日立グループ講演レポート|「生産性を高める5つのステップ ~AIと脳科学の融合」マージー・ミーチャム 氏
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株式会社日立アカデミーは、日立グループの人財育成を担うCenter of Excellence(CoE)として、「事業起点の人財育成」と「個人の成長意欲に基づく学び」の加速をめざし、多様な角度から刺激し視座を高めるための「学びの場」づくりを推進しています。
この取り組みの一環として、2023年12月に日立グループ向けのイベント「Hitachi Academy Open Day 2023」を開催しました。このイベントは、各界著名人の講演や対談を通じて参加者が新たな知識や視点を得、より良い未来に向けた一歩を踏み出すことを目的としています。
イベント当日は、「AIと人類の共存」をテーマに、株式会社電通デジタルの大木真吾氏、オムロン株式会社の諏訪正樹氏、脳科学者の茂木健一郎氏、MBZUAIの客員教授である乾健太郎氏、映画監督の押井守氏、教育学と学習分野の専門家であるマージー・ミーチャム氏など国内外の多彩なスピーカーを迎え、多くの示唆をいただきました。
ここでは日立アカデミーが本イベントを通じて実現する、学びの一部を紹介いたします。
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「生産性を高める5つのステップ ~AIと脳科学の融合」
Learningtogo Chief Freedom Officer
マージー・ミーチャム氏
Learningtogoのチーフ・フリーダム・オフィサーを務めるマージー・ミーチャム氏が専門とするのは、教育や学習の分野で学習効率や生産性を向上させるための神経科学の実践的応用だ。「ブレイン・レディ」と呼ばれる彼女が、人間の脳とAIを連携する方法と、それを生かして暮らしや仕事で生産性を向上させるための、今すぐに実践できる5つのステップを紹介する。
*本セッションは、事前に録画されたプレゼンテーションを放映し、そのあとにミーチャム氏を交えてのライブQ&Aが続く形で行われました。
「学習能力が遅い」と呼ばれた子供が切り拓いた、「神経科学」と「AI」の連携から生まれる変革
「6歳になる頃、文字の読み方がわからないことに気づきました。文字の意味が全く理解できなかったのです。ある日、両親が学校に呼び出され、校長室の外で一人待っていた私は、校長が両親に、私が“学習能力が遅い子ども”だと言っているのを扉の向こうで聞いていたのです」
ストーリーは、ミーチャム氏が彼女の幼い頃の体験を語るところから始まった。ミーチャム氏にとって幸いだったのは、彼女の両親や妹が献身的に彼女の学習のサポートをしてくれたことだった。そして、この幼少期の困難な体験こそが、彼女が「人間がどのように学ぶか、そして自分はそこにどのように役立てるか」に興味を持ったきっかけであり、今もずっと彼女にこの道を探求させ続けている。
「ブレイン・レディ」とまで呼ばれるようになったミーチャム氏だが、あるとき、人工知能と神経科学の分野が融合し始めていることに気付く。どちらの分野も神経回路を理解し、最適化することを目的にしていた。
ただ同時に、自分の専門分野が他の多くの分野と比べて、人工知能の活用という面で遅れを取っていることにも気がつき、落胆を隠せなかった。この気付きが、彼女が二冊目の著書「AI in Talent Development: Capitalize on the AI Revolution to Transform the Way You Work, Learn, and Live(AI革命が変える人材開発: AI革命を活用して仕事、学び、生活の在り方を変革する)」を執筆するきっかけとなった。
「神経科学が可視化したものを、AIが実行可能なものにしてくれるのです。AIと神経科学のクロスオーバー(交差)の仕組みを理解できれば、私たちの認知的経験に大きな変化が現れます」とミーチャム氏は言い切る。
仕事、学業、または私生活の中で、より効率良く、生産的でありたいと誰もが希求しているだろう。しかし実際は、なかなかうまくは運ばない。ミーチャム氏が提唱する、神経科学とAIに基づいた5つのステップが、その課題解決の糸口になるかもしれない。
効率と生産性の高い毎日を送るための5つのキーステップ
STEP 1:ウルトラディアンリズムを特定する
神経科学によると、私たちの体力や気分は、一日を通じて一定のパターンの元に変動している。人間には「ウルトラディアン(超日周期の)リズム:数十分から数時間単位で生じる短期的な生体リズム)」があることが分かっており、高パフォーマンスと低パフォーマンスがおよそ90分ごとに交互に現れる。日中に高パフォーマンス時が発生するときに合わせて仕事や作業に取り組むと、生産性がピークに達しやすいということも解明された。
そこで重要なのは、自分の生産性のピークタイムを見つけることだ。物事を分析したり、深く物を考えたりする作業に、最も速く、持続力を持って取り組めると感じる時間を記録し、生産性が特に高まる時間帯に、集中力や考察を要する作業を組み立ててみよう。
STEP 2: 自律型AIを使用したタスクの自動化と振り分け
既にAIによってさまざまなタスクの自動化やアウトソーシングが進んでいる。会議のスケジュール管理やコンテンツの校正、仕事の引継ぎ、原稿の作成など、日常に散らばる小さな、しかし多くの負担が軽減され、より重要性の高いクリエイティブな仕事に集中することができる。
反復的、管理的タスクを選別し、それらのタスクを自動化できるAIツールを探し出せれば、作業のアウトソーシングが可能となる。ただし今のところ、業務の全てをカバーできるAIはまだ存在しないため、いくつかのツールをうまく組み合わせ、あなただけの“AIアシスタント軍団”を構築できるといいだろう。
STEP 3:脳を活性化させるための適度な運動
軽い運動をすることで、ドーパミンが即座に分泌され、やる気や集中力に関連する脳の部分を刺激すると言われている。長時間デスクに座っているときやミーティング中に、軽いエクササイズを取り入れることで、モチベーションやインスピレーションが維持できる。自分の脳に合ったエクササイズを見つけられれば、より効果的に生産性を向上させ、クリエイティブな思考に満たされることは難しくない。
STEP 4:同じレベルの集中力を要するタスクの一括処理
神経科学によると、脳が一度に処理できる高度な認知処理を伴うタスクの量は限られている。行動や集中を向ける先を切り替えるたびに、膨大なエネルギーが費やされることから、似たようなタスクをまとめて処理することで、脳への負担を減らし、1つのプロジェクトに集中しやすくなる。
AIのスケジュール管理ツールを使用すれば、個々の作業状況をモニタリングして、業務全体のスケジュールをチーム全体で一括管理することも容易になる。従業員の生産性を示したマトリクスをトラッキングし、個々で作業に集中する時間と、他の人と関わりながら作業する時間を算出し、カレンダーを自動的に最適化することが可能だ。
STEP 5: AIを活用した目標とベンチマークの設定
AIを活用すれば、目標やベンチマークを明確にでき、プロジェクト全体のモチベーションやタイムラインの維持、迷走や先延ばしを防ぐことができる。パフォーマンスが最大限発揮できるタイミングを司る神経生物学的なパターンを理解し、優先順位の低い作業を自動化したり、データに基づいた目標設定を行うツールを効果的に導入することが理想だ。
5つのステップはさらに深遠な説明に向かっていく。
「しかし、日々たくさんタスクに埋もれた状態では、クリエイティブになることはできません。先に紹介した5つのステップは、内在的なクリエイティビティを目覚めさせるきっかけを生みます。そして、脳のクリエイティブな側面を十分に引き出すには、さらなるステップが必要なのです。続いては、神経のメカニズムとAIの両方を組み合わせ、画期的なアイデアを引き出すためのステップについてお話しましょう」
脳をさらにクリエイティブに ― ネクストレベルの5つのキーステップ
STEP 1:驚きを求める
脳がルーティン化した思考から抜け出すには、刺激が欠かせない。予想外な展開の物語、メディア、環境の変化など、想定外のことが起こると、脳は警戒し、それがクリエイティビティの燃料となる。日常パターンに大きな変化を与え、脳に新しい神経経路を強制的に発生させることで、潜在的なクリエイティビティを刺激しよう。
STEP 2:意図的に空想する
特にクリエイティブでありたいとき、その前後に、空想する時間を意図的に確保してみよう。自然に囲まれた静かな場所やアートのそばなど、携帯電話やデバイスに邪魔されることのない環境に身を置き、空想を思いっきり楽しんでほしい。インスピレーションが生まれやすい環境で集中力が高まったとき、革新的なアイデアが生まれる。
STEP 3:二人組で素案やアイデアを作成する
手作業でスケッチを描いて案を書き出すことで、言語と非言語の作業が組み合わさり、斬新なアイデアが生まれる。特に、二人組で取り組むのがおすすめだ。思いつくままに案を出しながら、比較的難しい課題についても同時に話し合う。できれば1時間ごとにパートナーを交代してみよう。誰かと一緒に取り組む、触覚と視覚の双方を用いたアプローチが、脳の潜在的なクリエイティビティを解き放つ。
STEP 4:AIのブレインストーミング力を活用する
アルゴリズムは、人間の脳では絶対に不可能な量の情報を網羅し、それらをリンクさせることで、アイデアの生成を飛躍的に拡大してくれる。AnthropicのClaudeなどの強力なAIツールは、何百もの新しいアイデアを生成したうえで、しかし状況にぴったりの新しいコンセプトだけを抽出することもできる。AIの広大な視野から浮かび上がった最も有望なアイデアだけを取り入れ、磨きをかけよう。
STEP 5:アルゴリズムでアイデアをキュレーションする
AIを使うことで、たくさんのアイデアが生まれるのはありがたいが、必要以上の量になることもしばしばだ。そんなときは、有望なアイデアの種は成長させ、逆に行き詰まりそうなものは早めに摘める、効果的なキュレーションが欠かせない。Imageneやそれに似たプラットフォームに新しいアイデアを与え、目標やオーディエンスを考慮しながら、育てる価値のあるアイデアを見つけ出そう。
ミーチャム氏を交えてのライブQ&Aセッション
スライドでのプレゼンテーションが終了したあと、ミーチャム氏も参加してのライブQ&Aの時間が設けられ、参加者たちから興味深い質問が次々とミーチャム氏に投げかけられた。
Q:AIを日々の業務に取り入れていくために、何を意識すればいいでしょうか?
A:まず自分がAIを使って何をしたいのか、何ができるかを理解することです。試しに、ChatGPTなど、自分の手元にあるデバイスですぐに使える何らかのツールを使ってみるのをおすすめします。例えばChatGPTはブレーンストーミングのパートナーに最適だと思います。生成AIをアシスタントに見立ててやり取りをすることで、自分一人で考えていたときには出なかったアイデアが、コミュニケーションを通して発見できることもあります。ただ、個人情報の扱いには注意していただきたいです。
Q:私も学習に困難を抱えています。文字が読めなかった幼少期、たいへんなことも多かったと思いますが、どのように乗り越えましたか?
A:当時は、私のような学習に困難を抱える子どもにどう対応したらいいか、教育者側も経験が少なかったので、本当にさまざまな体験をしました。しかしそれが私に教育への関心を抱かせたわけです。文字を読むことは難しかったですが、書くことや映像を見るなどして、脳に情報をインプットしていました。特に、書くことで脳に情報を効果的に覚えさせていくという方法が有効だったように思います。耳で聞いて学習することも有効だと思います。
Q:日本には、対面でないと仕事ができないと思っている人もまだ多くいて、AIの導入に否定的な風潮もあります。デジタルツールに否定的な人にどういうアプローチをすればいいでしょうか?
A:その根源は、わからないものへの恐怖だと思います。人間は本来、変化を嫌う生きものですから、当然の反応でしょう。しかし、最初は抵抗があるかもしれませんが、やってみたらそれほど大変なことでもないと、わかることも多いはずです。パンデミックのときが良い例です。オンラインやリモートが半ば強制的に全範囲に導入されたことで、デジタルは怖くないと理解できた人も増えました。一歩一歩経験を重ねていくことで、その恐怖は取り去ることができると思います。
セッションの最後を、ミーチャム氏はこう締めくくった。
「AIは、膨大な情報を処理できますが、全てを理解しているわけではありません。最終的に、未来を作り、残るのは、人間の脳だと私は思っています。変化を嫌うのが人間の本質ではありますが、変化を受け入れなければ、それは人類の危機につながるでしょう。学び続けてください。学び続けることで、未来に備えましょう」
登録商標
- ChatGPTはOpenAI社の商標または登録商標です。
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