45年に渡る進化の歴史 共和電業のエンジニアたちが語る静ひずみ測定器「UCAMシリーズ」開発ヒストリー
長い歴史を持つ企業には、時代のニーズを的確に捉え、その業界に大きなインパクトをもたらした、エポックメイキングな製品やサービスが存在するものです。たとえば、株式会社 共和電業の静ひずみ測定器「UCAM(ユーカム)シリーズ」。物体のひずみを測定するひずみゲージで知られる共和電業ですが、日本の静ひずみ測定器の歴史もまた、共和電業の歴史とともにあると言っても過言ではありません。「UCAMシリーズ」の開発に携わってきた5名の技術者に、「UCAMシリーズ」の開発秘話や、その歴史、そして、今後の展望などを聞きました。
【インタビュイー】
石井啓介:株式会社 共和電業 標準器室 室長
石川輝 :株式会社 共和電業 技術本部 商品開発部 測定器グループ 主任
野崎弘行:株式会社 共和電業 技術本部 商品開発部 測定器グループ
生沼伸夫:株式会社 共和サービスセンター 代表取締役社長
岩崎俊二:株式会社 共和サービスセンター 取締役
日本の“静ひずみ測定器”の先駆け。「UCAM」シリーズのヒストリー
――「UCAMシリーズ」とは、どのような製品なのでしょうか?
生沼:共和電業は、ひずみゲージを使ってさまざまな計測を行う会社ですが、国内で初めてひずみゲージの商品化に成功したメーカーである当社が提供する静ひずみ測定器が「UCAMシリーズ」です。静ひずみとはダムや橋といった構造物のストレス・たわみなどの現象、動ひずみは目に見えるような速い現象のことで、「UCAMシリーズ」は主に静ひずみを高精度に測定することを目的としています。製品の型式を示す“UCAM”は、Universal Computer Assisted Measuring Systemの頭文字を取ったものです。発売当初は、“ユーシーエーエム”や“ユーキャム”と呼ぶ人も多かったですが、今日の計測業界では、共和電業の静ひずみ測定器イコール“ユーカム”と言われるようになりました。
――「UCAMシリーズ」のこれまでの歴史を教えてください。
生沼:「UCAMシリーズ」は、「デジタル多点ひずみ測定装置SDシリーズ」を引き継ぎ、昭和54年に誕生しました。アナログ時代のSMシリーズから始まり、デジタル時代のSDシリーズへと移り変わり、そして、時代がコンピュータへと移り変わるタイミングで「UCAMシリーズ」が開発されたのです。記念すべき第1号は、型式からもわかる通り、当時市販され始めたマイクロコンピュータなどの新技術を導入した「UCAM-8」です。キーワードは、オールインワン。それまでは純然たるアナログで測定していたところを、マイクロコンピュータを使ってデジタル化し、オールインワンで測定できる測定器を作ろうというのが開発のきっかけです。表示器やプリンター機能、操作キー、キーボード接続機能など、当時の先端技術が盛り込まれた革新的な1台でした。
野崎:昭和56年に発売した「UCAM-5」は、より幅広いお客様に使ってもらえるよう、「UCAM-8」を低価格化・小型化した製品で、背面に10点入力部を設けていました。共和電業は元々、建設・建築現場でのひずみ測定に強い会社でしたが、「UCAM-5」の発売によって、大学の実験室などからの引き合いが増えたのを覚えています。その後、昭和59年に発売した「UCAM-100A」で最速スキャニング速度の飛躍的な高速化を実現し、これによって航空宇宙分野にも導入されました。ロケットの筐体にひずみゲージを張って、さまざまな試験が行われたことを覚えています。
石井:昭和60年には、「UCAM-5」を高速化した汎用型の「UCAM-10」を発売し、その後も、平成3年に多機能化・グラフモニタを採用した「UCAM-70A」、平成7年にパソコン制御の始まりとなる「UCAM-20PC」、平成15年に高分解能化を実現した「UCAM-60A」を発売します。その時代時代で、「今の市場で求められているものは何か?」を考え、ニーズを汲み取り、共和電業が持つ高い技術力で製品化を実現してきたのです。そうした進化の系譜を受け継ぐ1台として、令和5年には、タッチパネルを搭載した最新モデル「UCAM-80A」を市場に送り出しました。
パソコン制御モデルとしてリリースしたUCAM-20PC
膨大なトライアル&エラー。「UCAMシリーズ」開発秘話
――製品開発における印象的なエピソードや、苦労したことを教えてください。
生沼:「UCAMシリーズ」に求められているのは、何と言っても高い信頼性と測定精度であり、たとえ過酷な環境下で使用されても、確かな測定精度を担保しなければなりません。そういう意味で、苦労したのは製品の評価試験でした。たとえば、1000点のひずみを計測するとなると、1000個のスキャナーを並べなければいけないわけですし、温度を変えて何度も試験するなど、想定される現場の環境を再現し、きちんと精度を保てるかどうかを試験しました。もしかすると、設計している時間よりも、評価している時間のほうが長かったかもしれません。とにかく、やらなければならない作業が膨大でした。
石井:「UCAM-20PC」は、パソコンがないと動作しない測定器でしたが、開発にあたり、生沼がノートPCを購入してくれたんです。当時はノートPCを1人1台持っているような時代ではなかったのですが、購入してくれたおかげで、生き生きと開発に打ち込めたのを覚えています。遡ると、「UCAM-70A」の開発では、当時流通し始めていたメモリーカードを購入してもらって。何百ページに及ぶ海外の仕様書を読み、悪戦苦闘しながら日々を送っていたのを覚えています。時代ごとに変わっていく最先端のツールに触れられる、そんな環境を整えてくれたので、とても楽しい毎日でした。
岩崎:ノイズの影響でほんの少し測定値がずれたり、ぶれたりするのですが、それを正確に、ピタリと止めなければなりません。その測定精度を担保するのが苦労した点ですね。ほかにも、-25℃から50℃までなど、温度試験を繰り返し行ったのも骨が折れましたが、今となってはよい思い出です。
――最新モデル「UCAM-80A」の開発について、どのような課題や狙いがあったのでしょうか?
タッチパネルを採用したUCAM-80A
石川:筐体設計には多くの時間を使いました。デザイナーがデザインしたものを基に筐体設計するのですが、コストの問題や、組み立てやすさの問題などがあり、デザイン通りの筐体に仕上げるのは簡単ではありません。デザインを活かしながら、どのように機能を落とし込んでいくか。そのバランスを取るのが大変でした。そのようななかでこだわったのは、組み立てのネジをなるべく見えないようにすることです。板金の継ぎ目にはどうしてもネジが必要になりますが、なるべく見えないように、すっきりと。筐体の隙間から粉塵などが入ったとしても、中の電気系統には触れないように考慮したのもこだわったポイントですね。
石井:タッチパネルの搭載についても、デザイナーとエンジニアで喧々諤々があった部分です。「UCAMシリーズ」は主に、土木などの現場と、大学などの研究開発用の2分野で使われることが多いのですが、現場からは、「軍手をしたままでも操作できるようにしてほしい」という要望があり、それがある種の神話として、「UCAMシリーズ」の開発に影響を及ぼしてきたんです。しかし、「UCAM-80A」では研究開発市場をより積極的に開拓していこうという狙いがあったので、思い切ってタッチパネルを採用しました。
野崎:デザイナーが提案してくる凝ったデザインを犠牲にすることなく、実用性と機能性を担保しなければならないわけですからね、かなり苦労はしました。また、ターゲティングについても、さまざまな市場、職種を見ながら、「この人はこう使うだろう」というペルソナを作り、議論を重ねました。ターゲティングだけでも半年以上の時間をかけたと思います。
生沼:そういう意味で言うと、共和電業にはお客様のニーズを深く理解している担当者が多くいて、それをフィードバックしてくれるので、製品を開発するエンジニアも、「今、何が求められているのか」をしっかりキャッチできるんです。エンジニアとしては、とても助けになりますよね。大学をはじめとする研究開発分野はそれほど得意していなかった共和電業ですが、その領域をカバーできるという意味で、「UCAM-80A」はひとつの大きな転換点となる製品と言えるのではないでしょうか。
現場での見やすさと直感的に操作できるユーザビリティを実現
開発者たちが見据える「UCAMシリーズ」の未来
――そもそも、どのようなきっかけや思いで共和電業に入社したのでしょうか?
生沼:我々はいわゆる電気系の学生だったのですが、ほとんどのメンバーは、入社するまでひずみゲージを使ったことがなかったのではないかと思います。ただ、就職活動をする中で、幅広い事業を手掛ける共和電業の存在を知り、楽しそうだな、おもしろそうだなと。実際、入社してからはさまざまな仕事を経験でき、裁量も与えてくれて、充実した毎日を送ることができました。
石川:正直、当時はひずみゲージも共和電業も知らなかったのですが、ホームぺージに自動車の衝突実験を行っている映像があって。シンプルに、それを見ておもしろそうだなと思い、説明会に参加したのが入社のきっかけです。
――今後、「UCAMシリーズ」はどのような進化を遂げていくのでしょうか?
石川:センサーの無線化、ですね。無線化されたセンサーを「UCAM」に接続できれば、最大1000チャンネルに及ぶ膨大な配線作業を大幅に省力化できます。少子化や地方の過疎化などが進んでいくことが予想されるなかで、「手がかからない測定器」が求められていくのではないかと。また、「UCAM」で収集した多点計測データを、たとえば自動でクラウドに上げて、AIで処理するなど、そんな構想もあります。加速度的に進む情報技術の発展にも、しっかりと対応していきたいです。
生沼:「UCAM-60A」がそうであったように、新製品が世に出ると、「もっとこうしてほしい」「こんな機能も追加できないか」といったように、新たなニーズがどんどん出てきます。そうした声に真摯に耳を傾け、製品をブラッシュアップしていくことで、最新モデル「UCAM-80A」もまた、さらなる進化を遂げていくのではないかと考えています。
岩崎:今後は計測の先にある「制御」の部分にも力を入れていかなければならないと考えています。そうすることで社会貢献できると思いますし、共和電業にはそれだけの技術と経験があると自負しています。
野崎:65歳になり、まもなく退職するのですが、もしかすると、「UCAMシリーズ」の開発に携わっていなければ、ここまで長く働けなかったのではないかと感じています。「UCAMシリーズ」があったから、私の共和電業での人生があったのではないか、そんなことを思っています。
UCAM-80Aの詳細やお問い合わせは以下製品ページをご覧ください。
https://product.kyowa-ei.com/special/topics/ucam-80a
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