新しい技術を採用し安定した通信を実現。LINKEY Plusの誕生
ーLINKEY Plusを開発することになったきっかけを教えてください。
前田:初代LINKEYのリリースから7~8年経った頃でした。そろそろ新商品を出したいと、当時すでにメジャーになっていたスマホでの直接操作、アプリ対応を搭載した後継機を開発することになりました。
井出:初代LINKEYはほぼ完璧な商品でしたが、唯一の弱点である通信の課題を解消するという目的も大きかったですね。
前田:そうですね。Bluetoothは非常に優れた規格ではあるのですが、通信できる距離はそれほど長くありません。
IoT機器は消費電力が少なく電波の出力も弱いので、ほかの電波と干渉すると不安定になって負けてしまうことがよくあります。そうすると通信にノイズが入って、正しく情報のやり取りができないんですね。LINKEYでいうと、遠隔操作したいのにBluetooth通信ができなくて、「開錠」の操作をしたのに開かないといった現象がよく発生していました。 そういった干渉を避けられる通信規格を搭載したいというのも、後継機の開発を始めた一つの理由でした。
ーその課題はどのようにして解決に至ったのでしょうか?
前田:日本では比較的珍しかったZ-Waveという電波の規格を使ってみることになりました。Bluetoothと同じ2.4GHz帯ではなく、900MHz帯という周波数が低い電波です。
Z-Waveの利点は二つあります。一つ目に、900MHz帯はあまり使われていないので、単純に干渉する対象が少ないこと。二つ目に、より遠くまで安定して通信ができることです。ちょっと特殊な用語ですが、周波数が低い電波は「回折性(かいせつせい)がある」と言って、障害物にぶつかっても吸収されたり反射したりしてなくなってしまうのではなく、電波が回り込んで対象に飛んでいくような性質があるんですね。
これにより、多様な環境下でも柔軟で安定した通信ができるようになりました。
海外企業との提携における課題。文化による商習慣の違い
ー開発は韓国企業に委託していますが、大変だったことはありますか?
前田:日本との文化や商習慣、性格の違いなど、いろいろありましたね。例えば、納期があまり厳密ではない傾向があります。
特にゲートウェイに関して、もともとは現在の開発元(ネクストドライブ社)とは別の会社に開発を委託していました。しかしお金を支払っていたのにうまく開発が進まず、結局「やはり作れませんでした」と謝られ、仕方なく返金してもらいました。
本来はLINKEY Plusのリリースと同時にリモートプランも提供する予定でしたが、その影響で、 リモートプランのリリースが半年から1年程度遅れることになりました。これがLINKEY Plusにおいて一番大変だった部分ですね。
それから、やはり言語の違いがあります。初代LINKEYもLINKEY Plusも開発側は韓国で、お互いネイティブではない英語でやり取りするのでどうしてもうまく伝わらない部分がありました。直接話をする際はホワイトボードに絵や図を描いて説明すると意外と通じることもあるのですが、LINKEY Plusの開発をしていた時期はコロナで出張できず、Web会議のみだったので本当に苦労しました。
技術面では、Bluetoothの場合は自分たちで検証することもできるのですが、LINKEY Plusに搭載するZ-WAVEには汎用品のゲートウェイがなくて、自分たちで検証できないんです。開発の舵を握れなくてもどかしい思いをしました。
ーその障壁はどのようにして乗り越えたのですか?
前田:納期に関しては、怒るしかなかったですね(笑)
現実的な解決策としては、サンデジタルシステム(LINKEY Plusの開発元に対して発言権を持つ、韓国企業の日本法人)に間に入ってもらい、韓国語の通訳を受けられるようになったことで、コミュニケーションの精度やスピードが上がり、こちらの怒りのニュアンスも伝わるようになりました。
LINKEY Plusの販売開始とスマートロック市場の反響。簡単な取り付け方法が人気の理由
ーさまざまな課題を乗り越えて、LINKEY Plusは2020年11月に販売開始しましたね。
前田:おかげさまで、これまでにLINKEYシリーズ累計で2万4,000台ご購入いただいています。
ーLINKEY Plusが選ばれる理由は何だと思いますか?
前田:大きな特長は、簡単に取り付けられることです。LINKEY発売当時の電子錠は、当社のFineLockのように、ドリルで扉に穴を開けて取り付けていたんです。そのため原状復帰できないことが大きなデメリットでした。
中村:ドライバー1本あれば誰でも簡単に設置できるような構造が、LINKEYからLINKEY Plusまで受け継がれていますよね。 もちろん施工は当社でも行いますが、ご自身での設置も可能であるという点は画期的だと思います。
前田:なぜか日本の鍵にはさまざまな種類があり、それらに合うように開発するのは大変なんですね。しかも後付けが可能な鍵として開発されたのがLINKEYやLINKEY Plusです。
スマートロックには両面テープで貼りつけるタイプがありますが、これは長く使っていると両面テープが剥がれてきてしまいます。施工が簡単なのにしっかり取り付けられることが、LINKEYやLINKEY Plusの特長です。取り付けは簡単だけど信頼性が低い商品と、がっちり取り付けられるけれど工事が大変で扉に傷がついてしまう商品の、いいとこ取りともいえます。これはほかのスマートロックの中でも際立っていると思います。
そのほか先ほどお伝えした通り、スマートロックはBluetoothなどで通信するものが一般的ですが、LINKEY PlusはZ-Waveという規格を使っていることがほかと違う部分ですね。
ー取り付けといえば、中村さんが現場で施工をしていた頃の話を聞かせてください。LINKEYの評判はいかがでしたか?
中村:ホテル、民泊、無人店舗、賃貸マンション、持ち家の戸建てなど、幅広い現場に携わることができました。
まだまだ珍しい商品なので、現場でのリアクションは新鮮なものが多かったです。戸建ての入居者の方がわくわくした様子で操作方法の説明を聞いてくださったり、ほかの方に自慢していたり。現場で別の仕事をしている職人さんから「これ何なの?」「自分も買ってみようかな」と声をかけていただいて、名刺をお渡ししたこともあります。
LINKEYシリーズの今後の展望。IoTメーカーとしての技術革新への姿勢
ー最後に、LINKEY Plusの後継機を開発するとしたらどんなものを作りたいですか?
前田:今まで太田さんと中村さんには企画をしてもらい、開発の部分は私が行っていましたが、これからはお二人が主となって開発に携わってもらいたいなと思っています。新商品を作るなら、というビジョンをぜひ聞かせてください。
太田:一つは省電力で長く使用できるものを作りたいです。初代LINKEYもLINKEY Plusも単3乾電池を4本使用し、1日10回の開錠で約1年持ちますが、室数の多いホテルなどでは、電池を替えるのって結構大変だと思うんです。バッテリーを3年から5年くらい替えずに使用できるロックを作りたいという願望があります。
もう一点、現行のLINKEY Plusは1台につき、ゲートウェイが1台必要です。詳しいことはまだ明かせないのですが(笑)、ゲートウェイ1台に対して本体を複数台接続できるようにしたいです。ホテルの1フロアが20室だとすると、2フロアくらいはまかなえるような通信を提供したいですね。
中村:私は、生体認証など認証方法を増やして、よりストレスなく開錠・施錠ができるようなシステムを開発したいです。
それから、現行機器ではインターネットとつなぐためにゲートウェイを使っていますが、これを使わずに本体が直接インターネットとつながるような仕組みを作れたら、料金形態も分かりやすくなりますし、価格も下げられるかなと思います。
IoTメーカーを名乗っている以上、生活をより便利に豊かにするために、時代ごとのトレンドをしっかり追って、最新の技術を勉強していきたいです。LINKEYはあくまで鍵なので、何でもかんでも詰め込んでしまうのではなく、玄関のセキュリティを守るという責任を意識した上で実現可能な技術を選定して、問題点の洗い出しや修正を行うことで貢献していけたらと思っています。
ー次なるIoT時代が到来しようとしている今、これからのLINKEYシリーズも潮流に乗って一段とグレードアップする予定です。どうぞご期待ください!
聞き手:株式会社ユーエムイー マーケティング部
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