「空飛ぶクルマ」によるモビリティ革命 積水化学が独ヴォロコプター社と資本提携し見据える未来
2025年開催の大阪・関西万博で複数企業が国内初の商用運行を目指しているeVTOL(電動垂直離着陸機)、いわゆる「空飛ぶクルマ」のニュースが増えてきている。2023年12月11日には独ヴォロコプター社などが大阪湾岸のヘリポートでパイロット操縦の実証飛行を実施した。
「空飛ぶクルマ」とはそもそもなにか?
「空飛ぶクルマ」は少人数の定員で自動車のように日常的に利用できる空中を移動可能な乗り物のこと。つまり、概念的な意味での「クルマ」を指している。実際の形は巨大ドローンに近い。飛行機でもない、ヘリコプターでもない、新しい空中移動手段として注目を集めている。
ポントワーズ・コルメイユ(仏)での実証飛行の様子
「交通渋滞は世界中のさまざまな都市における大きな課題です。空飛ぶクルマの取り組みは、スペースの残っている“空”を用いた、より速く、快適な移動手段を提供するものになります」
そう話すのは積水化学の経営戦略部経営企画グループの永井健人だ。永井は積水化学が取り組むCVCで冒頭の独ヴォロコプター社と資本業務提携を交わし、空飛ぶクルマに取り組んでいる。
積水化学工業 経営戦略部経営企画グループ 永井健人
「道路のようなインフラが必要なく、離島への移動、湾の横断など直線距離での移動による新しい交通体験をもたらします。加えて、現在開発されている機体のほとんどが電動駆動であり、排出CO2の削減にもつながる可能性があります」
空中移動手段として、飛行機やヘリコプターとの違いはどうだろうか?
「高度1万mを飛行する飛行機やプライベートジェットと異なり、空飛ぶクルマは上空数百メートルの高度で運行を行い、数十kmから数百kmのより近距離での輸送を担います。また、同様の空域を飛ぶヘリコプターより、非常に騒音が少なく、都市型の交通システムに適した機体となっているのが違いです」
空飛ぶクルマは「近くて遠い」を「近い」に変えるモビリティ
私たちが自動車などで移動する際、直線距離で行けば近いのに、実際に道路に沿って走ることで遠くなるケースはよくある。これは交通の考え方が事前に引かれた「線」であることが原因だ。いわゆる交通網とは道路などの「線」が重なり合って「網」となっている。つまり目的地に行くためにはこの網の目のように敷かれた交通線を使わなければならない。実はこれは陸路だけでなく海路や空路も同様だ。
この線から逃れられるのがヘリコプターだ。ヘリコプターは出発地と目的地を点と点で結び、最短距離で移動ができる。ドクターヘリなどは、この特性を生かした仕組みだろう。ただし、永井が話したようにヘリコプターは騒音が問題となり、離着陸できる場所は限られている。日常使いというのには少々無理が生じる。一方、空飛ぶクルマは電動駆動であり、騒音が少ない。
積水化学がなぜ「空飛ぶクルマ」に挑戦するのか
積水化学では2019年、航空業界向け部品メーカーのAIMエアロスペース社を買収(現・積水エアロスペース)した時から空飛ぶクルマ市場への参入に向けた調査を継続して行ってきたという。
「積水化学では航空、自動車、エレクトロニクスや他の事業で培った技術を活用し、空飛ぶクルマ事業の実現を支援することを目指しています。さまざまな技術を持つ積水化学だからこそ、さまざまな分野での貢献ができるのではと考え、そのために市場が立ち上がる前の早い段階から独ヴォロコプター社との連携を開始し、協業可能性の検証を進めています」
航空機の開発や生産、実際の運航サービスを行うためには各国でさまざまな認証への合格や許認可の取得を行う必要がある。同社が資本提携をした独ヴォロコプター社は特にヨーロッパにおいて、それら認証取得への取り組みが最も進んでいる企業の一つだった。開発機体の完成度も高く、多くの回数のフライトテストもこなしている。
「現在、双方のメンバーで定期的にミーティングを行いつつ協業を進めている段階です。ヴォロコプター社はドイツの企業ですが、空飛ぶクルマの事業化はグローバルで共通したトレンド。積水化学からも米国、ヨーロッパ、日本のさまざまな拠点から同社との連携プロジェクトに参加しています」
空飛ぶクルマ実現への課題は多々あるが、例えば素材の丈夫さは当然のことながら、それと同時に軽量性を求められる。自動車ももちろん軽量化を求められるが、空を飛ぶためには要求水準はより高くなる。
「例えば炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics(CFRP))は軽くて強く、腐食しない特徴があり、航空機などにも採用されています。2019年に買収したエアロスペース社もこのCFRPを成型し、航空宇宙機器メーカーに供給しています。まずは、このような材料面で私たちは空飛ぶクルマ実現への貢献を目指しています」
CFRPは旅客機のパーツなどに使われるが、量産加工が難しいとされてきた。しかし、エアロスペース社はより量産に適している、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics(CFRTP))の自動加工技術も確立している。旅客機と比べ、タクシーのように大量に機体が必要とされる空飛ぶクルマでは、こうした材料の品質はもちろん量産体制が求められる。
「手作り工程がなくなれば、コストも抑えながら量産も可能となります。上記の技術はすでに航空業界でも評価されているが、空飛ぶクルマ事業においてはよりインパクトが大きいのではないかと、楽しみにしています」
空飛ぶクルマを実現させるためには機体の開発に限らず、法整備・規制面での変革も必要となり課題は多い。「それでも誰しも急ぎたい時や、短時間で移動したい時の手段は欲しい。新しいモビリティを生み出し、交通渋滞などの社会課題を解決するためにチャレンジしていきたい」と永井は話す。「万博は始まりでしかなく、日常使いができるようになるまで、さまざまな形で業界に貢献していきたいですね」
人々の移動手段として1900年頃に主流だった馬車が、自動車に変わるまでの時間はわずか10年余りだった。1913年のニューヨーク五番街の写真には1908年に出荷が始まったT型フォードの1号機であふれかえる道路が写し出されている。同じエリアで撮影された1900年の写真では道路にあふれかえるのは馬車だった。
今はまさに、これと同じくらいのモビリティにおける大変革が起きようとしている。誰もがタクシーのように手軽に乗れる空飛ぶクルマに、私たちが乗車する日は近いかもしれない。
(関連リンク)
リリース:次世代エアモビリティを開発・製造する「Volocopter GmbH」との資本業務提携について
https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1384811_40075.html
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